シベリアの地下深くから掘り出された土を、研究者が実験室でゆっくり融かした。中から出てきたのは、体長1ミリにも満たない小さな虫である。しばらくすると、その虫は動きはじめ、餌を食べ、やがて卵を産んだ。その虫が閉じ込められていた地層が最後に解けたのは、およそ4万6000年前。ネアンデルタール人がまだヨーロッパを歩いていた頃である。 ※注:線虫(せんちゅう)は、細長い糸のような形をした小さな動物のグループ。土の中や水底など地球上のほとんどどこにでもいて、種数・個体数ともに動物界で最大級とされる。人に寄生する種類もいるが、大半は土の中で細菌などを食べて暮らしている無害な土壌動物である。 今日の知ってた? 🧊 シベリア・コリマ川下流域の永久凍土から掘り出された線虫が、解凍後に活動を再開し、餌を食べて繁殖した。同じ巣穴から出た植物片の放射性炭素年代測定によれば、この地層はおよそ4万6000年前(補正後の推定で約4万5800〜4万7800年前)から解けていない。2023年に『PLOS Genetics』誌で新種として記載され、Panagrolaimus kolymaensis(パナグロライムス・コリマエンシス)と名付けられた。 背景:どこから出てきて、なぜ4万6000年なのか 試料が採られたのは、ロシア北東部を流れるコリマ川の下流域である。川岸の崖が崩れて、長いあいだ凍りついていた地層がむき出しになっている場所があり、そこから地下約40メートルまで掘り進んだ地点で、化石化した齧歯類(げっしるい)の巣穴の跡が見つかった。土壌試料が採取されたのは2002年。凍ったまま保管され、のちに解凍された試料の中から、生きた線虫が回収された。 この蘇生自体は2018年に報告され、当時は「更新世の永久凍土から生きた線虫が出た」という形で伝えられた。2023年の論文はその続きにあたる。ゲノムを解読したところ既知のどの種とも一致せず、採取地の川の名を取って Panagrolaimus kolymaensis という新種として記載された。研究には、ドイツのマックス・プランク分子細胞生物学・遺伝学研究所(ドレスデン)、ケルン大学、ロシア科学アカデミーの土壌科学系の研究所などが関わっている。 ここで大事なのが「4万6000年」という数字の出どころである。年代が測られたのは、虫そのものではない。同じ巣穴から出てきた植物片を加速器質量分析法(AMS)で放射性炭素年代測定にかけたところ、44,315±405年前という補正前の値が出て、これを暦の年代に補正すると約4万5800〜4万7800年前になる。つまり正確には「この虫は4万6000歳だと直接測られた」のではなく、「この虫が閉じ込められていた地層は、それだけの期間解けていない」という測り方である。 この点は研究チーム自身も論文で明示しているが、報道の見出しでは省略されやすい。実際、発表当時から「試料が採取・保管される過程で新しい個体が混入した可能性は完全には否定できないのではないか」という慎重な意見も出ていた。年代の桁が大きいぶん、そこは差し引いて読むところではある。 もう少し詳しく まず、この虫は「凍ったまま生き続けていた」わけではない。ここが直感に反するところで、多くの人がまず誤解する。冷凍庫に入れた食材のように、生きた体がそのまま低温で保存されていた——という絵ではないのである。この虫が入っていたのはクリプトビオシスと呼ばれる状態で、代謝が検出できないところまで完全に止まっている。呼吸もしていなければ、体内で化学反応も進んでいない。時計の針が遅くなったのではなく、止まっている。 ※ クリプトビオシス(cryptobiosis):生き物が代謝を検出できないレベルまで停止させ、極端な環境をやり過ごす状態のこと。乾燥によって入るものをアンヒドロビオシス(乾眠)、凍結によるものをクライオビオシスと呼び分ける。