ステージで楽器を叩き壊すロックバンドは珍しくありません。けれど1967年、アメリカの人気テレビ番組の収録で、ドラムセットそのものを爆発させたバンドがいました。イギリスのザ・フーです。煙の中から出てきたギタリストは髪を焦がし、のちに「耳はそれきり元に戻らなかった」と振り返っています。ただ、この話には尾ひれも付いています。確かめられることと、言い伝えに近いことを分けて見ていきます。 今日の知ってた? 💥 1967年9月15日、ザ・フーは米CBSの『スマザーズ・ブラザーズ・コメディ・アワー』の収録で「マイ・ジェネレーション」を演奏し、最後にドラマーのキース・ムーンがバスドラムに仕込んだ火薬を爆発させた(放送は9月17日)。すぐ横にいたギターのピート・タウンゼントは髪を焦がして一時的に耳が聞こえなくなり、ムーン自身も割れたシンバルの破片で腕をけがした。 背景:楽器を壊すバンドと、攻めたコメディ番組 ザ・フーは1960年代のイギリスのロックバンドで、ボーカルのロジャー・ダルトリー、ギターのピート・タウンゼント、ベースのジョン・エントウィッスル、ドラムのキース・ムーンの4人組です。演奏の最後にタウンゼントがギターをアンプに叩きつけて壊し、ムーンがドラムを蹴り倒すのが、当時のステージのお決まりになっていました。米音楽誌アメリカン・ソングライターは、楽器を壊すのは彼らのライブでは「いつものこと」だったと書いています。 ムーンはその中でもとびきりの暴れ役でした。ドラムに火薬を仕込んだのも、このときが初めてではありません。米ベスト・クラシック・バンズ誌によれば、ムーンはふだんから終演の「自爆」の演出に火薬を使っていて、問題の日はそのふだんの3倍の量がバスドラムに入っていた、とされています。 舞台になった『スマザーズ・ブラザーズ・コメディ・アワー』は、トム(愛称トミー)とディックのスマザーズ兄弟が司会を務めたコントと音楽のバラエティ番組です。1967年2月にCBSで始まり、日曜の夜に、当時の人気西部劇『ボナンザ』の真裏で放送されていました。見た目は清潔感のあるフォークデュオの兄弟が、ベトナム戦争や政治を皮肉るコントを流し、ほかの番組が呼ばないような若いミュージシャンを次々に出演させたことで、10代から20代の視聴者に支持されました。ベスト・クラシック・バンズ誌は、のちの『サタデー・ナイト・ライブ』にあたる存在だったと説明しています。 ザ・フーはこの年にアメリカでのライブを始めたばかりで、この出演がアメリカのテレビへの初登場でした。収録は9月15日、放送は2日後の9月17日です。資料によって日付が「15日」と「17日」に分かれるのは、収録日と放送日の違いによるものです。 もう少し詳しく 爆発の瞬間に何が起きたか。ザ・フーはこの日、「恋のマジック・アイ」(原題 I Can See for Miles)と、代表曲「マイ・ジェネレーション」を演奏しました。「マイ・ジェネレーション」の終わりにタウンゼントがギターを壊し始めたところで、ムーンのバスドラムが爆発します。爆風はタウンゼントのすぐ横で起き、彼は驚いて髪を焦がし、しばらく耳が聞こえない状態になりました。ムーンは割れたシンバルの破片で腕をけがしました。元スレのタイトルのように「破片が腕に刺さった」と書く伝記的な記述もありますが、今回開いた音楽誌の記事では「破片で腕を負傷した」までの書き方です。 火薬の量と「買収」は、どこまで確かか。ここが話の盛られやすいところです。ザ・フーのドキュメンタリー映画『キッズ・アー・オールライト』(1979年)の監督ジェフ・スタインは、「音響ステージで許される量の10倍の火薬だった」「キースは裏方を買収した。たしか酒を飲ませて酔わせたんだと思う」と語ったと、アメリカン・ソングライター誌が伝えています。一方でベスト・クラシック・バンズ誌は、「どうしてふだんの3倍の火薬が入ったのか、話は人によって違う」と前置きしたうえで、二つの説を並べています。リハーサル用に仕込んだ火薬が使われずに残っていたところへ、ムーンと裏方がそれぞれ、相手も足したことを知らずに火薬を足したという説。もう一つは、ムーンがブランデーをあおりながら、その瓶から裏方に酒をふるまって火薬を足させたという説です。つまり「大量の火薬が入っていた」ことは複数の資料が一致していますが、「3倍」か「10倍」か、裏方を「買収」したのか「勘違いが重なった」のかは、関係者の語りに頼っていて決め手がありません。元スレのタイトルにある「裏方を買収した」は、そのうちの一つの説です。 