1: 七波羅探題 ★ 53gA0j+O9 2025-08-16 07:09:02 withnews8/16 実生活では他人とうまく交流ができなくても、ネット上の仮想空間では円滑にコミュニケーションしている自閉スペクトラム症の人たちがいる――。 米ニュースクール大学大学院社会学部教授の池上英子さんから、そんな連絡をいただいたのは2017年のこと。早速、京都の池上さんの自宅で話を聞きました。 池上さんは、人々がネットの仮想空間の中で、「アバター」という自分の分身を通して、新しい人間関係を結び、新しい社会をつくっていくことに興味を持ちました。 2007年から、大学の研究室の大学院生と一緒に仮想空間の中で人々がどのように独自の交流文化を築いているのかを探り始めました。 当時の仮想空間では、利用者はコンピューターの画面で見られる仮想の環境の中で、アバターを操作し、チャット機能を使って他のメンバーと会話をする人が多かったそうです。 池上さんは、この仮想空間の中の様々な場所で交流を重ねていくうちに、自閉スペクトラム症だと公言している人たちが少なからずいることに気づきました。 当事者同士が情報交換をするグループもありました。そこでは、感覚の過敏さや、多数の人たちとは違う深く豊かな物の見方で世界をどう感じているのかなどが語られていました。 池上さんは、当事者グループの会合に長年参加し、交流するようになりました。参加者は、比較的知的レベルが高い人が多かったそうです。 自閉スペクトラム症の人は、一般的に他人とのコミュニケーションに課題を抱えているとされ、共感力が弱いといわれることもあります。しかし、仮想空間ではスムーズに交流をしており、適切な慰めの言葉やアドバイスも交わされていました。 ただ、仮想空間では優れた感性で才能を発揮し、自然なやり取りができる当事者でも、実世界ではコミュニケーションに困難を抱える人が多かった、といいます。 たとえば、自閉スペクトラム症に関する知識が深く、鋭い発言をしていた大卒の女性がいました。仮想空間では一目置かれる存在でしたが、実世界では、感覚過敏が激しく、無理をすると体調が悪くなり、言葉を話せなくなったり、思わぬ事を口走って黙ることができなくなったりするのだといいます。 そのため、高い知性を持っていましたが、定職に就くことは難しかったそうです。 ■「微妙な本音を察する必要がない」 実世界ではコミュニケーションに苦労をしている人が、仮想空間ではスムーズに交流できるのはなぜ? 私の疑問に、池上さんはこう説明しました。 「自閉スペクトラム症の人の中には、表情や話しぶりなどから、話し言葉では表現されていない細かなニュアンスを読み取る形のコミュニケーションが苦手な人が少なくありません」 「しかし、仮想空間のアバターにはそうした微妙な表情はありません。文字によるチャットの交流は、口調から微妙な本音を察する必要もありません」 「自閉スペクトラム症の人の中には、音や光、においなどの周囲の刺激や馴れない環境が苦手な人もいます。しかし、仮想空間で交流する際、自分自身は自宅の中の過ごしやすい環境にいて、パソコンを操作することができます。そのため、余計な刺激を受けずに安定してコミュニケーションができるのではないでしょうか」 ■社会構造の変化であぶり出された? 発達障害は、生まれつきの脳の働きに偏りがある障害だとされます。しかし、「社会構造の変化の過程であぶり出されてきた側面があるのではないか」――。 岐阜県立希望が丘こども医療福祉センターの医師・高岡健さんへの2008年の取材で、そう聞きました(当時は岐阜大学医学部准教授)。 自閉スペクトラム症の人の中には、他人とのコミュニケーションが苦手だったり、こだわりが強かったりする人がいます。 一例を挙げるなら、頑固で人づきあいはよくないけれど、腕はいい「職人」タイプ。こうした人たちは、製造などの第二次産業が中心の社会では、こだわりや集中力を生かして身につけた技術を発揮する場所がたくさんありました。 しかし、サービス業など人とのコミュニケーションが重視される第三次産業中心の社会に変わってきました。技術は機械にとってかわられ、他人との関係をつくるのが苦手で社会に適応しにくくなっている人が目立ってきているのではないか――という考えでした。 ※以下引用先で…