「道路を広げても渋滞は解消しない」。交通の研究には、新しく造ったり広げたりした道路は、やがて増えた車でまた埋まってしまう、という考え方があります。1990年に名前が付いた「ルイス=モグリッジの命題」、別名「渋滞の鉄則」です。海外掲示板では、アメリカの州の交通局で働く人まで加わって、「それでも道路は要る」「いや、答えは公共交通だ」と意見が割れました。 今日の知ってた? 🚗 道路を新しく造ったり広げたりしても、増えた交通がその分を埋めてしまうので、長い目で見ると渋滞は解消しにくい。この考え方をルイス=モグリッジの命題と呼ぶ。名前はデビッド・ルイスと、イギリスの交通研究者マーティン・モグリッジに由来し、1990年にまとめられた。 📚 モグリッジは同じ1990年の著書でロンドンを例に取り、「交通量は、使える道路の広さに見合うところまで増える」と論じた。 🔁 交通の分野では一般に誘発交通(誘発需要)と呼ばれる。「渋滞の鉄則」という呼び名もある。 📈 2011年、経済学者のデュラントンとターナーがアメリカの都市圏を調べたところ、州間高速道路の車線の総延長が増えると、車の走行距離もほぼ同じ割合で増えていた。 背景:誘発交通とは 道路が混んでいると、人はそれに合わせて動きます。混む時間を避けて早めに家を出る、別の道を回る、電車やバスを使う、そもそも出かけるのをやめる。ところが道路が広がって速く走れるようになると、こうして渋滞を避けていた人たちが戻ってきます。新しく車で出かける人や、遠くに住んで車で通う人も出てきます。こうして道路の改良が呼び込む交通を「誘発交通」と呼びます。 この現象を早くから指摘したのが、アメリカの経済学者アンソニー・ダウンズです。1962年の論文「ピーク時の高速道路渋滞の法則」で、通勤時間帯の都市高速は容量いっぱいまで混むと論じました。のちにダウンズは、道路が空くと「別の道を使っていた車」「混む時間を避けていた車」「相乗りや公共交通を使っていた人」の3方向から車が集まってくると説明し、これを「三重の収束」と名づけています。 モグリッジは、ロンドンの例をもとにこの考えを1990年の著書『Travel in Towns: Jam Yesterday, Jam Today and Jam Tomorrow?』(未邦訳)にまとめました。英語のjam(ジャム)には「渋滞」という意味もあります。ただし、この命題を支持する側も、新しい道路がいつも無駄だと言っているわけではありません。人や物がなぜ、どう動くのかまで含めて、交通全体を見て判断すべきだ、という立場です。 関連する考え方に「ダウンズ=トムソンのパラドックス」があります。都市の道路で車が走れる速さは、同じ移動を電車やバスでしたときの、家から目的地までの速さに引き寄せられて落ち着く、というものです。道路だけ速くしても、車が流れ込んで公共交通と同じくらいの速さに戻ってしまう、という理屈です。 イギリスでは1994年、政府の諮問委員会(SACTRA、幹線道路の評価に関する常設諮問委員会)が「新しい道路や改良した道路は、余分な交通を生むのか」を検証した報告書をまとめ、道路計画の需要予測や評価に誘発交通を織り込むよう求めました。 ※注:アメリカの多くの都市では、郊外に住宅地が広がり、鉄道やバスが少ないため、通勤や買い物を車に頼るのが一般的です。海外の反応も、この前提で話が進んでいます。 もう少し詳しく 増えた車はどこから来るのか。デュラントンとターナーは、アメリカの都市圏で州間高速道路が増えたときの変化を調べ、2011年に経済学の学術誌に発表しました。車の走行距離は高速道路の延長とほぼ同じ割合で増え、その出どころとして、もともと住んでいた人がより多く車に乗るようになったこと、運送のように車をよく使う仕事が増えたこと、ほかの土地から人が移り住んできたこと、の3つを挙げています。一方で、公共交通を増やしても車の走行距離は変わらなかったとして、「道路を増やしても公共交通を増やしても、渋滞が和らぐ見込みは薄い」と結論づけました。