
アスペルガー47歳男性が苦労した社会との"同化" 発達障害から見れば定型発達こそ"変わった人" アスペルガー症候群の特性を持つケンイチさんは仕事で定型発達の人とたびたびトラブルになった。 「どうして定型の人は他人の足を引っ張るのか。彼らの感情は非論理的で理解しづらい。 定型の人がそうであるようにアスペルガーのほうも定型に違和感を覚えています 喫茶店で待っていると、ケンイチさん(仮名、47歳)が約束の時間ぴったりに現れた。手渡された名刺の肩書は合同会社社長。 連日の●人的な暑さについての愚痴をこぼし合いながら席に着く。 すぐに「私はここのリッチブレンドが好きなんですよ」と微笑みながらメニューを広げてくれた。 ケンイチさんにはアスペルガー症候群(現在の自閉スペクトラム症)の特性がある。 事前に「コミュニケーションの問題を改善したいので、不協和音を感じたら指摘してほしい」と言われていた。 しかし、会話のキャッチボールは心地よい。ただひとつだけ、視線が少し強いように感じた。一般的に同症候群の人は他人と目を合わせるのが苦手だとされる。 私が「もしかして私の目を見て話すよう努力してくれてますか?」と尋ねると、ケンイチさんは一瞬驚いた後、苦笑いした。 「めっちゃしてます。やっぱりわかるものですか?」。 物心ついたときから家族や友人と一緒にいても、自分は普通とは違う、浮いている、自分だけが嫌われている といった疎外感があった。ケンイチさんの体験に耳を傾けてみよう。 小学生のころ、親から「出ていけ!」と叱られ、本当に家から出ていったことがある。衝動的に飛び出したのではなく、ただ命令に従ったつもりだったという。 当たり前だが、すぐに見つかって「なんで家出なんてするんだ」とさらに怒られた。学生時代にいわゆるブラックバイト先の店長から「やる気がないなら帰れ!」と怒鳴られ 帰り支度を始めたときも「なに帰ろうとしてんだ。それくらいの気持ちで働けって意味だ!」とキレられた。 ●「定型の人はなぜうそをつくのか」 こうした経験から得た“教訓”は「定型発達の人の言葉を額面どおりに受け止めてはいけない」。定型発達とは発達障害ではない人のこと。 「定型の人はなぜうそをつくのか。本気じゃないなら言わなきゃいいのに」とケンイチさんは首をかしげる。 【中略】 卒業後は大手自動車メーカーに就職した。そのころ男女10人ほどでキャンプに行ったときのこと。 それぞれが火起こしやバーベキューの準備をする中、ケンイチさんだけは何もせずグリルの前に座っていた。 すると友人の1人から「自分で考えて動いてよ」と注意された。 ケンイチさんは友人らの指摘をどう受けとめたのか。 「話がおもしろくないなら、そのときに言ってくれればいいのにって思いました。 私だったら『その話、興味ないよ』と言いますね。それで嫌な気持ちになったりはしません」 キャンプ場での出来事については「周囲を見てもやることがなかったから座っていたんです。 それが定型からはさぼっていると見えちゃう。働いてるアピールをしないといけないんだなと思いました」。 定型発達からは発達障害のある人は「変わった人」に見えるかもしれないが、発達障害からすると定型発達こそ「変わった人」というわけだ。 定型発達の“常識”に違和感を抱きながらも、ケンイチさんは友人からの指摘や自身の失敗体験を基に 定型発達が多数を占める社会に“同化”するための努力を重ねた。 【中略】 ケンイチさんによると、仕事では「特定の性格の人」とよくトラブルになる。 特定の性格とは「頭がよくなくて仕事ができないのに、イエスマンで出世だけは早い人」。カテゴリーとしては、定型発達に属する人たちである。 一度決まったアイデアを上層部の意向だからという理由で翻意する上司 ケンイチさんが優れた実験結果を出したのに「お前ごときにこんな成績が残せるわけがない」とののしってくる上司、設計の実績もないのに執拗にダメ出しをしてくる同僚――。 ケンイチさんが反論しようものなら「あいつは反抗的」「うそつき」といったレッテルをはられるという。 続きと中略部は東洋経済オンライン…