夜の牧場にこっそり忍び込み、立ったまま眠っている牛を押し倒して逃げる。アメリカの田舎の若者がやる悪ふざけとして、映画やドラマに何度も出てくる「カウ・ティッピング(cow tipping)」です。ところがこの遊び、実際に成功したという確かな記録が見当たらず、都市伝説とされています。物理学で計算すると、押し倒すには4〜14人が必要だという見積もりまであるそうです。 ※注:tip は英語で「傾ける・押し倒す」の意味。飲食店で払う「チップ」も同じ綴りなので、英語圏ではこの言葉がよくダジャレに使われます。 今日の知ってた? 🐄 2005年、カナダのブリティッシュコロンビア大学の動物学者マーゴ・リリーと学生のトレーシー・ボークラーが計算したところ、体高1.45メートルの牛を23.4度の角度で押し倒すには約2,910ニュートンの力が要り、これは大人4.43人分。牛が足を踏ん張れば5〜6人は必要で、別の生物学者スティーブン・ボーゲルは「1人が押せる力はもっと小さい」として、牛が少し足を広げただけで約4,000ニュートン、14人が要ると見積もった 背景:カウ・ティッピングとは カウ・ティッピングは、夜中に牧草地へ入り込み、立ったまま眠っている牛に気づかれないよう近づいて、横から体当たりして倒す、という遊びです。話の中では、倒れた牛は自分で起き上がれずにもがき、若者たちは笑いながら逃げていく、という筋になっています。お酒を飲んだ勢いで出かける、というのも定番の設定です。 英語版ウィキペディアによると、アメリカでこの話が広まったのは1970年代ごろで、80年代以降は映画にも繰り返し登場しました。1988年の『ヘザース』や、1995年のコメディ映画『Tommy Boy』などです。「田舎の若者には他に娯楽が無いから牛を倒して遊ぶ」という含みがあり、農村に対する決まり文句の一つになっています。ただし、話はいつも「友だちの兄貴がやった」「親父が若い頃にやった」という又聞きで、実際に成功したと確かめられた例は無い、とされています。 「倒れたら起き上がれない動物」という話そのものは、もっとずっと古いものです。ユリウス・カエサルは『ガリア戦記』の第6巻で、ゲルマニアの森にいるヘラジカには膝の関節が無く、倒れると起き上がれない、という言い伝えを書き残しています(もちろん事実ではありません)。13世紀のイングランドでも、ゾウには膝が無いので倒れたら立てない、という話が出回っていました。大きな動物は一度倒せば無力になる、という思い込みは、2000年以上前から形を変えて続いてきたことになります。 2013年に米農業誌モダン・ファーマーがこの話を取材したとき、引退した酪農家のネイト・ウィルソンは、押し倒された牛の数は「実際の牧場より、人の頭の中のほうがずっと多い」と話しています。同誌は、動画サイトを探しても本物のカウ・ティッピングの映像は一本も見つからなかった、とも書いています。誰もがスマートフォンを持つ時代に、成功例の映像が出てこないこと自体が、この遊びが実在しない有力な証拠と言えそうです。 同じ記事は、カウ・ティッピングを「スナイプ狩り(シギ狩り)」に似た話として紹介しています。スナイプ狩りは、北米の田舎やキャンプで新入りをからかう古典的な冗談で、「珍しい鳥を捕まえに行こう」と夜の野原に袋を持たせて立たせ、みんなはこっそり帰ってしまう、というものです。カウ・ティッピングも、本当に牛を倒すことより、町から来た人を担いで夜の牧場へ連れ出すこと自体が「遊び」だったのではないか、という見方があります。 もう少し詳しく 牛は立ったまま深く眠らない。この遊びの前提は「牛は立ったままぐっすり眠る」ことですが、ここがまず違います。牛は立ったままうとうとすることはあっても、眠りは浅く、すぐに目を覚まします。深く眠るときは、脚を折りたたんで横になります。前述のウィルソンも「立って眠るのは馬のほうだ」と話しています。しかも牛は嗅覚と聴覚がとても鋭く、暗闇で人間が近づいてくればすぐに気づきます。忍び足で近づいて不意を突く、という最初の一歩からしてほぼ成り立たないわけです。 計算の中身。リリーとボークラーの計算は、ニュートンの運動の法則を使い、牛を倒れるところまで傾けるのに必要な力を求めたものです。1人が押せる力を約660ニュートンと置くと、じっと動かない牛なら理屈の上では2人でも倒せる。ただしそれは、牛が反応する前に一気に押し切れた場合の話です。リリーは英紙の取材に、人間の筋肉は速く縮むほど出せる力が小さくなること、そして牛は硬い置物ではなく、押されれば足を踏ん張って体勢を立て直すことを挙げ、現実には難しいと説明しました。ボークラーは、失敗した話の多くは人数が足りないか、騒がしすぎて牛が起きてしまったかだ、とも述べています。