
1: 少考さん ★ 2026/04/02(木) 21:03:52 ID:alsHywLF9 ※朝日新聞 2026年4月2日 15時00分 有料記事 哲学者・三木那由他=寄稿 Re:Ron連載「ことばをほどく」第17回 少し前に森バジルの『探偵小石は恋しない』(小学館)という小説を読んだ。 自分自身は恋をしないが他人の恋愛感情は見抜くことができるという探偵が、本当は小説の名探偵みたいな仕事をしたいのに不倫調査ばかり任されてしまって……というところから始まり、だがやがてそれが大きな事件へとつながって、どんでん返しに次ぐどんでん返しが展開するミステリーだ。 そのなかで、世間の人々がいかに恋愛の話ばかりしているか、そしてどれほどそれを当然視しているかを探偵が嘆く場面がある。 確かに、小説も映画も漫画もゲームも、すべてではないにしても非常に頻繁に恋愛を話題にしている。 それをメインテーマにするものも少なくない。 何なら、作中ではとりたてて恋愛を語られていなくても、「あのキャラクターはあのキャラクターを好きなのではないか」といった見解が語られることさえある。 個人的にびっくりするのだが、人気漫画『ONE PIECE』について主人公ルフィが「誰とくっつくか」という話題をファンのやりとりで見かけたりもする。 ルフィはそもそも現時点において、異性であれ同性であれ誰かに明示的に恋愛的関心を持っているという描写がなく、女性へのちょっとした性的関心を示すシーンさえ30年近い連載のなかでほんの2回ほどあるのみで、しかもそれは作者の説明によると、積極的に惹(ひ)きつけられているというより周囲の男友達の反応につられているという性質の振る舞いだという。 むしろ描写からすると恋愛をしないキャラクターと見なしたほうが整合的なくらいなのだが、それでも恋愛に関心を持つ読者は少なくない。 もちろんフィクションの話だけではない。 友人同士の語らいで恋愛が話題になるというのも、望むと望まざるとにかかわらず多くのひとが人生のどこかで経験したことだろう。 また、人間と人間の関係としての恋愛について語られるだけでなく、恋愛の心理学や恋愛の神経科学といったテーマもときに見かける。 2025年の「ナショナルジオグラフィック」の記事で恋愛とオキシトシンやドーパミンといった分泌物の関係が説明されていたことがあるが、「恋愛とホルモン」というのも人気のトピックのひとつだろう。 そこからの派生で、恋愛と美容についての話題も目にすることがある。 恋愛の社会学だっていくつかそれを主題にした本が出ている程度に人気のトピックだ。 どういうわけか、世の中のひとの多くは恋愛について語るのが本当に大好きなようだ。 これ自体、不思議なことではある。 ただ、心理学者でも社会学者でも恋愛経験豊富な人間でもない言語哲学者として気になるのは、「恋愛」という言葉の注意すべき振る舞いである。 ■恋愛を分析する2種類の視点 キャリー・ジェンキンズという哲学者がいる。 まだ翻訳はなく、日本ではあまり知られていないだろう。 カナダのブリティッシュコロンビア大学の教授で、形而上学や認識論の研究を背景としながら、同時にポリアモリーの観点から恋愛の哲学について語っている論者だ。 ポリアモリーというのは、同意に基づき複数人で親密な関係を築くありかたであり、ジェンキンズは自身がその当事者であることをオープンにしている。 そんなジェンキンズの2017年の著書『What Love Is: And What It Could Be』(愛とは何か? 何でありうるか?)は、「なぜ自分がポリアモリー的な関係のもとで抱いている感情は『恋愛』の心理学や生理学で語られているものと変わらないはずなのに、自分のありかたは真面目な『恋愛』ではない『浮気』のように語られるのか?」という率直な疑問を手掛かりに、そもそも恋愛とは何なのかを形而上学的に、けれど非専門家でも読みやすい軽やかな文体で問うていく楽しい本である。 ジェンキンズが着目するのは、恋愛を分析する視点には主に2種類のものがあるという点だ。 神経科学者や生物学者は、恋愛を特定の身体反応(オキシトシンなどのホルモンの分泌とそれによってもたらされる効果)として捉えたうえで、その身体反応について調査したり、そうした機能が生じるに至った進化論的なストーリーを語ったりする傾向がある。 これをジェンキンズは「恋愛は生物学」という見方だとする。 ■「ロマンチックラブ・イデオロギー」を問う 他方で、恋愛は社会学などで… 残り6631文字 「恋愛」という言葉の注意すべき振る舞い 結びつく二つの意味を疑う:朝日新聞■Re:Ron連載「ことばをほどく」第17回 少し前に森バジルの『探偵小石は恋しない』(小学館)という小説を読んだ。自分自身は恋をしないが他人の恋愛感情は見抜くことができるという探偵が、本当は小説の名…朝日新聞…