2: ◆kiHkJAZmtqg7 2016/09/30(金) 00:39:58.63 ID:uuFYzEsI0 「ステージイベントのお仕事、ですかっ!?」 「ハワイから帰ってきて早々だね」 「ああ。今回のハワイ特番の宣伝も兼ねて、だ」 悠貴は目を輝かせ、飛鳥は思案するように口元に手を当てる。 プロデューサーの言葉を受けた二人の反応は一見正反対だった。 「フム……しかし、頼子さんとあやめは不在のようだけど?彼女たちだって共にあの場所に行った仲間だ」 飛鳥が気にかけていることと言えば単純で、要するにここには居ないもう二人のこと。 悠貴もそういえば、と改めて辺りを見回す。 「二人には別方面からのアプローチを頼んでいる。あやめはトークバラエティの番組に出て、そっちで番宣を。頼子には雑誌のインタビューを中心に、ハワイの文化にも深く触れた内容であることをアピールしてもらう予定だ」 「なるほど……それで、私たちはステージでのイベントなんですねっ」 「適材適所、いい響きじゃないか」 二人もまた、異なる場所でそれぞれに活躍している。 それを聞いただけで飛鳥と悠貴の目にじわりと闘志が宿る。 それを見て、プロデューサーも言葉を続けた。 「今回、規模はそこまで大きくはないが、いくつかの会場を回ってもらうことになる。内容はトークショーと、出来合いだけど歌を一曲だな」 「歌……ということはレッスンも必要になるんですか?」 「二人とも歌ったことがある曲だから、そこまで厳しいスケジュールじゃないさ。合わせのために時間も取ってある」 間に合うでしょうか、言葉とともに少し不安げに瞳を揺らす悠貴に、心配するなとプロデューサーは言う。 告げられた曲名に悠貴も、飛鳥もまた納得を得たようだった。 「ふむ、把握したよ。トークの方はやっぱりハワイの話かい?」 「そうなるな。ネタバレは程々に、土産話でオーディエンスを楽しませてくれ。さて、概要は以上だ。やれるな?」 「はいっ!アイドルユウキ、プロデューサーさんの期待に応えてみせますっ!」 「フフッ、気合十分のようだね。勿論、ボクだって悠貴に負けるつもりはないさ」 まるで鼓舞するかのような問いに、二人はしっかりと頷く。 悠貴はひたすらに元気よく、飛鳥はそんな悠貴に笑みを漏らしながら。 3: ◆kiHkJAZmtqg7 2016/09/30(金) 00:41:37.99 ID:uuFYzEsI0 「はいストップ!二人とも、力強く歌えばいいってものじゃないぞ。もう一回!」 トレーナーの声がレッスンルームに響く。 やっぱり、と二人はバツが悪そうに向かい合う。 隣から聞こえてくる声に負けまいとお互いに声を張り上げ続けていたのだから、当然といえば当然だった。 再び流れるイントロに意識を集中させて、もう一度。 声量で張り合うのは確かにいけなかった。それなら…… 「……言い方が悪かったか。自分を押し出すばっかりじゃなくてな。お前たちは二人で歌ってるんだから」 若干呆れ気味のトレーナーの言葉に、今度はさすがに苦笑い。 その後も何度か歌ってはみたものの、二人の歌声は調和が取りきれずバランスがちぐはぐなものになってしまっていた。 「なかなか、うまくいきませんでしたね……」 反省して、しぼんだ声音で悠貴は言う。 良いことも、悪いこともありのままを受け止めて返していく悠貴の在り方は好ましいと飛鳥は思う。 「仕方ないさ。二人で声を重ねたのは、これが最初だ」 だから少しでも気分を晴らしてやりたい、なんて傲慢に思ってしまう。 悠貴に似合うのは、きっと快活な笑顔だ。 「でも、ちょっと不安です。このままじゃ、って思っちゃって」 その不安は、程度は違えど飛鳥も持っているものだった。 もともとレッスンの回数は少なめの日程なのに、出鼻を挫かれてしまったのだから。 それをかき消すために飛鳥はふ、と不敵に笑う。 「これから合わせていけばいい。それだけの話さ」 些細な気休めに過ぎない言葉。 それでも気休めとして望まれる効果は発揮してくれたらしい。 「そう、ですね。これから、形にしていかなきゃっ」 「そう気負うことはないだろう。ほら、ハングルース、だったか」 「あ……」 もう一つ、おまけに。 ハワイで悠貴が好んで使っていたハンドサインも添えてみる。 笑顔と一緒に、とのことだけど、なかなかどうしてそっちは難しい。 アイドルとして作る笑顔とも、これはまた別のスキルが要求される気がするのだ。 やはりこれは悠貴の専売特許かな、と改めて思った。 「気楽にいこう、だろう?」 「………………」 「悠貴?」 眩しい笑顔と一緒にそのサインを返してくれるものと思っていたのだが、アテが外れたようだ。 それどころか悠貴は硬直してしまって動かないので、さすがに不安になって声をかけてみる。 すると悠貴はおもちゃのネジを回しなおしたような動きで復活した。 「っ、あ、はいっ!気楽に、頑張っていきましょうっ!」 「……?ああ、明日からもよろしく」 気楽に、その言葉に反してカレンダーを見つめたまま、ひとつふたつとレッスンの日を数えなおす悠貴が、どうも気にかかった。…