研究のなかでは、混雑に応じて料金を取る仕組みがない今の状態では、道路の量はむしろ最適な水準を超えている、とも論じています。 増え方は場所しだい。イギリスの交通研究者フィル・グッドウィンが1996年にまとめた分析では、平均的な道路の改良で生まれる誘発交通は、短期で元の交通量の約1割、長期で約2割でした。個別の路線ではその倍になることもあり、とくに混む時間帯に多いとしています。道路を広げたら必ず元どおりに詰まる、というほど単純な話ではありません。 テキサス州ヒューストンのケイティ・フリーウェイ。誘発交通の例としてよく挙がるのが、ヒューストン中心部から西へ延びる州間高速道路10号線の区間、ケイティ・フリーウェイです。28億ドル以上をかけた拡幅工事が2008年10月に終わり、側道や有料の優先レーンまで含めると、広いところでは最大26車線になりました。開通した直後は、ラッシュ時の所要時間が短くなっています。ところが、都市問題の研究者ジョー・コートライトがヒューストンの交通情報センターのデータを調べると、2011年から2014年にかけて、2つの区間の通勤時間は朝が25分(30%)、夕方が23分(55%)延びていました。 日本では、首都高の中央環状線。日本でよく知られた例が、首都高速の中央環状線(C2)です。都心環状線(C1)の外側をぐるりと回る環状線で、2015年3月7日に大井JCTと大橋JCTの間の品川線が開通し、全線がつながりました。首都高速道路会社の発表では、開通から1か月で、都心環状線の交通量は1日約39万台から約37万台へと約5%減り、渋滞で失われた時間(渋滞損失時間)は、中央環状線の内側で約5割、首都高全体でも約4割減りました。 ただ、すべての場所で渋滞が減ったわけではありません。半年後の集計では、都心環状線の方面で渋滞が大きく減った一方、中央環状線の熊野町JCT、板橋JCT、中野長者橋の付近では渋滞が増えていました。首都高は、板橋JCTと熊野町JCTの間を3車線から4車線に広げる工事を進めるなどの対策をとっています。全線開通から10年を迎えた2025年には、中央環状線の内側で渋滞損失時間と事故がそれぞれ約6割減ったとまとめました。2025年の時点で、中央環状線は1日約33万台と、都心環状線(約31.9万台)を上回り、首都高でいちばん使われる路線になっています。道路を足すと渋滞の場所が移ることもある一方で、欠けていた区間をつないで車の流れを分けると、都心側の渋滞が大きく減ることもある。その両方が見える例です。 では、どうすれば渋滞は減るのか。デュラントンとターナーの結論が示すように、経済学者の間では、混む時間や場所で料金を高くする方法がよく挙げられます。日本でも、東京湾アクアラインが2023年7月から、土日祝日の上り線で時間帯によって通行料金を変える社会実験を始めました。2025年4月からは下り線にも広げ、ETCの普通車で、混む時間帯は1,600円、空いている時間帯は400円と、最大4倍の差を付けています。2025年11月に千葉県の会議で示された資料では、上り線の混む時間帯の最大損失時間は、実験前より土曜で3分、日曜で5分縮みました。一方で、料金を下げた時間帯の交通量は上り線で最大43%増え、全体の交通量も増えています。安くなると車が増える、という点では、ここでも誘発交通と似た動きが見えます。 海外の反応 1. 海外の名無しさん アメリカの州の交通局で働いてるけど、「渋滞の鉄則」なんて呼び方は一度も聞いたことがない。仕事でこの話が出るときは、100%「誘発需要」って呼ばれてる。 ※注:アメリカでは州ごとに交通局があり、州内の高速道路の建設や管理を担っています。 2. 海外の名無しさん(>>1への返信) 自分は「造れば来る」って言い方で聞いたことがある。映画『フィールド・オブ・ドリームス』の「それを作れば、彼はやって来る」のもじりで、やって来るのは野球選手の幽霊じゃなくて車だけど。 3. 海外の名無しさん(>>1への返信) 前から不思議なんだけど、なんで道路だけなんだ?