1: 樽悶 ★ QM4EfSg49 2025-12-29 23:51:28 公正取引委員会(公取委)は12月24日、映画・アニメ制作現場における取引環境の実態調査を行い、その結果と法的考え方をまとめた報告書を公表しました。 ◆映画・アニメの制作現場におけるクリエイターの取引環境に係る実態調査について | 公正取引委員会 令和7年12月24日) (省略) ■「著作権の取り扱い(帰属・譲渡)」に対する公取委の指摘 今回のアニメ分野の調査で焦点の一つとなったのが、元請け制作会社と製作委員会との間における「著作権の帰属」です。調査によると、製作委員会に著作権を帰属(譲渡)させる場合、その対価について約4割が「制作委託費に含まれる」と回答しています。しかし、現場からは「制作費自体が赤字ギリギリであり、著作権の対価が含まれているとはとても考えられない」という切実な声も上がっています。 これに対し公取委は、厳しい見解を示しています。具体的には、製作委員会側が優越的地位を利用し、一方的に著しく低い対価で著作権を自らに帰属させる(譲渡を含む)ことは、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」や下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあると指摘しています。また、対価が含まれているとする場合でも、その根拠について十分な協議が行われていなければ、協議に応じない一方的な代金決定として法的な問題となる可能性があります。つまり、これまでなかば慣習的に行われてきた「制作費=著作権対価込み」という契約形態に対し、「実質的な対価が支払われていないのであれば是正すべき」という強いメッセージが発せられたことになります。 ■「権利を持てば解決」ではないビジネスの現実 この問題を巡る議論では、制作会社への著作権(財産権)の帰属を促すべきだという意見が根強くあります。しかし、そこには、法律や規制面だけでは片付かないビジネス上のハードルが存在します。 まず挙げられるのが、権利運用の難しさです。著作権を持つということは、それをライセンス許諾や商品化、海外販売などのビジネスとして運用し、収益化することを意味します。しかし、多くのアニメ制作会社にとって、この「権利運用」は本業ではなく、ノウハウや人的リソースが不足しているのが実情です。 この限界を浮き彫りにしたのが、Netflixなどのグローバル配信プラットフォームによる「オリジナル作品」の独占配信事例です。2015年のNetflix日本上陸以降、プラットフォーム側が巨額の配信権料(≒制作費相当額)を支払って「独占配信権」を取得し、それ以外の権利は制作会社側に残す取引が増加しました。このスキームは「製作委員会に代わる救世主」として期待する向きもあったのです。 しかし、このモデルも期待されたような成果にはつながりませんでした。制作会社の手元に権利が残っても、肝心の制作会社側にそれをビジネスとして展開する(グッズを作る、イベントを仕掛ける、海外へ売る)ためのリソースやノウハウが乏しかったからです。結果として大きな収益を生む構造を作れず、現在ではこうしたオリジナル作品の調達規模も縮小しています。 「良い作品を作ること」と「権利を使って商売をすること」は全く別の能力です。製作委員会方式の強みは、出版社や玩具メーカー、商社などが持つ専門知識に加え、長年築き上げてきた「商流(販売インフラ)」を持っている点にあります。これら一連のリソースは、制作会社が一朝一夕に構築できるものではありません。 ■真の課題は「コスト高騰」──解決の鍵は規制よりイノベーション促進 公取委の報告書では著作権の帰属の議論と制作会社の経営難が混在して評価されているきらいがあります。制作会社の経営状況が近年急速に悪化している根本的な原因は、権利の所在よりも「制作コストの上昇に、現在の生産体制と対価が追いついていない」という構造的なミスマッチにあります。背景にあるのは、国内外での需要拡大に伴う慢性的なリソース不足です。人材獲得競争や外部クリエイター費用の高騰に加え、近年進む内製化・社員化に伴う固定費の増加が経営を圧迫しています。製作委員会側からの対価が「低い」とされる問題も、出し渋りというより、想定以上のスピードで進むコスト高に従来のビジネスモデルでの収益還元が追いついていない側面が強いのです 。 この状況を打破し、制作会社が適正な利益を確保するために必要なのは、「著作権を持つか否か」という議論の前に、まず「利益が出る生産体制」への変革です。(以下ソース)…