ファストフード店で「シェイク」を頼めば、甘くて冷たくて、ストローで吸うのに少し力がいる、あれが出てくる。ところが、その「ミルクセーキ」という言葉がアメリカの印刷物に初めて姿を見せた1885年、それが指していたのは、生卵とウイスキーを砕いた氷ごと手で振り混ぜた酒だった。しかも、酔うためだけの酒ではない。ご馳走であると同時に、体にいい強壮剤として売られていた。当時の言い方をすれば、エッグノッグの仲間である。 ※注:エッグノッグとは、卵と牛乳、砂糖を混ぜたところにブランデーやラム、ウイスキーなどを加えた飲み物。アメリカやイギリスではクリスマスの定番として知られ、酒を入れない子ども向けのものもある。 今日の知ってた? 🥃 「ミルクセーキ(milkshake)」という語が活字で確認できる最初の例は1885年。このときの中身は、卵とウイスキーを入れて振り混ぜた酒だった。のちの食文化史の記述では、これを「卵やウイスキーなどを使った、しっかりした滋養のあるエッグノッグ系の飲み物で、ご馳走であると同時に強壮剤としても供された」と説明している。電動の攪拌機はまだ無いので、砕いた氷といっしょに、文字どおり手で振って作られていた。なお、これは「ミルクセーキが発明された年」ではなく「その言葉が印刷物にさかのぼれる最初の年」である。飲み物そのものは、記録に残るより前から作られていたと考えるほうが自然だろう。 背景:19世紀のアメリカでは、酒は薬の棚に並んでいた いまの感覚だと「卵と酒を混ぜたものが健康にいい」は冗談にしか聞こえない。だが19世紀の欧米では、これは真顔で通用する理屈だった。卵は滋養そのものであり、蒸留酒は体を温め、血のめぐりをよくし、弱った人を持ち直させるものだと広く信じられていた。実際、アメリカではウイスキーやブランデーが薬局の扱う品として堂々と棚に並び、医師が処方することもあった。「酒=嗜好品」という現在の線引きは、まだそこまではっきり引かれていない。 この土壌の上に、卵と酒を合わせる古い習慣が乗っている。エッグノッグは、その代表格だ。卵と乳と砂糖に酒を入れて仕上げるこの飲み物は、栄養のかたまりであると同時に贅沢品でもあり、病み上がりの人や体力の落ちた人に飲ませるものとしても扱われてきた。1885年のミルクセーキが「エッグノッグ系」と説明されているのは、まさにこの系譜の中にあるからである。 そしてもう一つ、この時代のアメリカには「ソーダファウンテン」という独特の場所があった。薬局の一角に据えられたカウンターで、炭酸水や薬用シロップを出す設備である。もともとは炭酸水を薬として飲ませるための装置だったのが、シロップで味を付けるうちに人の集まる場所へと育っていった。酒場とも喫茶店ともつかないこの空間が、のちにミルクセーキの中身を丸ごと入れ替えることになる。 もう少し詳しく:酒が抜けて、アイスクリームが入るまで 19世紀の終わりごろから、この言葉の指すものが動きはじめる。1900年前後には、ミルクセーキといえばチョコレートやイチゴ、バニラのシロップで味を付けた、酒の入っていない甘い飲み物のことを指すようになっていたとされる。わずか十数年で、酒と生卵の強壮剤が、子どもに出しても構わない甘味へと横滑りしたわけだ。 この転換を後押ししたものの一つが、栄養食としての粉末だった。1870年代、乳児や病人向けの栄養補助食品として、麦芽と乳を粉にした「モルテッドミルク(麦芽乳)」が売り出される。これがソーダファウンテンに持ち込まれ、牛乳に溶かして出す定番メニューになった。1920年代、シカゴのドラッグストアの店員がそこにアイスクリームを足したのが、現在の濃厚なシェイクの始まりだ——という話が伝わっている。会社の由来話としてよく語られるもので、どこまで正確かは分からないが、少なくとも「栄養補助食品の売り場から甘い名物が生まれた」という筋道自体は、当時の空気をよく表している。 もう一つ効いたのが、電気の力である。1910年代にはアメリカのメーカーが飲み物用の電動ミキサーを売り出しはじめ、ソーダファウンテンの定番設備になっていく。手で振っていたころは、砕いた氷と液体を混ぜるのが精一杯だった。機械が回るようになると、アイスクリームのような固くて重いものまで一気に攪拌できる。いまのシェイクの、ストローが詰まりそうなあの濃さは、電気が来てはじめて成立した食感なのだ。ちなみに「誰が最初に作ったのか」は、卓上の攪拌機の話なのか、いわゆるミキサーの話なのかで登場人物が変わるうえ、諸説あって定まらない。ここでは踏み込まないでおく。 