あなたは、「チー牛」という言葉を知っているだろうか。 チー牛とは、牛丼屋で「三色チーズ牛丼を注文する若い男性」の自画像が、オタク、ネクラに多そうだという偏見から広まった言葉である。 チー牛、あるいは弱者男性などといった、新しい差別用語。これが男女逆転したとして、 「もしかして俺、チー牛女としか結婚できない?」 「弱者女性に優しくするのはリスクが高い」 なんて言葉がSNS上で投稿されたらどうだろうか。 恐らく炎上するに違いないが、それが男性へ向けた言葉だと、同意されたり称賛されたりして、誰も差別だとは言わない。これは異常事態だと言わざるを得ない。 弱者男性とは、独身・貧困・障害などといった「弱者になる要素」を備えた男性を指す。ただし、年収○○円以下など、数字によって厳密に定義されているものではない。弱者男性がネットスラングから誕生した言葉であり、数字で割り切れるような定義を持たないのだ。むしろ、あらゆる男性が持つであろう「弱者性」にハイライトを当てるため、この言葉が生まれたと言っていい。 書籍『弱者男性1500万人時代』では、小樽商科大学の池田伸介教授によって弱者男性の人口を推計している。その数、最大で1504万人。2022年時点での日本の人口は1億2494万7000人であり、男性は6075万人である。つまり、男性の約24%、4人に1人が何かしらの弱者性を抱えているのが実態である。多くの人が、弱者男性はそう多くない数字だと見積もっていたであろう。だが、決して少数ではない、ごく身近に存在するのが弱者男性なのである。 また、弱者男性の大半は自分のせいで弱者男性になったと考えている。自責の念が強いのだ。その背景には、何らかのせいにした途端、マジョリティにやり込められてしまうことがある。事実を述べたとしても「お前のせいだ」と言われ、結局は諦めてしまう。まさに、弱者が弱者たるゆえんであろう。…