1999年の秋、カナダのトロントで、ある大作映画の撮影がすでに始まっていた。ところがその現場には、看板になるはずのキャラクターを演じる俳優だけがいなかった。決まっていた役者が直前に降りてしまったからである。空席を埋めたのは、ハリウッドではほとんど誰も名前を知らなかったオーストラリアの舞台俳優だった。そして、その名前を製作陣に伝えたのは、同じ役を断った当人だったという。 ※注:ウルヴァリン=マーベル・コミックのキャラクター。手の甲から金属の爪が出て、傷がすぐ塞がる体を持つカナダ人という設定である。名前は北米やユーラシア北部に生息するイタチ科の動物「クズリ」の英語名からきている。 今日の知ってた? 🎬 映画『X-メン』(2000年)のウルヴァリン役は、当初ラッセル・クロウに打診されていた。クロウはこれを断り、後年のインタビューで「代わりにヒュー・ジャックマンの名前を挙げた」という趣旨のことを語っている。実際にその役をつかんだジャックマンは、2000年の第1作から2024年の『デッドプール&ウルヴァリン』まで、24年にわたって同じキャラクターを演じ続けることになった。 背景:ウルヴァリン役はなぜ空席になったのか 1990年代の終わり、20世紀フォックスはブライアン・シンガー監督で『X-メン』の映画化を進めていた。原作は1963年から続く人気シリーズだが、当時のハリウッドではアメコミ原作の映画はまだ「当たるかどうか分からないジャンル」で、予算も体制もいまの大型作品ほど潤沢ではなかった。 その中で最も難航したのがウルヴァリン役である。作品の中では脇役に近い立ち位置でありながら、原作ファンの思い入れが飛び抜けて強い。候補として複数の名前が挙がっては消えたと報じられており、ラッセル・クロウもそのうちの一人だったとされる。 クロウはこの話を受けなかった。理由については本人が折に触れて語っているが、要するに「筋肉と怒りで押す役が続くこと」と「長期のシリーズに縛られること」を避けたかった、という趣旨である。彼はこの直後に『グラディエーター』の撮影に入り、そちらでアカデミー主演男優賞を受けている。 役はいったん、スコットランド出身のダグレイ・スコットに決まった。ところがスコットが並行して出演していた『M:I-2』(ミッション:インポッシブル2)の撮影が予定より大きく延び、日程が噛み合わなくなる。スコットは降板し、『X-メン』はすでに回り始めた撮影の途中でウルヴァリン不在という状態になった。 そこで呼ばれたのが、ヒュー・ジャックマンだった。当時31歳。急な連絡を受けてトロントに飛び、撮影開始からおよそ3週間遅れで合流している。 もう少し詳しく 「推薦した」という話の出どころ。クロウ自身が複数のインタビューで、断ったあとにジャックマンの名前を挙げたと話している。英語圏のネットでは、このとき彼が「デカくてムキムキの男(huge, jacked man)を探せ」と言ったら本当にヒュー・ジャックマン(Hugh Jackman)が来た、というダジャレが定番のネタになっているが、これは後から作られた冗談として扱われている。 ただし、証言は一つではない。映画の配役をめぐる裏話は、語る人と語る時期によって細部が変わるのが普通で、この件も例外ではない。誰が最初に打診され、誰の一言が決め手になったのかまでは確定していない。ジャックマン自身も、以前に一度オーディションを受けて落ちていたと語ったことがある。「クロウの推薦だけで決まった」と読むと少し単純化しすぎで、いくつかの経路が重なった結果と考えたほうが実態に近い。 当時のジャックマンは本当に無名だった。オーストラリアではテレビドラマと舞台で知られた俳優で、1998年にはロンドンでミュージカル『オクラホマ!』のカーリー役を務め、高い評価を得ている。つまり実力はすでに認められていたが、活躍していたのは舞台であって、ハリウッドの映画界ではほぼ無印だった。撮影の途中で呼ばれた代役、というのが出発点である。 そして最初は反発された。原作のウルヴァリンは身長160センチ前後の、ずんぐりした体格として描かれてきた。対するジャックマンは188センチある。公開前の原作ファンの間では「背が高すぎる」という不満がはっきり存在した。それが今では、この役の顔として当たり前に受け入れられている。 狼を研究していた話。ジャックマンがよく語るエピソードとして、役作りの初期にウルヴァリンという動物を知らないまま、狼の記録映像を見て動きを研究していた、というものがある。