洒落怖385から。郷土資料館で見つかった木箱をめぐる、運送業の人には他人事に思えないかもしれない話。 362: 名無しのオカルト 2026/03/31(火) 00:30:15.62 ID:hqHYIWt20 知り合いの知り合いに聞いた話。 最初は、ただの気味の悪い木像だと思ってた。 問題の箱が見つかったのは、県北の山の中にある閉鎖予定の郷土資料館だった。過疎で維持できなくなって、収蔵品はまとめて県の共同保管庫へ移すことになっていた。俺はその作業を外注で請けてた会社の人間で、やることは単純だ。台帳と現物を照らし合わせて、梱包して、運ぶ。それだけ。 あの箱だけが、台帳になかった。 収蔵庫の一番奥、棚の下に半分埋もれるみたいに置かれてた、黒ずんだ細長い木箱。変に重くて、持ち上げた時、中で何かが転がる感じはしなかった。蓋には墨で何か書いてあったけど、ほとんど掠れて読めない。かろうじて、 移送厳禁 地に返すな そこだけ分かった。 気味が悪いなとは思った。でも、その程度だ。古い施設にはこういう曰くありげな民俗資料がたまにある。担当の学芸員も「未登録品だと思う、保管庫に回しましょう」で済ませた。 箱を開けたのは、その日の夕方だった。 共同保管庫へ持ち込む前に中身だけ確認したいと言い出したのが、県の文化財担当だった。立ち会ったのは俺と、学芸員と、運送の責任者の三人。釘を抜いて蓋をずらした瞬間、妙な臭いがした。腐敗臭じゃない。乾いた土と、古い押し入れの奥が混ざったみたいな臭いだった。 中に入ってたのは、小さな木像だった。 長さは三十センチちょっと。黒褐色で、煤けたように艶がない。胴はひとつなのに、首から上だけが左右に二つ並んでいて、どっちの顔も笑っていなかった。腕は四本。脚は一本ずつ普通についてるのに、重心がおかしいのか、平らな机に置いても少し傾いて見えた。 誰かが「リョウメンスクナみたいだな」と言った。誰だったかは覚えてない。 台座の裏に、鉛筆で小さく地名がいくつも書いてあった。 【宮崎】【鹿児島】【青森】【岩手】【島根】 雑な走り書きで、全部同じ筆跡には見えなかった。 その日の夜、保管庫のある町で震度3の地震があった。 珍しくもない揺れだった。誰も木像と結びつけなかったし、俺も次の日には忘れていた。ところが、保管庫に搬入して二日後、今度は震度4。その翌日も小さく揺れた。棚のガラスが鳴る程度の微震が、妙に続いた。 引用元: ・死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?385 363: 名無しのオカルト 2026/03/31(火) 00:31:54.74 ID:hqHYIWt20 気になり始めたのは、運送会社の責任者が言った一言だった。 「この荷物、次どこ回すんだっけ」 木像は燻蒸処理のため、沿岸の施設へ移される予定だった。虫害確認と殺菌をしてから、大学の民俗資料研究室へ鑑定に回す。ごく普通の流れだ。 沿岸の施設に入った翌朝、そこで震度5弱が来た。 ニュースになるくらいの揺れだった。でも被害は軽く、現場でも「最近多いな」で済まされた。木像の話なんて誰もしない。ただ、その施設で働いてた女が後でこんなことを言ってたらしい。 「地震の前の夜、収蔵庫の床がずっと鳴ってた。ミシ、じゃなくて、もっと低い音。重たい家具をゆっくり引きずるみたいな音」 そこから先は、もう偶然で済ますには気味が悪かった。 大学へ運ばれて四日後、その周辺で群発地震。 研究室から別棟の耐火保管室へ移されて翌日、夜中に停電。 停電の二時間後、また揺れた。 俺はその頃には完全に嫌な気分になってて、配送記録と地震の発生時刻を勝手に並べ始めてた。伝票の搬入日時、入庫のサイン、防犯カメラのログ、気象庁の地震情報。見れば見るほど、木像が動いた後だけ揺れ方が変わる。 しかも、台座の裏の地名が気になって仕方なかった。 【宮崎】【鹿児島】【青森】【岩手】【島根】 全部が大地震じゃない。でも、嫌になるくらい連想できる並びだった。 決定的だったのは、大学の教授が送ってきた一枚の写真だ。 台座の裏面を拡大したもので、薄く削れた木地の中に、鉛筆書きとは別の、もっと古い墨の文字が見えていた。 