YouTubeに最初に投稿された動画は、いまも消されずに残っている。2005年、動物園のゾウの前で18秒だけ撮られた「Me at the zoo(動物園の私)」である。ただ、この動画で本当に見るべきなのは映像のほうではない、という話がある。投稿した本人が、その説明欄を20年以上にわたって書き換え続けているからだ。しかも書き換える先は、たいてい自分たちが作った会社への苦情である。 ※注:この動画の説明欄は何度も書き換えられており、現在表示されている文面は本記事で紹介するものとは異なる。以下で引用する文言は、それぞれの時期に報じられた内容である。説明欄=動画の下に表示される、投稿者が自由に書ける概要文のこと。 今日の知ってた? 🎬 史上初のYouTube動画「Me at the zoo(動物園の私)」は、いまも公開されたまま残っている。そして投稿者はその説明欄を、YouTubeへの抗議文の掲示板として使ってきた。投稿したのは共同創業者の一人、ジョード・カリム。2005年4月23日、長さは18秒、内容は動物園のゾウの前に立って「鼻がすごく長い」と言うだけである。ところがこの説明欄は、2013年にコメント投稿へGoogle+アカウントが必要になったとき、2021年に低評価の数が非公開になったときと、YouTubeの方針が変わるたびに書き換えられ、そのつど海外メディアに取り上げられてきた。自社サービスの記念碑を、自社への苦情欄として使い続けている創業者、ということになる。 背景:18秒の動画が「最初の1本」になるまで YouTubeが立ち上がったのは2005年2月である。創業したのはチャド・ハーリー、スティーブ・チェン、ジョード・カリムの3人で、いずれもオンライン決済サービスのPayPalで働いていた経歴を持つ。ジョード・カリムは1979年に当時の東ドイツで生まれ、幼少期に西ドイツへ、その後アメリカへ移った人物である。 「Me at the zoo」が投稿されたのは、サービス開始からおよそ2か月後の2005年4月23日。撮影場所はカリフォルニア州のサンディエゴ動物園で、ゾウの飼育場の前に立ったカリムを、友人が手持ちのカメラで撮っている。本人が話す内容は、ゾウは鼻がとても長い、それがすごい、まあ言えることはこれくらい——ほぼそれだけだ。チャンネル名は本人の名前をそのまま使った「jawed」で、動画はここに1本だけ置かれた。 この18秒には、当時のYouTubeが何のためのサービスだったのかがそのまま出ている。編集も台本も企画もなく、手元のカメラで撮ったものをそのまま置く場所。再生数を伸ばす工夫も、視聴者を次の動画へ送り込む仕掛けもまだ存在しない。 その1年半後の2006年、GoogleがYouTubeを16億5000万ドル相当の株式で買収する。カリムはこの時期にはすでに日々の経営から距離を置いていて、大学院に進み、以後は投資家として活動している。つまり彼は、いまのYouTubeの運営に口を出せる立場ではない。唯一持っているのが、あの18秒の動画の説明欄だった。 説明欄が抗議の場になった、二つのタイミング 2013年:コメントするならGoogle+のアカウントを作れ。この年、YouTubeはコメント欄の仕組みを大きく変え、コメントを書くにはGoogle+のアカウントが必要になった。荒らし対策と、匿名性を薄めることで会話の質を上げる狙いだと説明されている。 ※注:Google+(グーグルプラス)=Googleが2011年に始めた交流サービス。Facebookに対抗する位置づけで、「サークル」という機能を使って投稿の公開範囲を相手ごとに分けられる点が特徴だった。利用者が定着せず、一般向けサービスは2019年に終了している。 変更への反発は大きかった。そのなかで、YouTube共同創業者本人が最初の動画の説明欄を「Google+のアカウントを作りたくないので、もうここにコメントできない」という趣旨の一文に書き換えたと報じられ、この一件は当時のニュースとして各国に広がった。コメント欄とGoogle+の紐づけは、その後段階的に取りやめになっている。 2021年11月:低評価の数が見えなくなった。YouTubeは、動画の低評価の件数を投稿者以外から見えないようにする変更を全世界で実施した。低評価ボタン自体はなくならず、押した数はクリエイター側の管理画面にだけ表示される。公式の説明は、小規模なクリエイターを狙って組織的に低評価を集める嫌がらせが起きているため、というものだった。 このときも説明欄が書き換わった。今度は一文ではなく、それなりの長さの文章である。広く引用されたのは「クリエイター全員がこれは悪い考えだと言っているなら、それはたぶん悪い考えなのだ」という趣旨の部分で、変更を撤回するよう求める内容だったと伝えられている。撤回はされず、現在に至るまで低評価の件数は公開されていない。 