ここで多くの人が「禁酒法のせいだろう」と考えたくなる。実際、アメリカで酒の製造・販売が禁じられていたのは1920年から1933年。話の筋としてはよく出来ている。ただ、時系列が合わない。ミルクセーキが甘くて酒の入らない飲み物として定着したのは、禁酒法が始まるより前のことだ。法律がその流れに追い風を送った可能性はあるにせよ、原因と結果を逆にしないほうがいい。酒が抜けたあとに禁酒法が来た、というのが順番である。 日本の「シェイク」と、卵酒という別の答え 日本で「ミルクセーキ」といえば、牛乳と卵と砂糖を混ぜた、喫茶店の定番のほうを思い浮かべる人が多いだろう。長崎ではこれをかき氷状に凍らせて食べる。一方でファストフード店の「シェイク」は卵を使わない、もっと濃厚な冷菓に近い飲み物だ。同じ語源から出た二つが、日本語の中では別々の名前で共存している格好になる。ちなみに英語の shake は「振る」という意味で、手で振って作っていた時代の作り方がそのまま名前になっている。中身はすっかり入れ替わったのに、名前だけが百四十年生き延びたことになる。 そして日本にも、卵と酒を合わせて滋養にする飲み物がある。卵酒である。日本酒を温めて卵と砂糖を溶き入れたもので、風邪をひいたときに飲んで体を温め、汗をかいて寝る、という位置づけで知られてきた。1885年のミルクセーキと歴史的なつながりがあるわけではない。ただ、卵と酒を混ぜて「薬に近いご馳走」に仕立てるという発想が、地球の反対側で別々に出てきていたというのは、それ自体なかなか面白い話ではある。人間が手元の材料で考えることは、案外似てくるらしい。 海外の反応 1. 海外の名無しさん アイスクリームを使ったカクテルが、いまだに定番になっていないのが昔から不思議でならない。冷たいし甘いし、度数もきれいに隠れてくれるのに、置いてある店のほうが珍しい。 2. 海外の名無しさん(>>1への返信) ベイリーズ(アイルランドのクリームリキュール)をスラッシュの機械に入れると本当にうまい。氷の粒が細かいぶん口当たりがなめらかで、夏場にやると危険なくらい進んでしまう。 3. 海外の名無しさん(>>2への返信) 『オースティン・パワーズ』に、靴でベイリーズを飲んだことはあるか、と真顔で聞く場面があった。あれを観て以来、この酒の名前を見るたびに靴が頭に浮かんでしまって困っている。 4. 海外の名無しさん(>>2への返信) 一度アマルーラに替えてみてほしい。南アフリカのクリームリキュールで、ベイリーズより果実の香りが立っている。あれでやると、もう元には戻れなくなる。 5. 海外の名無しさん(>>4への返信) アマルーラは好きだ。ラベルにいる象も含めて好き。あの実を食べた象が酔っ払うという有名な話は、どうも怪しいらしいのだけど、それでも信じていたい気持ちがある。 6. 海外の名無しさん(>>1への返信) 流行らない理由ははっきりしていると思う。中身の薄いカロリーに、中身の薄いカロリーを足しているだけだから。しかも乳脂肪でくるむと酔いの回りが鈍くなるので、同じ量の酒を飲んでも損をした気分になる。 7. 海外の名無しさん(>>1への返信) どれだけ胃腸が丈夫な人でも、ウイスキー入りのシェイクを四杯もやったら翌朝は確実に地獄を見ることになる。理由はわざわざ説明しなくても分かってもらえると思う。 8. 海外の名無しさん なんでもかんでも「健康にいい」で通ってしまって、誰もそれを疑わなかった時代に一度生きてみたい。生卵とウイスキーが滋養強壮になる、と堂々と印刷できたわけでしょ。うらやましい。 9. 海外の名無しさん(>>8への返信) そりゃそうだろう、当時は腰を痛めたあげくに五十七歳で亡くなる世界だぞ。健康観がおおらかだったというより、そもそも前提が違いすぎる。 10. 海外の名無しさん(>>9への返信) あの暮らしぶりで五十七まで持ったのなら、むしろ健闘したほうだと思う。生卵とウイスキーを強壮剤として飲んでいた人たちなんだから。 11. 海外の名無しさん 風邪をひいたら温めたウイスキーを蜂蜜とレモンで割って飲む、というのは今でもうちの家に残っている。効くかどうかは怪しいものだけど、体が温まるのは確かだ。あれの延長線上に卵とウイスキーがあると思えば、そこまで突飛な話でもない。 12. 海外の名無しさん(>>11への返信) 祖母がまったく同じことをしていた。子どもには蜂蜜と熱いお湯だけ、大人にはそこにウイスキーが入る、という露骨な区別があって、早く大人になりたいと本気で思っていた記憶がある。 13. 