留むる地を誤れば、次は都が割れる 冗談みたいだった。大げさすぎて、逆に笑えない文句だった。 教授はそれでも木像を東京の研究機関へ送るつもりでいた。こんなものに振り回されるのは非科学的だし、資料としての価値を確かめる方が先だと。 気持ちは分かる。俺だって、そんな話を本気で信じたくなかった。 でも、配送依頼書が発行された日から、東京の湾岸部で妙な微震が増えた。 ほんの小さな揺れだ。体感できないものも多い。ただ、地震情報を追ってる人間が見れば、同じあたりに点が増えていくのが分かる。細い針で、地図の一点を何度も刺してるみたいに。 364: 名無しのオカルト 2026/03/31(火) 00:32:33.02 ID:hqHYIWt20 それでも発送は止まらなかった。 木像は厳重梱包され、都内の保管施設宛てに出荷された。追跡番号は0174から始まっていた。俺はその番号を、今でも覚えてる。 発送当日、朝から空は妙に白かった。雨でも晴れでもない、輪郭のぼやけた空だった。俺は仕事中なのに、何度も配送画面を開いていた。 受付 発送 中継センター到着 そこまでは普通だった。 昼前、スマホに緊急地震速報の通知が出た。でも揺れは来なかった。誤報かと思った。現場の連中も笑って流した。気味が悪かったのは、その十分後だ。 配送画面の表示が切り替わった。 持ち出し中 同時に、倉庫街の監視カメラ映像を見ていた知り合いから電話が来た。声が上ずっていた。 「お前、あの箱のこと覚えてるか。今、搬入口の映像見てるんだけど、台車の上の荷物が、勝手に向き変えてて」 何言ってるんだと思った。だがそいつは半笑いでも酔ってもいなかった。 「誰も触ってないのに、あの箱が、ひとりでに行き先の方を向いたんだよ」 その瞬間、窓ガラスが鳴った。 小さい音じゃなかった。ビリビリじゃない。もっと鈍い、建物の骨組みが一度だけ深く軋む音だった。揺れより先に、胃の奥が沈む感じが来た。 外で誰かが叫んだ。 次の瞬間、床が持ち上がった。 俺はその場で転んで、机の脚にしがみついた。天井の照明が激しく振れて、棚からファイルが落ちる音が一斉に重なった。遠くでサイレンが鳴り始めていた。誰かのスマホがけたたましく警報を鳴らしていた。 揺れが少し収まった時、俺はほとんど反射でスマホを見た。 画面は割れてた。でも、配送の表示だけは見えた。 お届け先付近で交通規制が発生しています 現在の状況を確認中です その直後、送信元不明のメールが一件、届いていた。 365: 名無しのオカルト 2026/03/31(火) 00:33:05.56 ID:hqHYIWt20 本文なし、添付写真一枚だけ、あの木像の裏をアップで撮った写真。 【宮崎】【鹿児島】【青森】【岩手】【島根】 そして、一番下。 今朝まで空欄だった場所に、見覚えのない筆跡で、地名がひとつ増えていた。 東京 あれから、その木像がどうなったのかは分からない。 配送車ごと焼失したって話もあれば、途中で荷を下ろしたって話もある。研究機関にちゃんと届いたって噂も聞いた。でもどれも、確認しようとすると妙に記録が曖昧だった。運送会社のデータも一部欠けてたし、監視カメラも肝心な時間だけ飛んでいた。 ただ、ひとつだけ本当のことがある。 俺は今でも、でかい地震のニュースが出るたび、まず場所を見る。 それから、荷物の追跡画面みたいに頭の中で考える。 あれは、その前にどこを通った。 そう考えてしまうようになってから、地震そのものより先に、配送トラックを見るのが怖くなった。 とくに、黒い細長い箱を積んでるやつは。 366: 名無しのオカルト 2026/03/31(火) 00:50:28.33 ID:aRitNBRQ0 >>362 知り合いの知り合いに聞いた話、にしては細部まで数字や状況が描写され過ぎてて、本人でもここまで仔細に書けないだろ、と思った 管理人:両面宿儺(りょうめんすくな)——顔が二つ、腕が四本あるとされる飛騨地方伝承の鬼神。作中では見つかった木像の形容として引き合いに出される。台帳になかった箱、掠れた墨文字の警告、そして移送のたびに繰り返される妙な出来事。運送記録を追う語り手の視点で最後まで読んでほしい。台座の裏に並んだ地名、あなたはどう読み解く?考察はコメ欄で聞かせて。…