脳も神経もない、黄色くてネバネバした単細胞の生き物が、苦手なものに「慣れる」ことを覚え、別の個体とくっつくと、その慣れを相手に移してしまう。2019年にパリの動物園が「ブロブ」の名前で公開した粘菌は、「性は約720、脳はない」という触れ込みで世界中のニュースになりました。海外の掲示板では、720という数字に戸惑う声と、その中身を解き明かす声が入り混じりました。 今日の知ってた? 🟡 パリの動物園が「ブロブ」と名付けて公開したのは、粘菌の一種モジホコリ。脳も神経もない、1つの細胞でできた生き物だ。 🧬 「約720の性」の正体は、交配の相手を決める「交配型」の組み合わせ。交配に関わる遺伝子の型が16通り×15通り×3通り=720通りある。 🩹 二つに切られても傷がふさがり、ばらばらにした断片どうしもまたつながって一つに戻る。 🧂 塩に「慣れた」個体と、塩を知らない個体を3時間くっつけてから引き離すと、知らなかった側も塩をためらわなくなっていた(2016年、フランスの研究チーム)。 背景:「ブロブ」ことモジホコリとは モジホコリ(学名 Physarum polycephalum)は、森の朽ち木や落ち葉の上で暮らす粘菌(変形菌)の一種です。名前に「菌」と付きますが、キノコやカビの仲間ではありません。今の分類では、アメーバに近い「アメーボゾア」というグループに入ります。よく目にする黄色い姿は「変形体」と呼ばれる時期のもので、核をたくさん抱えた1つの細胞が網の目のように広がり、細菌などの微生物を体に取り込んで食べます。口も胃も目もありません。 2019年10月、パリ国立自然史博物館に属するパリ動物園が、この粘菌を「ブロブ」の名前で一般公開しました。名前は、1958年のアメリカ映画『マックイーンの絶対の危機(ピンチ)』(原題 The Blob)に出てくる不定形の怪物から取ったものです。発表では「性は約720」「切られても自分で治る」と紹介され、博物館のブルーノ・ダヴィッド館長は「脳がないのに学習できる」ことに驚かされると話しました。 話題になった「約720の性」は、生物学でいうオス・メスとは別ものです。多くの生き物には、大きな卵と小さな精子のように大きさの違う2種類の配偶子(生殖細胞)があり、これがオスとメスを分けるもとになっています。モジホコリの配偶子は、胞子から出てくるアメーバのような細胞で、どれも同じ大きさと形をしています。そのかわり、交配のしくみに関わる遺伝子が3か所にあり、それぞれに16通り、15通り、3通りの型があります。掛け合わせると720通り。研究者はこれを「性」ではなく「交配型」と呼ぶのが普通です。 もう少し詳しく 「慣れ」を覚える単細胞。フランス南部トゥールーズにある、フランス国立科学研究センター(CNRS)とトゥールーズ大学の動物認知研究センターでは、オードリー・デュストゥールらがモジホコリの「学習」を調べてきました。2016年に発表した研究では、餌にたどり着くまでの橋に、苦いキニーネやカフェインを含ませておきます。モジホコリは最初こそ渡るのをためらいますが、毎日くり返すと数日で気にせず渡るようになり、2日ほど苦味に触れさせずにおくと、元のように避けるようになりました。同じ刺激がくり返されると反応しなくなる「慣れ(馴化)」という、ごく単純な形の学習が、神経のない生き物でも起きることを示した研究です。 くっつくと「慣れ」が移る。同じ2016年の12月には、デュストゥールとデイヴィッド・ヴォーゲルが塩を使った実験を発表しました。塩を含ませた橋で5日間訓練して塩に慣れた個体と、塩を知らない個体をくっつけておき、あとで引き離して1体ずつ橋を渡らせます。3時間くっつけていた場合は、塩を知らなかった側も塩の橋をためらわずに渡りましたが、1時間で引き離した場合は、元のまま塩を避けました。くっついた部分には管がつながり、細胞の中身が混ざり合っていたといいます。実験に使ったモジホコリは4,000体を超えます。2019年には同じチームが、塩に慣れたモジホコリは細胞の中に塩を取り込んでいて、休眠させても1か月後まで慣れを保っていたと報告しました。取り込んだ塩そのものが慣れを支えているのではないか、と研究チームはみています。 迷路を解き、鉄道網を描く。