日本の自動車メーカーは、下請けとの「共存共栄」をモットーとしてきた。前編の「EV化で大ピンチ…ここにきて、自動車メーカーの「下請け工場切り」がいよいよはじまった」に記した豊田社長の言葉も、そうした意識から出たものだろう。しかし、それでは海外勢とは渡り合えない。 EV量産の先駆者である米テスラは、製造拠点を分散させず、電池もボディもモーターも巨大な自社工場で作る。パーツはなるべく一体成形にして、工数を減らす。機材を集約すればするほど効率が上がり、工場からの排ガスや二酸化炭素排出も減って、脱炭素の要求も満たせる。一石何鳥にもなるのだ。 日本の大手も、このノウハウを遅れて追いかけ始めた。真岡市内の自動車部品工場へ検査機器などを納入している、堀ノ内産業の社長・手塚政男氏が証言する。 「真岡とその周辺の工場では設備の集約が始まり、分散していた製造ラインが他地域の工場へまとめられています。例えば、真岡の北隣にある芳賀町にはホンダエンジニアリングというホンダ子会社のオフィスと工場がありましたが、昨年4月に本社に統合され、他の拠点に機能が移されました。 弊社の収益の柱の一つは、工場にある機材のメンテナンスです。工場が縮小すれば、それだけ仕事も減る。今後もこの合理化の流れは止まらないでしょう」 工場が閉まると、そこで働く人がいなくなり、下請けの仕事がなくなるだけではない。工場から別の工場へ部品を運ぶ物流業者、製品の保管場所を提供する倉庫会社、施設の清掃業者、従業員食堂や売店の管理業者に、備品・消耗品を納入する業者……それらが丸ごと壊滅してしまう。 つまり、町が一つなくなるのに匹敵する大打撃を地域にもたらすのだ。 岐路に立っているのは真岡だけではない。岐阜県南部、愛知県との県境に位置する人口約8000人の坂祝町では、この8月に三菱自動車の子会社・パジェロ製造の工場が45年の歴史に幕を下ろした。 パジェロの製造終了と入れ替わるようにして、三菱自動車は新型EV「エアトレック」をお披露目した。製造拠点は中国・湖南省長沙市。 これまで町の法人税収の30%以上をパジェロ製造が占めていた坂祝は「パジェロの町」を自任してきたが、EV化の波に襲われて、いわば町の大黒柱を中国に奪われてしまったのだ。 埼玉県狭山市では、およそ4600人が働くホンダ狭山工場が今年度いっぱいで閉鎖される。従業員の大半は、約40km離れた同社の寄居工場へ転勤となる予定だ。 関東有数の工業団地を擁し15万人の市民が暮らす狭山は、坂祝ほど一つの工場に依存しているわけではないが、それでも「関連企業や従業員の家族が納める税金を考慮すると、市の歳入およそ500億円のうち、100億円近くが自動車関係とみられる」(狭山市幹部)。 工場閉鎖を機に人口流出が始まり、縮小と衰退への坂道を転がることにもなりかねない。…