生きているとも死んでいるとも言いにくい、その中間にあたる。 鍵になるのは、水を抜くことと、トレハロースという糖である。実験室での検証では、まず湿度98%の環境に4日間置いて体をゆるやかに乾かし、そのうえで本格的に乾燥させた個体が、マイナス80度に凍らせても生き延びた。しかも480日たった時点で生存率がほとんど落ちていない。このとき体内では、日本ではお菓子やパンの品質保持剤としておなじみのトレハロースが作られている。トレハロースは細胞から水が失われるときに、水の代わりに膜やタンパク質の形を支える役割を果たすと考えられている。体から水を抜いてしまえば、凍らせても中で氷の結晶が育って細胞を切り裂くことがない。だから凍結に耐えられる、という筋書きである。 面白いのは、この仕組みが特殊な発明ではなかったことだ。ゲノムを比べたところ、実験生物として世界中の研究室で飼われている線虫 C. elegans(シー・エレガンス)が持つトレハロース合成の遺伝子と対応するものが、この永久凍土の種にもそろっていた。C. elegans も環境が悪くなると、耐久幼虫(ダウアー幼虫)と呼ばれる頑丈な休眠形態に切り替わる。つまり、線虫がもともと持っていたありふれた耐久システムが、桁違いに長い時間まで効いてしまった、というのがこの発見の骨格である。 「それってクマムシと同じでは?」と思った人へ。結論から言うと、やっていることは似ているが、生き物としては相当に遠い。クマムシは緩歩動物(かんぽどうぶつ)というグループで、線虫とは動物の分類のかなり上の階層で分かれている。乾燥すると樽のような形に縮んで代謝を止める点、トレハロースが関わる点は共通しているものの、両者は別々の系統でそれぞれこの生き方にたどり着いたと考えられている。ちなみにクマムシ側の記録としては、国立極地研究所が2016年に発表した例がよく知られている。南極の昭和基地付近で1983年に採取され、30年半にわたって凍結保存されていたコケの試料からクマムシが蘇生し、その後繁殖にも成功した、というものである。30年半でも十分に驚く数字なので、4万6000年という桁がどれだけ外れているかが分かる。 最後に、この話が意味していないことも書いておきたい。これは不老不死の発見ではないし、絶滅動物を蘇らせる技術でもない。何より、人間を冷凍して未来で目覚めさせられるという話にもならない。この線虫が生き延びられたのは、体が1ミリ未満で、幼虫の段階で自分の体から水を抜き切れたからである。人体はその真逆で、大きく、重く、大量の水を抱えたまま凍る。凍った瞬間に細胞の内側と外側で氷の結晶が育ち、組織が壊れる。この発見が示したのは「特定の条件を満たした小さな生き物は、地質学的な時間スケールで命を保留にできる」ということであって、それ以上ではない。ただ、それだけでも十分にすごい話だとは思う。 海外の反応 1. 海外の名無しさん 永久凍土から出てきた線虫が、解凍したら普通に餌を食べはじめて卵まで産んだって、字面だけ見ると冗談みたいなんだけど本当の話なんだよな。しかも4万6000年前といえば、農耕が始まるよりずっと前、人類がまだ石を打ち欠いて道具にしていた時代である。 2. 海外の名無しさん(>>1への返信) 「いや〜よく寝た。今日はぐっすりだったわ。ところで今何時?」みたいな顔で起きてきたと思うと笑ってしまう。本人にはたぶん一晩の感覚しかない。 3. 海外の名無しさん(>>2への返信) 「やばい、試験の時間過ぎてる……あ、待って、俺線虫だったわ。じゃあいいか」 起き抜けの数秒で全部解決するの、ちょっとうらやましくもある。 4. 海外の名無しさん 「なあ、最近マンモス見かけなくない? 俺が昼寝する前はそのへんを普通に歩いてたはずなんだけど」という顔もしていてほしい。実際この虫が眠りについた頃のシベリアには、まだマンモスがいたわけで。 5. 