モジホコリの意外な能力を世界に知らせたのは、日本の研究者です。中垣俊之さん(現・北海道大学)らは2000年、迷路の2か所に餌を置くと、モジホコリが行き止まりに伸びた部分を引っ込め、2つの餌を結ぶ最短の道筋だけに体を残すことを英科学誌ネイチャーに発表しました。2010年には、東京と周辺36都市の位置にオートミールを置き、山や湖にあたる場所には光を当てて(モジホコリは光を嫌う)育てると、首都圏の鉄道網によく似た効率のよい網目ができることを米科学誌サイエンスに報告しています。チームは2008年と2010年の2度、「人々を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られるイグ・ノーベル賞(認知科学賞と交通計画賞)を受けました。 日本と粘菌の縁はもっと古い。粘菌の研究で知られる博物学者の南方熊楠は、1929年、和歌山の田辺湾に停泊した戦艦長門の艦上で昭和天皇に生物学を進講し、粘菌の標本を献上しました。昭和天皇自身も、ヒドロ虫などの海の生き物と並んで、変形菌を研究していたことで知られます。 海外の反応 1. 海外の名無しさん みんなあまり言わないけど、ブロブ同士の合体のうち4割は、最後は離婚で終わってるんだよね。 2. 海外の名無しさん(>>1への返信) 何の話か全然わからないけど、言い切り方に妙な自信があるから、たぶん本当なんだろうな。 3. 海外の名無しさん(>>1への返信) ちなみに、ブロブが別のブロブに合体を申し込むことを「マージリクエスト」と呼びます。 ※注:マージリクエストは、プログラム開発で、自分が書いた変更を本体に取り込んでもらうよう頼む手続きのこと。英語の「merge」には「合体させる」という意味もある。 4. 海外の名無しさん ブロブの性別を720通り数える仕事に就かなくて、本当によかったと心の底から思ってる。 5. 海外の名無しさん(>>4への返信) 何言ってるの?顕微鏡をのぞきながら黄色いネバネバの型を数える仕事なんて、最高にかっこいいじゃん! 6. 海外の名無しさん(>>4への返信) 調べてみたら、720って数字は遺伝子から出した理論上の値だった。交配に関わる遺伝子が3か所あって、それぞれの型が16通り、15通り、3通り。掛け算すると16×15×3で720になる。720種類の個体を並べて数えたわけじゃないから、そんな仕事は最初からないよ。 7. 海外の名無しさん 「性」をどう定義するかによるけど、生物学の定義でいえば、むしろ性がないと言ったほうが近い。進化生物学では、大きな卵と小さな精子のように配偶子の大きさが違うことがオスとメスの区別のもとになる。モジホコリの配偶子はどれも同じ大きさだから、その定義ではオスもメスもない。だから研究者はふつう「720の性」じゃなくて「720の交配型」って呼ぶ。 8. 海外の名無しさん(>>7への返信) つまり、型さえ合えばだいたい誰とでも相手になれるってことか。ノドジロシトドって鳥の「4つの性」とは別物なんだな。あの鳥はオスにもメスにも頭の縞が白いタイプと茶色いタイプがいて、白縞のオスは茶縞のメスと、茶縞のオスは白縞のメスと、ほぼ必ずつがいになる。 9. 海外の名無しさん(>>8への返信) そういうこと。モジホコリの配偶子は、胞子から出てくるアメーバみたいな小さな細胞で、顕微鏡で見てもふつうのアメーバと区別がつかない。型の合う2つが出会うと細胞ごと融合して核も合体し、そこから細胞は分かれずに核だけ増えながら大きくなって、あの黄色い網目になるんだ。 10. 海外の名無しさん 「約720」って、概数にしては妙に細かくない?なんでか分からないけど、そこがずっと引っかかってる。 11. 海外の名無しさん(>>10への返信) 上の人が書いてるとおり、16×15×3の掛け算で出した数だからね。きっちりした数字なのはそのせい。むしろ、なんで「約」を付けたのかのほうが謎だよ。 12. 海外の名無しさん みんな720の性に食いついてるけど、俺が分からないのは「脳がないのに知識を伝えられる」のほう。脳がないのに、何の知識を伝えるの? 13. 海外の名無しさん(>>12への返信) 「知識」ってのがそもそも大げさな言い方なんだよ。伝わってるのは知識というより、もっと単純な情報だと思う。 14. 