バスを増やしても満員にはならないし、飛行機の便を増やしても、もともと乗りたい人がいなければ席は埋まらない。ほかの乗り物では、こんな「法則」は聞かないぞ。 4. 海外の名無しさん(>>3への返信) 道路は、使うときにお金を払わないからだと思う。バスや飛行機には運賃があるけど、ふつうの道路では混雑そのものが「値段」の代わりになってる。道が空けば値下げしたのと同じだから、客が戻ってくる。もっとも、バスだって本数が増えて待ち時間が減れば、乗る人は増えるけどね。 5. 海外の名無しさん この話、道路を造らせたくない人たちに都合よく使われすぎなんだよな。広げるだけで渋滞が片づかないのはその通りだけど、人が増え続ける街では、道路だってやっぱり必要なんだよ。 6. 海外の名無しさん(>>5への返信) 車が増えたぶん、誰かがその移動で得をしてるってことでもあるよね。渋滞がいやで諦めてた用事に、出かけられるようになった人がいる。そう考えれば無駄じゃない。 7. 海外の名無しさん(>>5への返信) 街に入ってこられる人を増やし続けるのは必要。でも、それが道路である必要はないってだけの話。ワシントン州で造ってるライトレール(路面電車を発展させたような軽めの鉄道)なんかは、車線を足すよりずっといい投資になると思う。 8. 海外の名無しさん たしかにそういうことは起きるけど、「鉄則」と呼ぶのは大げさ。この理屈は、2つの場所の間を移動したい人の数が無限に増えることを前提にしてる。車線を足して交通量が増えるのは、もともと行きたかったのに渋滞で諦めてた人がいる場合だけ。そういう人がいなければ、増えようがない。 9. 海外の名無しさん(>>8への返信) 初めてこの話を聞いたとき、元の需要を見積もり損ねた言い訳っぽいなと思ったんだ。君の説明だと、「道路が生み出した需要」じゃなくて「渋滞が抑え込んでた需要」と呼ぶほうが正確な気がする。 10. 海外の名無しさん(>>8への返信) ほかの交通手段との兼ね合いもあるよ。人はたいてい、いちばん速くて手頃な手段を選ぶ。だから一人で乗る車のための車線を足すと、バスや自転車で行ってた人が車に乗り換える。出かける回数は同じでも、手段が変わるんだ。 11. 海外の名無しさん ざっくりまとめすぎだと思う。本来は「車線を足す場所を間違えると、思わぬ副作用が出る」という話で、道路を広げるのがいつも悪いとか、絶対に効かないとかいう話じゃない。 12. 海外の名無しさん(>>11への返信) 車社会を目の敵にしてる掲示板の住人たちが読んだら、顔を真っ赤にしそうなコメントだな。 13. 海外の名無しさん 昔、近所の高速で1車線増やして、HOVレーンにしたことがあった。2人以上乗っている車しか走れない、相乗り専用の車線ね。ほかの車線はびっしり詰まってるのに、そこだけガラガラ。「次の選挙で落とすぞ」って声に押されて普通の車線に戻したら、そこも同じように詰まって終わり。渋滞は何も変わらなかった。 14. 海外の名無しさん(>>13への返信) 「何も変わらなかった」は違うだろ。車線が1本増えたんだから、渋滞の具合が同じでも、A地点からB地点まで運べる人の数は増えてる。 15. 海外の名無しさん うちの近所は逆だった。家の近くの高速に3車線目ができてから渋滞がほぼ消えて、もう10年たつけど戻ってない。田舎の片側1車線の道が2車線になると、のろのろ走る車を追い越せるようになるだけで全然違う。車線が増えて何も変わらなかった経験なんて、一度もないよ。 16. 海外の名無しさん(>>15への返信) 場所しだいなんだと思う。人がどんどん増えてる都会だと、走りやすくなった分だけ車で通う人が増えて、郊外に家も建って、結局また詰まる。そういう所には公共交通が要る。人口の伸びがゆるやかな地域や田舎なら、車線を足すのは本当にありがたい。なのに議論はいつも「なんで電車にしないの?」で止まる。アメリカで鉄道を通そうとしたら、お金も裁判も途方もなくかかるのに。 17. 