
1: 煮卵 ★ oXBJs0jV9 2026-08-19 20:59:06 新型コロナウイルスが世界を襲った2020年、米国のテレビに連日登場し、ウイルスの脅威を解説した小柄な医師がいた。 アンソニー・ファウチ博士である。国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の所長として、実に40年近く数々の感染症と闘ってきた、押しも押されもせぬ大御所であった。 パンデミックの初期、混乱と恐怖の中で科学的な事実を淡々と語る彼は、多くの米国人にとって「頼れる存在」であり、英雄でもあって、彼の顔がプリントされたマグカップや靴下が飛ぶように売れた。 彼の活躍は日本でもよく知られて、京セラの創業者である稲盛和夫氏が創設した稲盛倫理賞を24年に受賞している。 ところが26年の夏。85歳になったこの老医師は、米国議会上院公聴会で111回にわたって証言を拒否し、議会侮辱の疑いで告発されるという、かつては想像もできなかった立場に追い込まれている。いったい何が起きたのか。 ◼111回の「黙秘」 事の発端は、26年7月末に開かれた上院公聴会である。委員長を務めるのは、コロナ対応をめぐって長年ファウチ氏を追及してきた共和党のランド・ポール上院議員。医師でもあるこの議員は、以前から「ファウチは議会で嘘をついた」と繰り返し批判してきた人物である。 召喚されたファウチ氏は、議員の質問にほとんど答えなかった。憲法が保障する「自己負罪拒否特権」、つまり「罪に問われかねない質問には黙秘できる」という権利を行使したのである。 彼は、ポール議員が自分に対して「常軌を逸した執着」を抱いていると痛烈に批判し、「公聴会の狙いは、私の発言を訴追の材料にすることだ」とも述べた。 黙秘という態度は、議員をいっそう怒らせた。そして8月6日、委員会は8対5の採決で、ファウチ氏を「議会侮辱」で刑事告発することを決めた。 有罪となれば、最長1年の禁錮刑もありうる。共和党の委員は全員賛成、民主党の委員は全員反対という党派対立を反映した結果だった。(略) さらに、ロックダウンやマスク着用の義務化といった対策が、過剰で害の大きいものだったという批判、そして、ワクチンを強く推進する一方で、代替的な治療を軽んじたという批判である。(略) ◼「尾身さん」はなぜ被告席に立たないのか 日本にもまた、パンデミックの「顔」となった専門家がいた。新型コロナウイルス感染症対策分科会の会長を務めた尾身茂氏である。 安倍晋三、菅義偉と歴代の総理大臣の記者会見にたびたび同席し、国民に語りかけた。ファウチ氏が「米国の顔」なら、尾身氏はまぎれもなく「日本の顔」だった。 そして尾身氏もまた、批判と無縁ではなかった。感染が長期化するにつれ、当初の好意的な空気は薄れ、「前のめり」との声が上がった。総理会見に並ぶ姿から、「尾身さんたちが何でも決めている」という印象が広がったのである。 より具体的な批判もあった。尾身氏が理事長を務めていた独立行政法人・地域医療機能推進機構をめぐる「幽霊病床」問題である。 多額の補助金を受けながら、系列病院のコロナ患者受け入れが低調だったため、週刊誌は「ぼったくり」とまで書き立てた。専門家対策の「顔」自身の利益相反を疑う点では、米国の構図と通じるところがある。 ところが、日本の「尾身バッシング」は大事にはならなかった。 この大きな違いを見て、「日本の方が健全」と単純に喜ぶことはできない。皮肉なことに、尾身氏自身が訴えているのは、日本ではコロナの「総括ができていない」点だ。誰も真剣に検証せず、誰も裁かれない。 米国は科学者を被告席へ引きずり出し、日本は熱狂も追及も、そして冷静な反省すらも、忘却のかなたへ流し去ろうとしている。 いわば、魔女狩りと記憶喪失。二つの国は、正反対の失敗の形を見せているのかもしれない。 全文は↓ [Wedge] 2026/8/19(水) 5:00…