これは、俺の親戚の間では今でも禁句になっている話。母方の祖母の家には、いわゆる「開かずの間」があった。場所は二階の一番奥。古い家によくある、薄暗い廊下の突き当たりに、襖でも扉でもないような妙な戸があった。木の板を縦に並べた引き戸で、真ん中に黒ずんだ取っ手がひとつだけ付いている。子供の頃、その戸の前を通るのが本当に嫌だった。別に、音がするとか、影が見えるとか、そういう派手なことがあったわけじゃない。ただ、そこだけ空気が違った。廊下を歩いていて、その戸の前に差しかかると、急に耳が詰まるような感じがする。夏でもそこだけ冷たくて、冬でもそこだけ少し生ぬるい。祖母はその部屋のことを「奥の間」と呼んでいた。…