なお、元スレッドの投稿者によれば、現在の説明欄はYouTubeへの苦情ではなく、人体へのマイクロプラスチック蓄積を批判する内容に変わっているという。抗議の宛先は、もはやYouTubeにすら限られていない。 もう少し詳しく:日本の利用者も同じ日に同じ仕様を受け取った この二つの変更は、どちらもアメリカ限定の話ではない。Google+アカウントの紐づけも、低評価件数の非公開化も、日本語版だけ例外ということはなく、ほぼ同じ時期に同じ仕様が降ってきている。日本のYouTube利用者にとっても、他人事ではない記憶のはずである。 2013年の変更で実際に困ったのは、名前の表示だった。コメント欄に出る名前がGoogle+のプロフィール名に切り替わったため、自分がどの名前で表示されるのかを確認しようとして、慌てて設定画面を開いた人は少なくない。ハンドルネームで気楽に書き込んでいた場所に、突然「別のサービスの自分」が接続された形になったからである。この仕組みが不評のうちに巻き戻されたことは、Google+というサービスそのものの評価を象徴する出来事でもあった。 2021年の変更で失われたのは、再生する前の判断材料だった。低評価の件数は、動画の良し悪しを直接示すものではない。だが「手順を解説する動画で、低評価だけが妙に多い」「話題の商品のレビュー動画なのに、比率が明らかに偏っている」といった形で、再生ボタンを押す前の目安として機能していた側面がある。海外の掲示板でも日本語圏でも、この機能が消えたことへの不満が同じ形で出続けているのは、そのためだろう。 ※注:低評価数の非公開化=2021年11月に実施された変更。低評価ボタンは残っており、押すこと自体は今もできる。件数がその動画の投稿者にしか見えなくなった、という変更である。 ちなみに、この説明欄の更新をめぐっては「本当に本人が書いているのか」を疑う声も一部にある。長く新規投稿のないチャンネルであることが理由だが、そうでないと確かめられる材料も、そうだと確かめられる材料も公開されてはいない。ここは断定できる話ではない。 海外の反応 1. 海外の名無しさん 史上初のYouTube動画の説明欄を、自分専用の抗議看板として使えるだけの伝説的な影響力。考えてみたらとんでもない話だと思う。あの場所だけは他の誰にも取れない。 2. 海外の名無しさん(>>1への返信) ただし効果のほうはほぼゼロなんだけどね。二回とも方針は撤回されていないし、会社側が反応した形跡もない。それでも書き続けているのがこの話の味だとは思う。 3. 海外の名無しさん(>>1への返信) 効果がなくても、書き換えるたびにニュースになって世界中に届いている時点で、看板としては十分に機能している気がする。少なくとも今日、僕らはこうして話題にしているわけで。 4. 海外の名無しさん 低評価の数が見られなくなってから、もう5年になるのか。言われるまで気づかなかった。あれが当たり前だった頃の感覚のほうを、もう思い出せなくなっている。 5. 海外の名無しさん(>>4への返信) 自動生成の粗製動画が洪水みたいに流れてくる今となっては、低評価の件数を惜しんでいるのがのどかな時代の話に見えてくる。あの頃は、悩みの規模がまだ小さかった。 6. 海外の名無しさん(>>5への返信) いや、逆じゃないかな。低評価の件数が残っていたら、その粗製動画をふるい落とすのに多少は役立ったはずなんだ。判断材料が消えたタイミングで量産が始まったのが、いちばん厳しいところだと思う。 7. 海外の名無しさん(>>4への返信) ショート動画に至っては低評価ボタンそのものが見当たらない。件数が非公開になったどころか、意思表示の手段ごと消えている。これは仕様の都合というより、そういう設計思想なんだろうと感じる。 8. 海外の名無しさん ブラウザの拡張機能を入れれば低評価の数が表示される、という話をよく見かけるけれど、あれは実測値ではなく推定値なので、そのまま信じるのは危ないと思っている。 9. 海外の名無しさん(>>8への返信) その拡張機能を入れている人たちの評価の比率から全体を推し量る仕組みだから、数字としてはかなり歪んでいる。それでも入れているのは、正確さのためというより「納得していない」という意思表示に近い。 10. 海外の名無しさん 低評価を隠した本当の理由は、あの年に公式が出した年末企画の動画が記録的な数の低評価を集めたからだ、という見方が根強い。公式の説明は嫌がらせ対策だったけど、タイミングを覚えている人は多い。 11. 海外の名無しさん そもそも昔は5段階の星で評価できたんだよな。1から5まで選べた。あの頃のほうが情報量は多かったのに、なぜか二択に減って、最終的には片方が見えなくなった。 12. 海外の名無しさん(>>11への返信) 動画配信サービスの星評価がなくなったときのほうが個人的にはこたえた。