海外の名無しさん 素朴な疑問なんだけど、凍っていた4万6000年のあいだ、この虫は「生きていた」ことになるの? 死んでいたなら生き返ったことになるし、生きていたなら4万6000年生きた個体ということになる。どっちなんだ。 6. 海外の名無しさん(>>5への返信) 少なくとも死んではいなかった、としか言いようがないと思う。記事によると代謝が完全に止まっていて、呼吸も体内の化学反応も走っていない状態だったらしい。生きているの定義のほうが、この虫に合わせて作られていないんだよな。 7. 海外の名無しさん(>>6への返信) 眠っていたというより、電源が落ちた状態で放置されていたと考えるほうが近いんだろうね。スリープじゃなくて完全に電源オフ。それで4万6000年後にボタンを押したら、データが残ったまま起動した。落ち着いて考えるとかなり怖い。 8. 海外の名無しさん これってクマムシと同じやつじゃないの? あいつらも乾燥すると縮こまって、宇宙空間でも平気だとかいう話をどこかで読んだ気がする。 9. 海外の名無しさん(>>8への返信) やっていることは似ているけど、生き物としては全然別のグループだよ。クマムシは緩歩動物で、線虫とはかなり上のほうで枝分かれしている。似た生存戦略にそれぞれ別々にたどり着いたわけ。ちなみにクマムシ側の記録は、南極で採取されて30年半凍っていたコケから蘇生した例が有名だけど、それでも30年。桁が3つ違う。 10. 海外の名無しさん 4万6000年という数字がどうやって出たのかが気になる。虫を直接測って年齢が分かるものなの? 炭素年代測定って、そんなに小さいものでも精度が出るんだろうか。 11. 海外の名無しさん(>>10への返信) 測られたのは虫そのものじゃなくて、同じ巣穴から出た植物片のほう。それを加速器質量分析にかけて、この地層が最後に解けた時期を割り出している。だから正確には「虫が4万6000歳」ではなく「虫が入っていた氷が4万6000年解けていない」という言い方になる。論文にもそう書いてある。 12. 海外の名無しさん(>>11への返信) そこが引っかかるという指摘は発表当時からあって、採取や保管の途中で新しい個体が紛れ込んだ可能性を完全に潰せているのか、という声は出ていた。研究チームが手を抜いたという話ではなく、こういう桁の主張には自然と厳しい目が向くというだけのことだと思う。 13. 海外の名無しさん 氷の中から出てきた何かが目を覚ますって、こっちだと完全にホラー映画の導入なんだよな。『遊星からの物体X』を思い出した人は絶対に多いはず。あの南極基地も最初は「珍しい発見だ」で始まっていた。 14. 海外の名無しさん(>>13への返信) 「離れろ! それは線虫じゃない、何かの物体だ! 線虫のふりをしてるんだよ、この馬鹿!」 シャーレを覗き込んでる研究者に向かって全力で叫びたくなる。 15. 海外の名無しさん 『X-ファイル』の初期にも、極地の氷の中に閉じ込められていた寄生生物が見つかる回があった。あれもラストで「同じものがまた見つかった」という報道が流れて終わるんだよな。今回のニュースの構図がそっくりすぎて笑った。 16. 海外の名無しさん 笑い話にしているけど、凍土が融けて古代の病原体が出てくるという話は実際に心配されているやつだよね。虫がかわいく餌を食べているうちはいいけど、隣で何が一緒に解けているのかは誰も把握していない。 17. 海外の名無しさん(>>16への返信) そこは事実と不安を分けておいたほうがいい。永久凍土から古いウイルスが取り出されて実験室で復活した例はたしかにあって、4万8500年前とされるものが報告されている。ただしあれはアメーバにしか感染しないタイプで、人や動物への危険は確認されていない。ウイルスは相手の細胞に入り込めないと何もできないから、古ければ古いほど今の生き物と噛み合わなくなる面もある。 