海外の名無しさん 流れの速さは、目的地までのいちばん狭いところで決まる。その手前の区間をいくら広げても、狭いところの前で並ぶ車が増えるだけなんだよね。 18. 海外の名無しさん この命題の裏には、「車の交通網は、移動したい人の数にまるで追いついていない」という前提がある。だから少し流れが良くなると、我慢してた人がすぐ流れ込んで、また混む。渋滞の程度は、みんなが「これくらいなら我慢できる」と思うところで落ち着くんだ。車線を増やしてもその水準は変わらず、通れる人の数が増えるだけ。 19. 海外の名無しさん 人の少ない地方の道は、何車線あってもガラガラのまま。何でも埋まるわけじゃない。都市圏の人は、道路の速さに合わせて住む場所や出かける先を決めてるんだよ。1日の移動にかける時間は、いつの時代もだいたい1時間前後で変わらないという「マルケッティ定数」って説があって、道が速くなれば、そのぶん遠くに住んで遠くまで通うようになる。 20. 海外の名無しさん モグリッジの本の題名が『Jam Yesterday, Jam Today and Jam Tomorrow?』なのが好き。jamは渋滞のこと。『鏡の国のアリス』で白の女王が言う「ジャムは明日と昨日だけ、今日のジャムはなし」のもじりだよね。アリスは「今日はもらえない」、この本は「昨日も今日も明日も渋滞」。 21. 海外の名無しさん じゃあ結局、渋滞を減らす方法って何なんだ?道路を広げても埋まるし、広げなければ詰まったまま。もう手詰まりじゃないか。 22. 海外の名無しさん(>>21への返信) 鼻炎薬を飲め。……すまん、英語だと渋滞も鼻づまりも同じ「congestion」なんだ。どうしても言いたかった。 23. 海外の名無しさん(>>21への返信) 車以外の選択肢を良くすることと、行きたい場所を近くに置くこと。バス1台には何十人も乗れるし、自転車で通う人も、職場の近くに住んで車が要らない人も、その分だけ道路から車が減る。いい公共交通、ちゃんとした自転車レーン、都心の手頃な住宅。そのほうが、どうしても車で街を通る人にとっても走りやすくなるんだよ。 24. 海外の名無しさん(>>21への返信) 州の交通局に勤めてるんだけど、新しい長官が来た初日に「通勤で制限速度まで出せない。あなたは失敗している」ってメールが届いたことがある。局で試算したら、道路で解決するには4000億ドル、ガソリン税に直すと1ガロン(約3.8リットル)あたり20ドルの上乗せが要る計算だった。自分でも計算してみたら、4割の人がバスに乗ってくれれば1億6000万ドルで済む。6割の人が1台に2人で相乗りしてくれたら、タダだ。 25. 海外の名無しさん 「あと1車線だけ増やせば、今度こそ全部解決するから」って、拡幅をくり返す道路行政を、ギャンブルをやめられない人の「あと1回だけ」になぞらえて茶化すネタがあるよね。逆に「じゃあ全部1車線にすれば安上がりだろ」って極論も見かける。どっちも極端で、答えはその間のどこかにあるんだと思う。 まとめ 道路を広げても、増えた車がその分を埋めてしまう。1990年に名前が付いたこの命題は、アメリカの研究でも裏づけが示されてきました。一方で、首都高の中央環状線のように、道路網をつないで都心側の渋滞が大きく減った例もあります。コメント欄では「それでも運べる人は増えている」という声と「答えは公共交通と職住の近さ」という声がぶつかり、「場所によって答えは違う」に落ち着く流れでした。 元ソース: 1990年にまとめられ「渋滞の鉄則」とも呼ばれるルイス=モグリッジの命題を知った。道路を造ったり広げたりしても、交通は空いた道路を埋めるまで増え続けるので、渋滞は解消しないという原則だ The post 「高速道路の車線を増やすと、車の走る距離もほぼ同じ割合で増えた」道路を広げても渋滞が減らない”渋滞の鉄則”、首都高ではどうだった? 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