2014年12月5日の夜、ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港で、ソウル行きの大型機がゲートを離れ、滑走路へ向かって地上を走り出していた。その機体が途中で向きを変え、出発したばかりのゲートへ戻っていく。理由は機械の不具合でも天候でもない。ファーストクラスで出されたナッツの、出し方だった。 ※注:この一件は日本では「ナッツ・リターン」の名で広く報道された。英語圏では “nut rage incident”(ナッツをめぐる激怒事件)と呼ばれている。 今日の知ってた? ✈️ 2014年12月、大韓航空の副社長が、ファーストクラスで出されたマカダミアナッツの出し方に腹を立て、すでに地上を走り出していた機体をゲートへ引き返させた。ナッツを袋のまま手渡すのは、その航空会社のサービス手順書に沿った正しい出し方だった。副社長は乗務員を叱責したうえ暴行したと報じられ、直後にすべての役職を辞任。一審では航空保安に関する法律違反で懲役1年の実刑判決を受け、およそ5か月を拘置施設と刑務所で過ごしたのち、控訴審で執行猶予がつき釈放された。 背景:ゲートに戻る、というのがどれくらいの決断か 旅客機がゲートを離れてから飛び立つまでには、何段階かの区切りがある。まず乗降口の扉を閉じ、地上のトーイングカーが機体を後ろへ押し出す。ここまでが押し出しで、そこから機体は自力で誘導路を走り、管制の指示に従って滑走路の手前に並ぶ。この一件で機体が引き返したのは、その走行がすでに始まったあとだった。 ※注:プッシュバック=駐機場に頭から突っ込んで停まっている機体を、地上車で後ろへ押し出す作業。タキシング=押し出されたあと、機体が自力のエンジン推力で地上を走ること。ゲートリターン=走り出したあとで出発を取りやめ、駐機位置へ戻すこと。 ゲートに引き返すという判断は、乗客から見れば「ちょっと戻るだけ」に見える。実際には、管制に離陸の順番を返上する連絡を入れ、地上側は空いているはずのゲートを再び押さえ、トーイングカーと誘導員を呼び戻し、乗降橋をつなぎ直す。書類も作り直しになる。後ろに並んでいた便はその分だけ後ろにずれ、乗り継ぎのある乗客はその先の便に響く。だから通常は、体調不良の乗客が出た、貨物室の扉に異常が出た、といった安全に直結する理由がなければ選ばれない。 そして、扉を閉じたあとの機内で最終的な決定権を持つのは機長である。運航の可否も、引き返すかどうかも、機長の判断として記録される。会社の役員が乗り合わせていても、その人はあくまで一人の乗客であり、指揮系統の外にいる——建前としてはそうなっている。この事件が航空業界で長く語られているのは、ナッツの話が突飛だからというより、その建前が機内で崩れた記録が残ってしまったからである。 ※注:機長の権限=運航中の航空機について、機長が最終的な判断権と責任を持つという原則。多くの国の航空法で定められている。 もう少し詳しく ナッツは、正しく出されていた。怒りの発端は、ファーストクラスの乗客にマカダミアナッツが小袋のまま手渡されたことだった。副社長は「皿に盛って出すべきだ」と考えていたとされる。ところが同社の手順書では、袋を開けずに渡すのが正しい出し方だった。開封済みの容器で配ると、ナッツアレルギーを持つ乗客が近くにいた場合に触れてしまう恐れがあるためである。担当した乗務員は、教わったとおりの仕事をしていたことになる。 怒鳴るだけでは終わらなかった。報じられたところによれば、副社長は担当乗務員と客室部門の責任者を呼びつけ、その場でひざまずかせ、手にしていた書類などで殴打した。責任者は機体がゲートへ戻ったのちに降ろされ、便はその人物を欠いたまま出発している。この間の遅れはおよそ11分と記録された。乗客の一人は航空会社に苦情を伝えたが、返ってきたのは模型飛行機とカレンダーだったという。 役員が実際に収監された。副社長は事件の数日後に職を辞し、その後に起訴された。一審は航空機の安全な運航を妨げたとして懲役1年の実刑を言い渡した。控訴審は執行猶予付きの判決に改め、彼女は約5か月で釈放されている。争点の一つは「航路の変更」に当たるかどうかで、上級審は地上を走っている状態は空の航路とは言えないと判断した、と報じられた。企業の役員が機内でのふるまいを理由に刑事責任を問われ、実際に身柄を拘束された例は多くない。 降ろされた側のその後。機外へ出された客室部門の責任者は、当初は会社を守るために公表しないつもりだったと後に語っている。事情が変わったのは、自分と部下の関係について事実でない話が流れていると知ってからだった。この人物はのちに職場へ戻り、さらに時間が経ってから政党の副報道官に起用されたと報じられている。 そして、マカダミアナッツが売れた。事件の直後、この国でのマカダミアナッツの売上はおよそ250パーセント伸びたという記録が残っている。ハワイの加工工場に観光バスの予約が入るようになった、という現地の話まで出てきた。ちなみに、この出来事を扱ったウィキペディアの英語版には、航空事故の記事と同じ様式の情報欄が付いている。乗員乗客273名、生存者273名。 海外の反応 1. 海外の名無しさん この件のウィキペディアに、航空事故と同じ書式の被害欄が付いてるのが妙におかしい。乗員乗客273名、生存者273名。全員無事だと分かっているのに、律儀に数えて書いてある。 2. 海外の名無しさん(>>1への返信) しかも情報欄の最初の画像がボウルに盛られたマカダミアナッツなんだよな。事故調査報告の体裁で、この静物写真が出てくる落差が効いてる。 3. 海外の名無しさん 一番びっくりしたのは、ナッツの出し方のほうが正しかったという点。