18. 海外の名無しさん(>>17への返信) とはいえ2016年にシベリアで炭疽菌が広がって、トナカイが2000頭以上死んで子どもが1人亡くなった件はある。ただしあれは何万年も前のものではなく、昔の流行で死んだ動物の死骸が暑さで地表に出てきたのが原因とされている。「太古のウイルスが目を覚ます」より「数十年前に死んだ動物の埋没地点が露出する」ほうが、実際にはよほど現実的な問題らしい。 19. 海外の名無しさん これが可能なら人間も冷凍保存して未来で解凍すればいいのでは、と一瞬思ったけど、たぶんそんな単純な話ではないんだろうな。誰か詳しい人に説明してほしい。 20. 海外の名無しさん(>>19への返信) この虫は幼虫のうちに自分の体から水を抜き切れたから助かっている。水がなければ、凍っても体の中で氷の結晶が育たないので細胞が切り裂かれない。人間は大きくて重くて、大量の水を抱えたまま凍るから、その時点で組織が壊れてしまう。体のサイズが違うというより、成立する条件がまったく違う。 21. 海外の名無しさん それにしても4万6000年ぶりに起きて、すぐ繁殖に成功しているのがすごい。世代差がありすぎて相手と話が合わないだろうに、そこは気にしないんだな。 22. 海外の名無しさん(>>21への返信) 残念ながら相手はいない。この種は単為生殖で、メス1匹だけで卵を産んで増える。だから世代差の問題は最初から発生しないし、増えた子孫は全部その1匹のコピーということになる。逆にいえば、たった1匹が生き延びれば個体群がまるごと復活できるわけで、そのしぶとさのほうが怖い。 23. 海外の名無しさん 時間軸を並べると味わいがある。土が採取されたのが2002年、蘇生が報告されたのが2018年、新種として名前がついたのが2023年。しかもその間に実験室で100世代以上飼われていたらしい。掘り出した人は、まさか20年後にこんな話になるとは思っていなかっただろうな。 24. 海外の名無しさん 不老不死でもタイムマシンでもなくて、「条件がそろえば生き物は命を一時停止できる」というだけの話なんだけど、それだけで十分すぎるくらいすごい。人間がこの星を住めなくしたとしても、こういうやつらは土の中で静かに待っていて、環境が戻ったら何事もなかったように起き出すんだと思う。地球のほうは別に困っていない。困るのは俺たちだけだ。 まとめ シベリア・コリマ川下流域の地下約40メートルから掘り出された線虫が、解凍後に活動を再開して繁殖し、2023年に新種 Panagrolaimus kolymaensis として記載された。同じ巣穴の植物片の年代測定から、この地層は較正値で約4万5800〜4万7800年前から解けていないとされる。生き延びられたのは、体から水を抜いて代謝を完全に止めるクリプトビオシスという状態に入っていたためで、トレハロースという糖がその鍵を握っている。コメント欄ではまず「寝坊した虫」のジョークで盛り上がり、そこから「凍っている間は生きていたと言えるのか」という定義の話、クマムシとの違い、年代測定が虫そのものではなく周囲の植物片によるものだという指摘へと流れていった。古代の病原体を心配する声には、復活したウイルスがアメーバにしか感染しない例であることや、実際に被害が出た炭疽菌の件は数十年前の死骸が原因だったことが返され、必要以上に怖がらない方向に落ち着いている。人間の冷凍保存に希望を託した人は、体のサイズと水の量という現実を突きつけられていた。 元ソース: シベリアの科学者が、4万6000年ものあいだ永久凍土に凍りついていた線虫を発見した。その線虫は再び餌を食べはじめ、繁殖した The post 「4万6000年ぶりに目を覚まし、餌を食べ、卵を産んだ」シベリアの永久凍土から出てきた線虫の話 appeared first on みんな知ってた?【海外の反応】.…