元スレ 全てのレス 2: ◆encJnTiffI:2018/06/02(土) 20:34:43.59 :d0tUswhw0 ピピピッ ピピピッ 午前6時にセットされた目覚まし時計が部屋中に鳴り響き、持ち主に時刻を告げる。 「ん……」 二宮飛鳥は気だるそうな動きでベッドを抜け出し、机に置いてある目覚まし時計の電源を切った。眠い目を擦りながら、昨夜創作に煮詰まりそのまま放り出していた漫画ノートやポーズ集を引き出しに仕舞い登校の準備をする。 その日もいつも通り制服に着替え、身だしなみを整えると母親が作ってくれた朝食を食べ、歯磨きをして、家族にいってきますと伝えてから家を出る。 昨夜見ていたTVの天気予報通り外は雨がしとしと降っており、本格的な梅雨入りを告げていた。家から持ってきた無地の傘を差して歩きながら、飛鳥は小さく言葉を漏らした。 「……雨は嫌いだ」 "プロデューサーが亡くなった" その訃報は1週間前、自宅にやってきた346プロダクションの役員から知らされた。 居間で母親と共に役員の話を聞いていた飛鳥だったが、終始心は空っぽの状態だった。母親に指摘されるまで飲み物に一切口もつけず、ふと唇に触れると緊張でカサついていた。 出勤途中に車に轢かれそうになっていた女の子を助けようとして亡くなったこと。その日は雨が降っていて車の急ブレーキがあまり効かない状態だったこと。担当の、しかもまだ成人にも達していないアイドルに真実を言うべきか迷ったが、プロダクション側で「これはプロデューサーとアイドルの問題でもある」という結論に至り情報公開をしたということを聞かされた。 翌日の夕方頃、母親と一緒に通夜に参列した。人生で初めて葬式に出席した飛鳥は、皆が喪服の中自分だけ制服であることに若干の違和感を感じつつも、母親にやり方を教えてもらいながらたどたどしい動作で焼香と会釈を終え、無感情で事が終わるのを眺めていた。 式も終わりに近づき、出棺する前に故人に花を添えるというので、飛鳥はスタッフに貰った花を持って棺に近づいた。焼香の際には少し遠くて見えなかったプロデューサーの顔がはっきりと見える。その顔はとても安らかで、今にも起き上がりそうな様子だった。 その顔を見た瞬間、今まで半ば夢のように感じていたプロデューサーの死がどうしようもない現実のことなのだと、もう二度とプロデューサーに会えないのだと、非情な真実に頭をガツンと殴られたような感覚に陥った。 「あぁ……」 一緒に笑ってご飯を食べたこと、ゲームセンターでスコアを競い合ったりした思い出が浮かんでは消える。 「いや……いやだ……」 周りに迷惑をかけまいと感情を殺してきたが、まだ14歳である少女の心の容量は限界だった。 「ぷろ……でゅーさー……いやだよぉ……うぅっ……うあぁぁぁ……!」 その場に座り込んで花を抱きしめながら、飛鳥は声を上げて慟哭した。初めて経験した身近な人の死は、こんなにも辛く苦しいものだということを認識しながらも、溢れ出る涙を止めることは出来なかった。 この日も、外では雨が降り続いていた。…