あとで実物がイタチ科の小柄で獰猛な動物だと知り、準備をやり直したという。真偽をどうこう言うより、本人が繰り返し話す持ちネタとして定着している話である。 24年。ジャックマンは『X-メン』以降、シリーズの続編やスピンオフでこの役を演じ続けた。2017年公開の『LOGAN/ローガン』の時点で「同一のマーベルヒーローを演じ続けた最長記録」としてギネス世界記録に認定されており、いったん幕を引いたあと、2024年の『デッドプール&ウルヴァリン』で復帰している。一人の俳優が同じキャラクターをこれだけ長く担当した例は、映画の歴史全体で見てもごく少ない。 断ったほうのその後。クロウは『グラディエーター』のあと、『マスター・アンド・コマンダー』のジャック・オーブリー艦長、『シンデレラマン』のボクサーと、まったく別の路線を歩いている。そして2012年、ミュージカル映画『レ・ミゼラブル』で、ジャン・バルジャンを演じたジャックマンと、追う側のジャベールを演じたクロウが正面から向かい合うことになった。ウルヴァリン役の受け渡しから12年後の共演である。 海外の反応 1. 海外の名無しさん 「デカくてムキムキの男を連れてこい」とクロウが言ったら、本当にヒュー・ジャックマンが来た、というネタが定番になってるやつだ。出来すぎていて笑うんだけど、英語で綴りを並べると本当にそう読めてしまうのがずるい。 ※注:ヒュー・ジャックマン(Hugh Jackman)の綴りが「huge jacked man(デカくてムキムキの男)」に似ている、という英語圏の言葉遊び。事実というより、この話題が出るたびに繰り返される定番の冗談である。 2. 海外の名無しさん(>>1への返信) 自分がこの人の名前を初めて聞いたのが、まさにウルヴァリン起用のニュースだった。当時は音だけで覚えたので、しばらく変なところで区切って発音していた記憶がある。今にして思えば、一生に一度の当たりくじを引いた瞬間を見ていたわけだ。 3. 海外の名無しさん クロウがあの体を30年近く維持する羽目になっていたと考えると、絶対に途中で嫌気がさしていたと思う。断ったほうも受けたほうも、それぞれ欲しかったものを手に入れているという意味で、珍しく全員が勝った話なんだよな。 4. 海外の名無しさん(>>3への返信) おかげで手が空いて『マスター・アンド・コマンダー』のオーブリー艦長が生まれたわけで、これはもう完全に勝ちでしょう。あの映画の続編がいまだに来ないことだけが心残りなんだけど。 5. 海外の名無しさん(>>3への返信) ジャックマンのほうも「トレーニングは好きじゃない」と何度も言っているんだよね。好きでもない人間が24年にわたってあの体を作り直し続けたと思うと、むしろ評価が上がる。才能というより根性の話に見えてくる。 6. 海外の名無しさん この人、確か『ロード・オブ・ザ・リング』のアラゴルンも断っていなかったっけ。一時期は、彼が断った役だけでもう一本の映画史が書けそうな勢いだった気がする。 7. 海外の名無しさん(>>6への返信) 本人の説明では、ピーター・ジャクソン監督が自分を望んでいないと感じ取って、監督への敬意から降りたという話だった。強く推していたのはスタジオ側だった、と。事実だとしたらかなり見事な引き際だと思う。 8. 海外の名無しさん(>>6への返信) ガンダルフがショーン・コネリーで、アラゴルンがラッセル・クロウの『ロード・オブ・ザ・リング』が存在していた世界線があるわけだ。ちょっと見てみたい気もするし、絶対に今の形のほうが良かったという確信もある。 9. 海外の名無しさん 自分は最初に決まっていたのはダグレイ・スコットだと思っていた。『M:I-2』の撮影が延びて降板した、という話のほうを先に知っていたので、ここでクロウが出てくると少し混乱する。 10. 海外の名無しさん(>>9への返信) 両方あっても矛盾しないよ。打診されて断ったのがクロウ、そのあと正式に決まったのがスコット、日程が飛んで最後に呼ばれたのがジャックマン。ただ、この手の裏話は語る人ごとに細部が変わるから、どこまでが実際の順番なのかは正直あやしいと思っている。 11. 海外の名無しさん 『LAコンフィデンシャル』のクロウを見てほしい。溜め込んだ怒りが一気に出る瞬間の顔つきが、もう完全にウルヴァリンなんだ。当時「この人にやってほしい」と思っていた人間は、実際けっこういたはずだよ。 