海外の名無しさん(>>12への返信) 元の記事を読めば書いてあるよ。餌の手前に塩を含ませた橋を置くと、最初は塩を嫌がってなかなか渡らない。毎日くり返すと慣れて平気で渡るようになる。その慣れた個体と塩を知らない個体を3時間くっつけておくと、知らなかったほうも塩の橋をためらわずに渡るようになるんだって。 15. 海外の名無しさん 脳もないのに覚えたことを分け合えるってほうが、720の性よりよっぽどすごくない?自然って本当に変。 16. 海外の名無しさん(>>15への返信) イモムシのころに嫌な匂いを覚えさせると、蛾になってもその匂いを避けるって実験もあったよね。さなぎの中で体がほとんど作り直されるのに、覚えたことは残るらしい。生き物の「覚える」って、思ってるよりずっと不思議だ。 17. 海外の名無しさん 「ブロブに気をつけろ、這って、跳ねて、床を滑って、ドアを抜けて、壁じゅうに広がる」……この名前を聞くと、どうしてもこの歌が頭の中で流れ出す。 ※注:1958年のアメリカ映画『マックイーンの絶対の危機(ピンチ)』(原題 The Blob)の主題歌の歌詞。パリの動物園の「ブロブ」という呼び名も、この映画の怪物から取られている。 18. 海外の名無しさん(>>17への返信) 若いころのスティーブ・マックイーンが主演してた映画だよね。映画のブロブは町の人を次々に飲み込んでたけど、こっちのブロブはオートミールをあげれば満足してくれるから平和でいい。 19. 海外の名無しさん こいつにジェリービーンズを食べさせたら、いろんな姿に変身できるようになったりしないかな。もちろん科学のために聞いてるだけだよ。 ※注:ファミコンのゲーム『ふしぎなブロビー ブロバニアの危機』(原題 A Boy and His Blob)のネタ。相棒のブロブにジェリービーンズを食べさせると、味ごとに別の道具に変身する。 20. 海外の名無しさん(>>19への返信) みかん味でトランポリン、シナモン味でバーナー、バニラ味で傘。……このネタに即反応できる時点で、俺たちだいぶ年を取ったな。 21. 海外の名無しさん で、『The Last of Us』はどのくらい当たってたの?人間がキノコみたいなのに乗っ取られるやつ。 22. 海外の名無しさん(>>21への返信) あれは冬虫夏草の仲間、つまり本物の菌類の話。粘菌は名前に「菌」と付くけど、菌類じゃなくてアメーバに近い別のグループだから、まったくの別物だよ。それにこっちは誰も乗っ取らない。オートミールが好きなだけ。 ※注:『The Last of Us』は、寄生菌の流行で文明が崩れたアメリカを舞台にしたゲーム。2023年にはドラマにもなった。 23. 海外の名無しさん 日本の研究者が、粘菌に迷路を解かせてなかったっけ?迷路の両端に餌を置いたら、いちばん短い道だけに体を残したってやつ。たしかイグ・ノーベル賞を2回取ってたはず。 24. 海外の名無しさん(>>23への返信) 中垣俊之さんたちのチームだね。2回目は、東京とまわりの都市の位置に餌を置いたら、首都圏の鉄道網によく似た網目を作ったって研究。人間が長い年月をかけて作った路線網と、脳のない粘菌が似た形にたどり着くのが面白い。 25. 海外の名無しさん ちょっと大げさに言うけど、人間の想像力なんて大したことないな。SF作家が考えたどんな奇妙な生き物も、自然はとっくに作ってて、それに飽きたうえで720倍おかしなものを作ってる。 まとめ パリの動物園が「ブロブ」と名付けた粘菌モジホコリは、脳も神経もない1つの細胞でありながら、苦手なものに慣れることを覚え、くっついた相手にその慣れを移します。話題の「約720の性」は、遺伝子の型を掛け合わせた交配型の数でした。コメント欄では、数字の正体を解き明かす声と、脳がなくても学習のような振る舞いを見せることへの驚きが並び、映画やゲームのブロブを思い出す人も目立ちました。 元ソース: 粘菌「ブロブ」は性が約720あり、自分で傷を治せて、脳がないのに、別のブロブと融合すると知識を伝えられる The post 「脳がないのに、何の知識を伝えるの?」性が約720ある粘菌”ブロブ”、日本の実験では首都圏の鉄道網そっくりの網目も作った appeared first on みんな知ってた?【海外の反応】.…