これに対し、生物学者のボーゲルは2009年の著書で、人が横から押す力はもっと小さく約280ニュートンだとして、身構えない牛でも10人以上、少し足を広げた牛なら14人が要ると見積もりました。14人で気づかれずに牛を取り囲むのは、まず無理でしょう。見出しの「4〜14人」は、この二つの見積もりの幅です。 そもそも牛はどのくらい重いのか。明治の食育サイトによると、日本の乳牛の約99%を占めるホルスタイン種は、大人の雌で体高約140センチ、体重約650キロあります。モダン・ファーマーの記事も、乳牛を「1,400ポンド(約635キロ)の幅広くがっしりした動物」と描いています。大人の人間の10倍近い重さの生き物が、4本の脚で地面に立っているのですから、肩で一押ししたくらいではびくともしません。逆に、驚いた牛が蹴ったり突進したりすれば、人間のほうがけがをします。実際に押しに行くのは、牛にとっても人にとっても危ないうえ、他人の牧場に無断で入ることにもなります。 本当に牛が倒れると、危ないのは牛のほう。牛を寝かせる作業そのものは、牧場では普通に行われています。ウィキペディアによると、ひづめの手入れや治療のときは、9〜12メートルのロープを体に掛けて引き、わざとバランスを崩させて寝かせます。いまは牛を固定したまま横に倒せる油圧式の台もあります。一方で、事故で倒れた牛は深刻です。斜面などで足が上側を向く形で転がると、自力で起き上がれずに命を落とすことがあります。「倒れても起き上がれない」という伝説の部分は、遊び半分の話ではなく、牧場では本当に気をつけている事故なのです。 倒されたのは作り物の牛だった。皮肉なことに、実際に「倒された」記録がある牛もいます。1999年にシカゴの街なかに並べられたグラスファイバー製の牛のオブジェ(パブリックアート企画「カウズ・オン・パレード」)が、男たちに押し倒されました。翌2000年に同じ企画を開いたニューヨークでは、倒されないよう牛の像を地面に固定したそうです。本物の牛は倒れなくても、動かない置物の牛なら倒せる、というわけです。 海外の反応 1. 海外の名無しさん 子どもの頃、本気でやろうとしたことがある。でも近づく前に牛が起きちゃって、暗闇の中じゃ手の届くところまで行けなかった。それ以来、「やったことある」って話す奴の話は話半分に聞いてる。 2. 海外の名無しさん(>>1への返信) 牛は立ったままだと浅くしか眠らないし、すぐ目を覚ますらしいよ。鼻も耳もすごくいいから、不意を突くのはまず無理。ずっと捕食される側だった動物の警戒心をなめちゃいけない。 3. 海外の名無しさん 言わせてもらうと、うちは牛を飼ってるけど、牛は横になって寝る。一度この話を否定しようとしたら、牛を飼ってるって言ったのに笑われたよ。考えを変えたくない人っているんだな。 4. 海外の名無しさん(>>3への返信) 実物の牛のそばに立ったことがない人は、あの大きさと力が分かってないんだと思う。性格はおとなしいけど、中身はほぼ戦車だよ。押して倒れる相手じゃない。 5. 海外の名無しさん(>>3への返信) うちの母が6歳のとき、通学路で隣の家の馬が野原に横たわってるのを見て、慌てて呼び鈴を鳴らし「お宅の馬が死んでます」と知らせたんだって。農家の人は笑って「寝てるだけだよ」と、なでさせてくれたそうだ。 6. 海外の名無しさん 昔付き合ってた子の家が三代続く肉牛農家だったけど、家族全員「あれは100%作り話」って言ってた。目立ちたくて「やった」と言い張る友だちより、そっちを信じるよ。 7. 海外の名無しさん(>>6への返信) うちも肉牛を育ててたから分かる。子どもの頃に試したけど、そもそも近寄れない。牛は逃げるか、こっちに向かってくるかのどっちか。どっちにしても牛は倒れない。倒れるのはこっちだ。 8. 海外の名無しさん 言葉の定義にこだわらせてほしい。牛を本当に倒すのは作り話かもしれないけど、10代の集団が牛を倒そうとして夜の牧場に出かけること、それを「カウ・ティッピング」と呼ぶなら、俺の地元では間違いなく実在した。 9. 海外の名無しさん(>>8への返信) ついでに言うと、これは「都市」伝説じゃなくて「田舎」伝説だよな。うちの親父は農場育ちだけど、親父の世代では、町の人間に聞かせて信じるかどうか試す話だったらしい。「町の連中は賢いつもりで、こんな話を信じるんだぜ」ってね。 10. 海外の名無しさん 酪農の町で育ったから、何度か挑戦しに行った。でも成功したことは一度もない。立って寝てる牛はうたた寝してるだけだから、暇なガキの集団が押し始めた瞬間に起きる。成功はしないけど、挑戦した事実くらいは認めてほしい。 11. 海外の名無しさん(>>10への返信) 俺はずっと新入りへのからかいだと思ってた。「トミー、あの牛を押してこいよ」って行かせて、みんなでトミーを笑う。