12. 海外の名無しさん クロウ版も見たかったな、というだけの話で、ジャックマンが悪いなんて1ミリも思っていない。同じキャラクターでも役者が変われば別の作品になるので、単純に両方の映像が存在してほしかった。 13. 海外の名無しさん(>>12への返信) クロウのほうが、内側に溜めた怒りを外に出す芝居はうまかったと思う。ただ体づくりと長期の続投という面ではジャックマンが圧倒的で、クロウなら2本か3本が限界だったんじゃないかな。しかも3本目あたりで「ウルヴァリン、ちょっと飲みすぎでは?」という顔になっていた気がする。 14. 海外の名無しさん そもそもウルヴァリンはカナダ人であってオーストラリア人ではない、というのは当時から言われ続けている。訛りをどうにかしてもらうところから始まるキャスティングだったんだよな。 15. 海外の名無しさん(>>14への返信) 細かい話だけど、オーストラリア出身なのはジャックマンで、クロウはニュージーランド出身ね。この話題になると毎回どちらの国も譲らないので、議論しているうちにますますカナダから遠ざかっていく。 16. 海外の名無しさん 原作のウルヴァリンは身長160センチちょっとの設定なので、忠実さだけで選ぶならダニー・デヴィートが最有力だったはずなんだ。188センチのジャックマンは公開前に散々に言われたのに、今では誰も文句を言わない。 17. 海外の名無しさん ラッセル・クロウがX-MENシリーズに残した最大の功績が「出演しなかったこと」というのは、落ち着いて考えるとかなりすごい。自分に向いていない仕事を見抜いたうえで、向いている人間の名前まで置いていったわけだから。 18. 海外の名無しさん この人、どうしていつも他の俳優のキャリアの入り口あたりにいるんだろう。ヘンリー・カヴィルも、学生のころ撮影で学校に来ていたクロウに相談して励まされたのがきっかけだった、と本人が話していた。 19. 海外の名無しさん(>>18への返信) 『シンデレラマン』のときも、賞レースで自分ではなく共演者を推したという話が出回っている。どこまで本当かは分からないけれど、こういう逸話がいくつも積み上がっていくあたりに人柄が出ている気はする。 20. 海外の名無しさん 1999年時点のジャックマンが本当に無名だったことは、もっと強調されていいと思う。ロンドンで『オクラホマ!』を歌っていた舞台の人であって、映画界の人ではなかった。撮影が始まったあとに呼ばれて、そのまま24年である。 21. 海外の名無しさん 役作りの初期に、ウルヴァリンという動物を知らないまま狼の映像ばかり研究していた、という彼の話が好きなんだ。あとから実物を見て、小柄で凶暴なイタチ科の動物だと気づいたらしい。準備が丸ごと無駄になる感覚、想像するとなかなかつらい。 22. 海外の名無しさん 断る判断も才能なんだと思う。合わない仕事を受けて20年苦しむより、名前を一つ差し出して自分は別の海に出ていくほうがいい。結果としてクロウは船の艦長になり、ジャックマンは爪の人になった。どちらもいい着地だった。 まとめ 映画『X-メン』のウルヴァリン役をめぐる経緯は、打診を断ったラッセル・クロウ、いったん決まりながら日程の都合で降りたダグレイ・スコット、撮影開始後に呼ばれたヒュー・ジャックマンという三段構えになっている。クロウが後任としてジャックマンの名前を挙げた、という話は本人が語っているものだが、配役の裏話は語る人ごとに細部が動く。誰の一言が決め手だったかまでは、確定した形では残っていない。 コメント欄で目立ったのは、意外にも「クロウ版も見たかった」という声だった。ジャックマンを否定するのではなく、存在しなかったほうの映像を惜しむ言い方が多い。同時に「クロウが24年も続けられたはずがない」という現実的な指摘も並び、結局のところ全員が得をした配役だった、というあたりに落ち着いていく。断る側にも見る目が要る、という話でもある。 元ソース: 「映画『X-メン』のウルヴァリン役は当初ラッセル・クロウに打診され、彼が断ったあとヒュー・ジャックマンを推薦した」(元スレッド) The post 「断ったほうも受けたほうも、それぞれ欲しかったものを手に入れた」ラッセル・クロウが手放した役をヒュー・ジャックマンが24年演じた話 appeared first on 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