あれ一つで、自分に合う作品を探す作業がまるごと成立しなくなった感覚がある。 13. 海外の名無しさん(>>12への返信) 中で働いていた立場から言うと、あの星の数字は利用者ごとに違う値が出ていたので、実はそこまで頼れるものではなかった。人気や視聴履歴を混ぜた推定値だったから、共通の指標ではなかったんだ。 14. 海外の名無しさん(>>11への返信) 5段階は選択肢が多すぎた気もするけれど、二択は二択で偽の二者択一を強いてくる。実際には「高評価・低評価・何もしない」の3択なので、そこがちょうどいい落としどころだったと思っている。 15. 海外の名無しさん 正直に言うと、僕はいまだにGoogle+が何だったのかを説明できない。プラットフォームのないFacebook、みたいな理解でだいたい合っているんだろうか。 16. 海外の名無しさん(>>15への返信) おおむね合っている。交流サービスがバブルだった時代の産物で、その後に仮想通貨が来て、今は生成AIが同じ位置にいる。数年ごとに来る大波の一つだったと思えばいい。 17. 海外の名無しさん(>>15への返信) 発想自体は悪くなかったんだよ。友達には見せたいけど家族には見せたくない投稿、というのは誰にでもあって、サークル機能はそこをきちんと分けられた。終了したときはがっかりした。 18. 海外の名無しさん(>>17への返信) そこは本質を突いていると思う。多くの人がFacebookに何も書かなくなったのは、全員に見せて問題ない内容まで薄めないといけなくなったからだ。薄めるくらいなら書かない、という結論になった。 19. 海外の名無しさん Google+の失敗は、招待制で少しずつ広げるという売り出し方をそのまま持ち込んだことだと思っている。メールサービスのときはその手が効いたけれど、人がいないと成立しない場所で同じことをやったら、ただ人がいないだけになる。 20. 海外の名無しさん 初期のYouTubeには友達リストも購読者リストもあって、個人あてのメッセージも送れたし、動画で返事をするボタンまであった。あの頃は掲示板と動画置き場の中間みたいな場所で、素晴らしかったよ。 21. 海外の名無しさん 最近は目当ての動画を探し当てるのが本気で苦行になっている。タイトルをそのまま入力しても、関係のない動画が3本ほど並んだあと、ショート動画が20本以上続く。 22. 海外の名無しさん(>>21への返信) それで結局、ホーム画面にもともと並んでいたのと同じ顔ぶれに戻ってくるんだよな。しかも半分くらいは自分がすでに見終わった動画だったりする。検索した意味がどこにも残らない。 23. 海外の名無しさん(>>21への返信) YouTubeがTikTokになろうとしているのが本当につらい。こちらが見たいのは10年前の38秒のネタ動画か、あるいは無名バンドの盛衰を5時間かけて語る講義であって、その中間は求めていない。 24. 海外の名無しさん 21年前の動画で再生数が4億回ちょっと、というのが逆に意外だった。もっと桁が違うと思っていた。歴史的な1本ではあるけれど、繰り返し再生されるタイプの動画ではないということなんだろう。 まとめ 2005年4月23日に投稿された18秒の動画「Me at the zoo」は、YouTube史上初の投稿として今も残っている。そして投稿者であるジョード・カリムは、その説明欄をYouTubeへの意見表明の場として使い続けてきた。2013年、コメント投稿にGoogle+アカウントが必要になったとき。2021年、低評価の件数が非公開になったとき。いずれも彼の書き換えが報じられ、そのつど議論の呼び水になっている。経営から離れた創業者が唯一持っている発言の場が、自分が撮った18秒の動画の下にある小さな文章だった、というところがこの話の芯である。 コメント欄は、抗議そのものより「昔のYouTubeには何があったか」の回想に流れていった。5段階の星評価、友達リスト、動画で返事をするボタン、そして押した数が誰にでも見えていた低評価。目当ての動画に検索でたどり着けないという不満と、Google+が結局なんだったのかという素朴な疑問が、それぞれ長い枝に育っていたのも印象的だった。効果はゼロだ、という冷めた指摘もあったが、書き換えるたびに世界中で話題になる時点で看板としては十分だ、という返しもついていた。 元ソース: 「YouTube共同創業者のジョード・カリムは、史上初の投稿動画『動物園の私』の説明欄を、YouTubeの方針を批判するために何度も書き換えてきたという」(元スレッド) The post 「Google+のアカウントは作りたくないので、もうここにコメントしない」史上初のYouTube動画の説明欄が20年やっていること appeared first on みんな知ってた?【海外の反応】.…