元スレ 全てのレス 1: ◆axPwtNeSoU:2018/11/27(火) 23:55:20.39 :T9RTICfA0 「……あーあ」 溜め息混じりに、俺はぼそりと呟いた。 「……年末、つまんね」 手に持ったグラスの中で、琥珀色の液体に浮かぶ丸い氷が、カランと小さく音をたてる。 池袋にある行きつけのバー、『AKASAKA』。 ここに通い始めて、もう何年になるだろうか。 池袋にあるのに『AKASAKA』とはまた妙なネーミングだが――理由を聞けば何のことはない、オーナーの名字が赤坂だというだけの話だ。 まだ早い時間で、客はただ独り、自分だけの店内。 呟き声のつもりだったが、静かな店内では思ったよりも響いたらしい。 この店のオーナーであり、マスターでもある赤坂氏が、厨房スペースの奥から、のそりと現れた。 手にもった皿にはスモークチーズか何かだろうか、うす茶色の四角い切り身みたいなものがのっている。 「ん」 差し出された皿から、ひとかけつまんで、口に入れる。 ……うめぇ。 もうひと切れ、と手を伸ばす俺の姿を見て、赤坂氏がかすかに自慢げな表情を浮かべる。 「……イカかい?」 「ん」 ニヤリと太い笑みを浮かべてうなずく赤坂氏。 ……自家製のイカの燻製とはね。こりゃまたヒットだな。今日来て正解だったぜ。 ――このおっさん、ゴツい顔立ちと体格に似合わず、実は料理のセンスが抜群なのだ。 客のいない時、たまにこうして作ってくれるつまみは、毎度酒がすすむこと請け合い。 半分はこれを目当てに通っているようなものだ。…