1: 七波羅探題 ★ PzGuxf3p9 2025-09-21 19:13:33 2022年9月、北海道北広島市で生活困窮者向けの宿泊施設が放火され、2人が死亡した事件で、元入居者の男が逮捕された。2025年9月17日、札幌地方裁判所は「心神喪失状態にあり、刑事責任能力がなかった」と判断し、男に無罪を言い渡した。 この判決を受け、SNSやニュースのコメント欄には疑問の声が相次いだ。たしかに、被害者や遺族の気持ちを想像すれば、怒りや疑問が湧き上がるのも当然だろう。 しかし、「心神喪失による無罪」となったからといって、加害者が野放しにされるわけではない。日本には、加害者を治療・監督する制度が整備されている。 ■無罪でも「医療観察法」の下で拘束される 日本の刑法第39条は「心神喪失者の行為は、罰しない」と定めている。だが、そのままでは「無罪=即時釈放」という印象を与えかねない。 そこで2005年に導入されたのが、「心神喪失者等医療観察法(以下、医療観察法)」である。この制度により、心神喪失によって無罪または不起訴となった者は、裁判所の決定により入院または通院による処遇が行われる。 入院処遇が決定された場合、平均で2?3年間の入院が続く。『医療観察法統計資料 2020年版』(重度精神疾患標準的治療法確立事業運営委員会)によると、退院者の約25%が3?5年、8%弱が5年以上入院していたという。 一方、通院処遇では原則3年、最長5年にわたり通院を行う。保護観察所の「社会復帰調整官」が定期的に面接し、医療機関や福祉と連携する体制が敷かれている。病状が悪化すれば、再入院の申し立ても可能だ。 つまり「無罪判決」が出た後も、数年にわたって拘束や監督が続くのである。 社会復帰後の実態も公表されるドイツ、英国 では、こうしたケースにおける海外の制度はどうなっているのだろうか。 たとえばドイツでは、日本と同様に「精神障害により責任能力を欠く者は無罪」と定めている。しかし同時に、社会防衛の観点から無期限の措置入院を命じることができ、社会復帰には定期的な厳格な審査が必要だ。 さらに、ドイツでは長期的な再犯率も詳細に調査されている。法医学者ハンナ・クラウジング氏とディーター・ザイファート氏の研究によれば、平均16.5年の観察期間中、約3分の1(35.2%)が再犯していたという。 イングランドとウェールズでは、精神障害のある被告に対し病院命令を出し、必要に応じて制限命令を付す。退院後も「条件付き退院」にすぎず、条件に違反すれば即時召還される。 さらに、司法省は「制限付き患者統計」を毎年公開しており、入院者数、退院の形態、処分内容などが明らかにされている。 社会の理解を得るために、情報公開を 責任能力のない者に刑罰を科さないという原則は、近代刑法の基本であり、日本の入院・通院処遇制度はヨーロッパ諸国に近い仕組みだといえる。 しかしヨーロッパでは、その後の再犯率や社会復帰の実態について透明性のあるデータ公開がなされており、司法判断への理解を促す一助となっている。 一方、日本では処遇件数や在院期間などの統計こそ公表されているものの、退院後の長期的な再犯率については十分に公開されていない。これが、「本当に再犯は防げているのか」という市民の不信感を招いているのではないか。 もちろん、情報公開には人権保護の観点や、医療観察法の施行から日が浅くデータが少ないという課題もある。 とはいえ、社会防衛と治療を両立する制度がすでに存在している以上、こうした課題も含めて、社会全体で十分な議論を行うことが、制度の理解と信頼につながるのではないだろうか。 J-CASTニュース2025.09.21 18:30…