袋を開けずに渡すのは、近くの席にアレルギーの人がいたときのための決まりで、乗務員は教わったとおりにやっていた。 4. 海外の名無しさん(>>3への返信) そこが救いのなさの本体だと思う。仮に出し方が間違っていたとしても、あの反応は正当化のしようがない。しかも実際には、間違っていたのは怒った側だった。 5. 海外の名無しさん 地上業務の側にいた人間として言うと、走り出した機体をゲートに戻すのは本当に大ごとだよ。離陸の順番を返上して、いったん手放したはずの駐機位置をもう一度押さえて、車も人も呼び戻す。 6. 海外の名無しさん(>>5への返信) 記録された遅れは11分だったらしい。たった11分と思うかもしれないけど、その11分を作るために何十人が予定外に動いているかを考えると、笑えなくなってくる。 7. 海外の名無しさん 扉を閉めたあとの機内で決めるのは機長、というのが航空の大前提のはず。役員だろうが創業家だろうが、席に座った時点で一人の乗客のはずなんだけど。 8. 海外の名無しさん(>>7への返信) その線が一度でも消えると、次に「引き返せ」と言われたとき現場は判断できなくなる。安全のための決まりって、こういう一回で骨が抜けるんだよね。 9. 海外の名無しさん 日本ではこれ「ナッツ・リターン」って呼び名が付いて、当時えらく報道されていた。名前が短くて覚えやすいせいで、10年経っても通じるのが強い。 10. 海外の名無しさん(>>9への返信) 週刊誌が「ナッツ姫」と書いていた記憶がある。見出しの付け方がうまいというか、名づけた瞬間に事件の格が一段下がってしまう感じがすごい。 11. 海外の名無しさん 好きなのは後日談のほうで、事件のあとマカダミアナッツの売上が2.5倍近くまで跳ねたという記録が残っている。世の中の反応として正しいのかどうかは分からないけれど。 12. 海外の名無しさん(>>11への返信) ハワイの加工工場にアジアからの観光バスの予約が急に入るようになった、という話も出ていた。誰も得しない事件のはずが、ナッツ農家だけ静かに潤っている。 13. 海外の名無しさん 一部始終を見ていたファーストクラスの乗客が航空会社に苦情を入れたら、詫びとして模型飛行機とカレンダーが送られてきたらしい。ここまで来ると、どこか一か所でも正気の判断がなかったのかと思う。 14. 海外の名無しさん(>>13への返信) 模型飛行機を渡された乗客の顔が見たい。よりによって、いちばん見たくない形の飛行機が届いたわけで。 15. 海外の名無しさん 正直、いちばん珍しいのは実際に収監されたことだと思う。この手の話はたいてい、辞任の会見と寄付の発表で幕引きになる。数か月とはいえ塀の内側に入った例は記憶にない。 16. 海外の名無しさん(>>15への返信) 逆に言うと、機内であそこまで平然とやれたということは、それ以前にも似たことをして何も起きなかったのだろうと思ってしまう。慣れていないとあの態度は出ない。 17. 海外の名無しさん 怒鳴った、という部分より「ひざまずかせた」というところがずっと引っかかっている。あれは怒りの延長ではなくて、上下関係を体で確認させる行為なので、質がまるで違う。 18. 海外の名無しさん 機外に降ろされた責任者が、最初は会社を守るために黙っているつもりだったというのが重い。組織のために自分の被害を引っ込める判断を、被害を受けた側がしてしまう構造がある。 19. 海外の名無しさん(>>18への返信) その人は結局、職場に戻ったうえで後に政党の副報道官に起用されたと読んだ。事件のその後まで追える例は少ないので、そこだけは後味が悪くなくて助かる。 20. 海外の名無しさん 今さらだけど、これもう12年近く前なのか。もっと最近の出来事だと思っていた。ニュースの記憶って、驚いた度合いで新しさを勘違いする。 21. 海外の名無しさん どの会社にもある問題だと思う。役員が自社のサービスを使うと、現場から見て「お客様」と「上司」が同じ人になってしまう。役員が乗る便では現場が萎縮する、というのは航空に限らず聞く話。 22. 海外の名無しさん(>>21への返信) だから航空会社によっては、役員が自社便を使うときの立場をわざわざ規定に書いてあるところがある。書いておかないと、こうなるという実例が先にあったからだろうね。 23. 海外の名無しさん 決まりどおりに動いた人が怒鳴られる職場は、そのうち決まりを守らなくなる。今回はナッツで済んだけれど、同じ空気の中で誰かが安全確認を飛ばす日が来ないとは言えない。 まとめ ナッツの出し方をめぐって走行中の機体がゲートへ引き返し、乗務員が機内でひざまずかされ、副社長は辞任のうえ実刑判決を受けて約5か月を塀の内側で過ごした。日本では「ナッツ・リターン」の名で記憶されている出来事である。奇妙なのは、ナッツの出し方そのものは最初から正しかったということだ。 コメント欄で目立ったのは、怒った人物をあげつらう声よりも、航空の現場から見た「引き返すことの重さ」の説明と、扉を閉めたあとの決定権は機長にあるはずだという指摘だった。そして必ず、自分の職場の話に戻っていく。決まりどおりに動いた人が叱られる場所では、いずれ守るべき決まりのほうが軽くなる——ナッツの一件が10年以上たっても引用され続けるのは、たぶんその一点のためである。 元ソース: 「2014年、大韓航空の副社長がナッツの出し方に腹を立て、走行中の機体をゲートへ引き返させた」(元スレッド) The post 「ナッツは袋のまま出すのがマニュアル通り、アレルギー対策だった」正しく働いた乗務員が機内でひざまずかされた日 appeared first on みんな知ってた?【海外の反応】.…