タウンゼントの耳は、本当にこの爆発で壊れたのか。タウンゼント本人はのちに「髪に火が付いて、耳はそれきり元に戻らなかった」と振り返り、この日を聴力の問題の始まりとして語ってきました。ただ、本人の説明は一つではありません。2006年1月、米ライブ・サイエンスは、タウンゼントが自分のウェブサイトで「私の場合の損傷は、ステージで大音量で演奏したからではなく、レコーディングスタジオでイヤホンを使っていたせいで起きた」と書いたと報じています。録音のあと耳を休めるために36時間ほど音から離れる必要があり、作る曲の作風まで変えざるをえなかった、とも伝えています。ザ・フーはもともと大音量で知られたバンドで、爆発の一発だけが原因と言い切れる話ではありません。爆発が耳を傷めたきっかけの一つだったことは本人が認めているが、その後の長年の大音量とスタジオでのイヤホンも重なっている、と見るのが資料に沿った読み方です。 司会者のギターまで壊された。爆発の直後、トミー・スマザーズが演奏をたたえてCMに入ろうとバンドに近づくと、まだ呆然としていたタウンゼントは、トミーが抱えていたアコースティックギターを取り上げて叩き壊しました。トミーはのちに「みんな本当に驚いていた。こっちはけが人がいないか見て回るので精一杯だった。あとで『あのギター、本当に壊されたの? 本物みたいだった』と何度も聞かれたけど、本物だったんだよ」と振り返っています(アメリカン・ソングライター誌)。 番組のその後。『スマザーズ・ブラザーズ・コメディ・アワー』はその後もCBSの検閲とぶつかり続けました。1968年秋からは、放送の10日前に完成版を納めて局の審査を受けるよう求められ、反戦や政治にふれる場面がたびたび削られます。1969年3月には翌シーズンの継続が決まっていたにもかかわらず、CBSのウィリアム・ペイリー会長は同年4月、納品の期限を守らなかったことを理由に番組を打ち切りました。兄弟は契約違反でCBSを訴え、1973年に勝訴しています。「人気が落ちて終わった」のではなく、「人気があるうちに局と衝突して降ろされた」番組でした。 海外の反応 1. 海外の名無しさん アリス・クーパーがキース・ムーンについてこう言ってたらしい。「俺やオジーやマリリン・マンソンについて聞く話は1割しか本当じゃない。でもキースは違う。キースについて聞いた話は全部本当で、しかもあいつがやったことの1割しか伝わってない」 ※ よく引用される発言ですが、いつどこで語られたものかは確認できませんでした。 2. 海外の名無しさん(>>1への返信) その続きもあるんだよな。「しかもそれは、せいぜいキースの1時間分の話だ。あいつは24時間ずっとそんな調子だった」って。 3. 海外の名無しさん(>>2への返信) それ、そばにいる人はたまったもんじゃないだろ。1日だけなら笑えるけど、一緒にツアー回るのは無理。 4. 海外の名無しさん(>>1への返信) オジー・オズボーンに「あいつは酒も無茶もやりすぎ」って思われる時点で、もう住んでる次元が違うんだよ。 5. 海外の名無しさん(>>4への返信) オジーは酒や薬が入ってはじめておかしくなるタイプ。ムーンはしらふでも周りに迷惑な人で、酒がそれをさらに悪化させてただけ、ってのが俺の理解。 6. 海外の名無しさん マペットのドラマー「アニマル」はキース・ムーンがモデルだって言われてるよね。あいつならドラムセット爆破には大喜びで賛成したと思う。 7. 海外の名無しさん(>>6への返信) アニマルのシンバルをかじる癖だけは、さすがに誰も賛成しなかったけどな。 8. 海外の名無しさん 映像が残ってるから見てみ。爆発のあと、煙の中から出てきたピートが真っ先に自分の頭をパタパタ払ってるのが分かる。 9. 海外の名無しさん(>>8への返信) 説明からして、もっとひどい大惨事を想像してたわ。思ったより「派手なコント」っぽい。でも近くにいたら絶対に耳はやられる。 10. 海外の名無しさん(>>8への返信) 最後にギター壊されたトミー・スマザーズの顔な。完全に何が起きてるか分かってない。司会者なのに置いてけぼり。 11. 海外の名無しさん タイトルで流されてるけど、いちばん重いのはピート・タウンゼントの耳のほうだよね。ずっと耳鳴りに悩まされてるって本人が言ってる。 12. 海外の名無しさん(>>11への返信) ただ本人は別のインタビューで、スタジオでヘッドホンを大音量で使ってたのがいちばんの原因だって言ってたはず。