海外の名無しさん てっきり禁酒法のせいで酒が抜けたのだと思い込んでいた。酒が飲めなくなったから甘いものに逃げた、という筋書きのほうが分かりやすいし、なんとなく納得もできる。 14. 海外の名無しさん(>>13への返信) 自分もそう思っていたけれど、どうやら順番が逆らしい。甘い飲み物としてのミルクセーキは禁酒法が始まる前にもう出来上がっていて、法律のほうは、あったとしても後押しをした側という位置づけになる。 15. 海外の名無しさん ケリスの「Milkshake」という曲に、私のミルクセーキは男の子たちをみんな庭に呼び寄せる、という歌詞がある。元の意味を知ったあとで聴くと、まるで別の情景が浮かんできて落ち着かない。 16. 海外の名無しさん(>>15への返信) そして続きが「あなたのより美味しいわよ」だからね。卵とウイスキーの配合勝負をしていたのだと思うと、急に十九世紀の酒場のやりとりに聞こえてくる。 17. 海外の名無しさん(>>16への返信) さらにその先が「教えてあげてもいいけど、有料よ」だぞ。レシピを出し惜しみする酒場の主人そのものじゃないか。 18. 海外の名無しさん 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のあの場面が頭から離れなくなった。私のストローは部屋を横切ってあなたのミルクセーキまで届く、飲み干してやる、というやつ。中身がウイスキーだったのなら、あの剣幕にも少し納得がいく。 19. 海外の名無しさん アイスクリームの酒はとにかく失敗しやすい。手順をひとつ外すと、濡れた靴下のにおいみたいな味になる。昔のルームメイトがジャックダニエルとコーラに氷を入れてミキサーにかけていたけれど、あれは全部の材料に対する冒涜だった。 20. 海外の名無しさん(>>19への返信) それって細かい氷の入ったジャックコークというだけでは? そこまでひどい話だろうか。味の想像はつくし、そんなに悪くない気もするのだけど。 21. 海外の名無しさん(>>20への返信) コーラの炭酸が全部飛ぶうえに、洗うのが面倒なミキサーをわざわざ汚している。氷だけ砕いてグラスに移し、そこに注げば済む話なんだから、手順として無駄が多すぎる。 22. 海外の名無しさん(>>21への返信) 炭酸が抜けるところまでは考えていなかった。言われてみればそれが一番の損失だ。ミキサーを洗う手間まで込みで数えると、たしかに割に合わない。 23. 海外の名無しさん つまり、シェイクにバーボンを垂らすのは邪道ではなくて先祖返りだったわけだ。今度やっているところを見られたら、これは伝統への回帰なんだと胸を張って説明することにする。 24. 海外の名無しさん よく考えたら、いまジムの帰りに振って飲んでいるプロテインシェイクも、栄養と強壮を売りにした振って作る飲み物だ。百四十年前とやっていることはほとんど変わっていなくて、ウイスキーと生卵が抜けただけということになる。 まとめ 1885年の印刷物に初めて現れた「ミルクセーキ」は、卵とウイスキーを砕いた氷ごと手で振り混ぜた酒で、ご馳走であると同時に強壮剤として売られていた。それが19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、ソーダファウンテンの文化と栄養補助食品、そして電動ミキサーの登場に押されるかたちで、酒の入らない甘い飲み物へと入れ替わっていく。コメント欄では「禁酒法のせいだと思っていた」という声が目立ったが、甘い飲み物としての形が整ったのは禁酒法より前のことで、そこは順番が逆になる。そのほかは、アイスクリームの酒がなぜ流行らないのかという議論と、歌や映画のミルクセーキを思い出す人でおおむね埋まっていた。手で振って作るから「シェイク」、というその名前だけが百四十年生き延びて、中身のほうはすっかり入れ替わっている。次にストローを差すときには、少しだけ違う味がするかもしれない。 元ソース: 「ミルクセーキ」という語が1885年に初めて活字になったとき、それはウイスキー入りの酒を指していた——「卵やウイスキーなどを使った、しっかりした滋養のあるエッグノッグ系の飲み物で、ご馳走であると同時に強壮剤としても供された」と説明されており、砕いた氷とともに手で振って作られていた The post 「卵とウイスキーを氷ごと手で振った、滋養強壮になるご馳走」1885年に初めて活字になった「ミルクセーキ」の中身 appeared first on みんな知ってた?【海外の反応】.…