全てのレス元スレ 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2020/08/23(日) 20:57:38.32 :mEhN2ZkD0 暑い夏の日の出来事であった。 彼女たちは七年もの間戦い続けている、戦争がはじまったころにあった浪漫や勝利の興奮は既に失われていた。 かといって彼女たちが惰性で戦い続けていたわけでは決してない、余人には理解しがたい誇りや義務感が彼女たちを支えていた。 この日、鎮守府司令室は重苦しい空気につつまれていた。 「連合艦隊各員奮闘したものの敵旗艦撃破はならず、海域突破は失敗いたしました、申し訳ありません」 最終海域から帰還し中破した大和が悲痛な表情で報告をおこなった。 いつもならば参加艦をねぎらい、次回の出撃に備えよと提督の言葉があるはずである、しかし鎮守府司令室の沈黙は続いた。 連合艦隊は考えうる限りの最高のメンバーで構成され、支援艦隊と航空支援も万全の体制で臨み、友軍艦隊まで投入されたが敗れたのだ。 これまでで最高の戦力で挑んだラストダンスに失敗したことは、鎮守府に大きな衝撃をあたえていた。 それでも、これまでの作戦で甲突破を続けていたこの鎮守府ならば、すぐに持ち直し再出撃の準備をはじめていただろう。 長く続いた沈黙をやぶったのは秘書官の大淀であった。 「今回の作戦最終日は明日のメンテまでとなります、難易度を変更されるなら、そろそろ・・・」 言外に甲クリアは厳しい状況にあることを告げ、難易度を落とし確実なクリアを勧めていた。 物資も底をつき、高速修復剤も残り少なくなっている、提督は決断を迫られていた。 資源の管理と艦娘たちの修理を担当している明石が声をあげた。 「資源は勲章やプレゼント箱を割ればなんとかなりますが、修理待ちの艦娘が20人以上、E-5で損傷した艦娘の修理すら延期させています」 明石は艦娘たちの間で厭戦気分が蔓延し、これ以上の甲挑戦は不可能であると告げ、難易度低下を求める。 「私は反対です、このまま甲挑戦を続けるべきです、今撤退すればこれまで費やした資源が無駄になります、この戦いで傷ついた艦娘たちになんと説明すればよいのですか」 最終海域の甲挑戦を薦めた長門が今さら引き下がれないのだろう、甲でのクリアを求め言葉を続けた。 「100回叩いて壊れなくても101回目で壊れるかもしれません、味方が苦しい時は敵も苦しい、あきらめずに挑戦するべきです」 長門の言葉には説得力があった、これまで何度も戦ってきた大規模作戦全てにこの鎮守府は甲クリアをしていた、その事実が自信にもなりプレッシャーにもなっていた。 大規模作戦甲種勲章、演習のたびに表示されるそれに艦娘たちも誇りに思い、他鎮守府に演習相手として遠征する時は甲種勲章を胸につけた。 他鎮守府艦娘から向けられる羨望のまなざしが演習で戦う艦娘の心の糧となっていた。 「提督、まだ艦娘の士気は衰えていません、大和が無理なら私が行きます、必ずや甲突破してみせます」 提督は長門から視線を外し、壁の海図に目をやった。…