爆発のせいにした方が話としては面白いけどね。 13. 海外の名無しさん(>>11への返信) 一発の大きな音も、毎日の大音量も、どっちも耳を削る。当時は誰も知らなかっただけで、あの爆発は明らかに音が大きすぎた。耳が聞こえなくなるのを武勇伝にする時代はもう終わりにしたい。 14. 海外の名無しさん 話がさらに盛られてて、ムーンが「足りないな」と思って自分で火薬を追加した、って説も聞いたことがある。 15. 海外の名無しさん(>>14への返信) 20年以上前に音楽チャンネルの特番で見たのは、ムーンとは別の誰かも火薬を足してて、結果的にふだんの3倍になった、って話だった。誰も相手が足したのを知らなかったっていう。 16. 海外の名無しさん キース・ムーンは史上最高クラスの技巧派ドラマーで、同時に「この人にだけは火薬を渡しちゃいけない」ランキングでも上位だったと思う。 17. 海外の名無しさん 出演したのが『スマザーズ・ブラザーズ』ってのがまた良い。60年代後半には相当な大物番組で、反戦の空気を隠さなかったせいで、最後は局ともめて降ろされたんだよな。視聴率は悪くなかったのに。 ※ 番組は1969年4月、CBSが「納品の期限を守らなかった」ことを理由に打ち切りました。兄弟は契約違反で局を訴えて勝訴しています。当時のニクソン大統領が局に圧力をかけたという話も語られますが、確認できたのは局側との対立までです。 18. 海外の名無しさん ザ・フーの曲そのものはあまり好きじゃないんだけど、この人たちの暴れっぷりには興味がある。終演で楽器を壊すのをやり始めた最初のほうのバンドだよね。あれ、後でどれだけ真似されたか。 19. 海外の名無しさん(>>18への返信) うちの妻もザ・フーが苦手で、理由を考えてみた。4人がそれぞれ同じ音量で主役を張ってるんだよ。バンドというより競争。だから勢いはすごいけど、聴いてて忙しい。 20. 海外の名無しさん ムーンについては、ホテルに帰ってから「あ、テレビを窓から投げ捨てるの忘れてた」って言って戻った話とか、ホテルのトイレを爆竹で吹っ飛ばしてた話とか、そういうのばっかり出てくる。 21. 海外の名無しさん 正直、ただの迷惑な人にしか見えない。どこが魅力なのか分からない。 22. 海外の名無しさん(>>21への返信) 身近な人にはかなり好かれてたらしいよ。むちゃくちゃなのは確かだし、今なら何かの診断が付いたかもしれない。それでも当時の仲間が悪く言うのは「元気すぎて付き合うと疲れる」くらいだった。 23. 海外の名無しさん 笑える話の陰で、ムーンは自分の車の事故で友人の運転手を死なせてしまったこともある。伝説の全部が楽しい話じゃないんだよな。 ※ 1970年1月、イギリスでムーンの車に運転手のニール・ボーランドがひかれて亡くなった事故を指しています。検視審問では事故と判断されました。 24. 海外の名無しさん 武勇伝だけ先に聞いて、写真を見たのはずっと後だった。モーターヘッドのレミーみたいなのを想像してたら、イギリスの小学生みたいな顔した兄ちゃんで驚いた。 まとめ 1967年、ザ・フーが米国のテレビ番組の収録でドラムを爆発させ、ピート・タウンゼントが髪を焦がしたのは映像と本人の証言で確かめられる話です。一方で「裏方を酒で買収した」「火薬は10倍」といった細部は関係者の語りで、話によって食い違います。コメント欄はムーンの数々の伝説で盛り上がりつつ、タウンゼントの耳のことを本気で心配する声も多く、笑い話だけでは済まない一夜として受け止められていました。 参考資料 ベスト・クラシック・バンズ「スマザーズ・ブラザーズ・ショーでのザ・フーの爆発的な出演」(2015年・英語) アメリカン・ソングライター「あの日を振り返る:1967年、キース・ムーンがドラムに爆薬を仕込んだ」(2023年・英語) ライブ・サイエンス「音の科学:ピート・タウンゼント、難聴の原因はヘッドホンと語る」(2006年・英語) Wikipedia「The Smothers Brothers Comedy Hour」(英語) 元ソース: 今日知った話:ザ・フーのドラマー、キース・ムーンは本番前に裏方を買収してバスドラムに火薬を詰めさせ、フィナーレで爆発させた。ピート・タウンゼントの髪は焦げ、ムーン自身の腕には割れたシンバルの破片が刺さった 投稿 「髪に火が付いて、耳はそれきり元に戻らなかった」1967年、ザ・フーがテレビ番組の収録でドラムを爆発させた夜 は みんな知ってた?【海外の反応】 に最初に表示されました。…