牛は関係なくて、笑われ役を作る遊びなんだよ。 12. 海外の名無しさん 牛の牧場に囲まれて育ったけど、町から来た友だちにしかける冗談だとずっと思ってた。スナイプ狩りと同じだよ。袋を持たせて夜の野原に立たせて、自分たちは先に帰るやつ。 13. 海外の名無しさん 人間の体重って平均80〜90キロくらい? 祖父が育ててたアンガス牛は550キロ近くある。仮に走って肩からぶつかれたとしても、跳ね返されて地面に転がるのはこっち。牛は振り向いて「何やってんだ、お前」って顔をするだけだと思う。 14. 海外の名無しさん 倒れたところで牛は普通に起き上がるし、怒らせたら本当に危ない。高校の同級生の牧場の息子は、牛を怒らせて蹴られ、あばら骨を何本か折った。普段おとなしいからって、大きな動物だってことを忘れちゃだめだ。 15. 海外の名無しさん みんな作り話って言うけど、俺の地元では本当に倒れたのを見たことがある。ほとんどは誰かが騒いで牛が起きて終わりだったけどね。ただ、倒れた牛は完全にパニックになってて、見ていて全然笑えなかった。一度見たら二度とやる気にはならないよ。 16. 海外の名無しさん(>>15への返信) 農場育ちの身としては、少人数で「成功した」って話は信じない。でも「挑戦して失敗した」って話なら信じる。そういう人は山ほどいるからね。 17. 海外の名無しさん 「4〜14人必要」って、都市伝説だという理由になってなくない? バカなことをするために男4人を集めるなんて、全然難しくないだろ。 18. 海外の名無しさん(>>17への返信) 「見積もり」って言うなら、4人から14人を集めて実際に試せば済む話だよな。ただ14人がぞろぞろ近づいたら、牛は計算が終わる前に起きて逃げてると思う。 19. 海外の名無しさん 牛にまともな給料を払ってれば、客がチップの額で悩まなくて済むのに。アメリカの店員の給料がチップ頼みなのと同じ話だよ。 20. 海外の名無しさん ウィスコンシンのどこかで、子どもたちが何週間もそこら中の牛に1ドル札をテープで貼って回ってたらしい。誰かが「牛にチップ(tip)を渡してる」ってダジャレに気づくまで時間がかかったとか。 21. 海外の名無しさん 前に誰かが言ってたけど、カウ・ティッピングが本当にあるなら、今ごろ動画サイトに成功動画が何千本も上がってるはずなんだよ。一本も無いってことは、そういうことだ。 22. 海外の名無しさん 豚をフォークで倒す、って話も聞いたことがある。脇腹をかいてやると豚が気持ちよくて寄りかかってくるから、そのままかき続けるとごろんと転がるんだって。大きい豚は危ないからおすすめはしないけど、この話は豚がかいてもらうために広めたんだと思う。 23. 海外の名無しさん 日本の観光牧場で乳しぼり体験をしたとき、ホルスタインの隣に立ったらあまりの大きさに声が出なかった。背中が自分の胸くらいの高さにあって、ちょっと体を揺らしただけで柵がきしむ。あれを人の手で倒すなんて、想像するだけで怖かったよ。 24. 海外の名無しさん(>>23への返信) 日本にも「夜の山に出る何か」を探しに行く、みたいな田舎の肝試しがあるって聞いた。どこの国でも、何も起きないと分かってて夜に出かけるのが楽しいんじゃないかな。牛は巻き込まないでほしいけど。 25. 海外の名無しさん そもそも牛を倒そうなんて思ったことがない。牛に恨みなんて何も無いし、あいつらいつも穏やかでのんびりしてるじゃないか。そっとしておいてあげなよ。 まとめ 牛は立ったまま深く眠らず、鼻も耳も鋭いうえ、乳牛なら体重は650キロ前後。2005年の計算でも、踏ん張る牛を倒すには5〜6人、別の見積もりでは14人が要るとされ、カウ・ティッピングは「挑戦して失敗した話」ばかりが残る伝説でした。コメント欄でも、牛を飼う人ほど「無理」と口をそろえる一方、「夜に出かけること自体が遊びだった」「町の人を担ぐ冗談だった」という声が多く、本当の主役は牛ではなく、だまされる側の人間だったのかもしれません。 参考資料 モダン・ファーマー「カウ・ティッピング:作り話か、それとも大うそか」(2013年・英語) ザ・レジスター「科学者がカウ・ティッピングの神話を否定 酔っていても無理」(2005年・英語) 明治の食育「乳牛について」(日本語) ウィキペディア英語版「Cow tipping」(英語) 元ソース: 今日知った話:立ったまま寝ている牛に忍び寄って押し倒す「カウ・ティッピング」は都市伝説とされ、実際にやるには4〜14人が必要と見積もられている 投稿 「立ったまま寝ている牛を押し倒すには4〜14人必要」アメリカの田舎の定番いたずら“カウ・ティッピング”は都市伝説だった は みんな知ってた?【海外の反応】 に最初に表示されました。…