
1 名前:名無しさん@涙目です。:2025/02/27(木) 21:18:38.82 ID:TQ6wRIop0●.net BE:675960865-2BP(2000) エプロンにつけた「店長」の名札を見て、その女性は遠慮がちに声をかけてきた。5、6年ほど前の話だ。 20代くらいだろうか。聞けば在日コリアンだという。「ヘイト本がないから、ここには安心して本を買いに来られる。 ありがとうございます」。そう頭を下げる女性を見送りながら、清風堂書店の社長、面屋洋さん(49)は 「ここにあってよかった、と思われる本屋を目指していたんだ。やってきてよかった」と思った。 父の龍延さん(82)が切り盛りしていた書店に、2013年に入社した。それまではフリーターとして 職を転々としていて、棚の本がどんな順序で並ぶのかも知らず、棚に込められる「本屋の思い」なんて 想像すらできなかった。当時、店に届く新刊本を手に取ると、次々と「嫌韓」の文字が目についた。 中には世間でベストセラーになった本もあった。洋さん自身、ゲイで性的マイノリティーだ。 何の罪もない人たちが、その属性や指向で差別の対象になる。そんな世の中に、これから自分が 足を踏み入れる書店・出版業界が手を貸しているような気がした。 我が身に置き換えて考えても、自分のアイデンティティーを全否定する本がある書店に行きたいとは思わない。 「ヘイト本は置かない」。2年ほどして、店長になった洋さんが最初に決めたルールだった。 「炎上」したこともあった。百田尚樹著『日本国紀』に「安倍政権時に書かれた歴史改ざんファンタジー 目的は憲法改正か!?」などと書いたポップをつけて並べると、その写真がネットにアップされ、 攻撃された。客からも「著者を侮辱しているのでは」と問い詰められた。 一方で、「こういう店で本を買いたい」と洋さんを支持するネットの書き込みもあった。ポップが 起点となり、議論が広がった。洋さんに不思議な喜びがこみ上げた。「どう売るか、も本屋の大切な役割だ」。 それ以来、「棚作り」に没頭した。社会課題、人文科学系、ジェンダーや差別問題――。仕入れる本を 念入りに選び、どの著者の本を隣り合わせに並べるか、に「思い」を込めた。作家のトークイベントも 可能な限り開いた。「本屋はそれ自体がメディアの一つ。平積みしているだけで良い本、信頼できる情報だと 思ってもらえる」。その思いはいまも変わらない。不確かな情報すら急速に拡大する世の中だからこそ 書店の役割がある、とも感じる。だが、時代の流れにはあらがえず、閉店が決まった。閉店を1週間後に 控えた日。棚にぎっしり並べた一押しのマンガも、3月になれば返品作業が待っている。洋さんは店内を ゆっくり見渡した。あの日の女性の言葉を思い出しながら。 引用元:…