「まだ誰も見たことのない色」と聞くと、深海の生き物か、どこか遠い星の鉱物の話を想像するかもしれない。ところが今回の話は、そのどちらでもない。世界のどこかに新しい色が隠れていたわけではなく、目の中にある特定の細胞だけをレーザーで狙って光らせると、ふだんの見え方では絶対に起こらない色の知覚が現れる、という話である。その色は「オロ(Olo)」と名付けられ、報告しているのは実験に参加した5人だけだという。しかもこの色は、写真にも、画面にも、絵の具にも移すことができない。 ※注:この記事で「色」と呼んでいるものは、光そのものの性質ではなく、目が受け取った信号を脳が解釈して作り上げる感覚のほうを指している。この区別を先に置いておかないと、以下の話は「新しい光が見つかった」という別の話に読めてしまう。 今日の知ってた? 🔬 網膜にあるM錐体という細胞だけをレーザーで選んで刺激すると、ふだんの視覚では決して起こらない色の知覚が生じる。この知覚には「オロ(Olo)」という名前が付けられ、それを見たと報告しているのは米カリフォルニア大学バークレー校で行われた実験の被験者5人だけである。M錐体は自然な光のもとでは必ず他の錐体と一緒に反応してしまうため、日常の光でもディスプレイでも、この刺激の作り方を再現することはできない。実験では被験者一人ひとりの網膜の細胞配置を事前に調べ上げ、その人専用にレーザーの狙いを合わせる必要があった。 背景:目の中にある3種類のセンサー 人間の網膜には、色を捉える錐体細胞が3種類ある。長い波長によく反応するL錐体、中くらいの波長に反応するM錐体、短い波長に反応するS錐体で、それぞれ大まかに赤・緑・青の担当だと説明されることが多い。目に入ってきた光がこの3つをどんな比率で反応させたか、その組み合わせを脳が読み取った結果が、私たちの感じる「色」である。 ここで大事なのは、3つの担当範囲がきれいに分かれてはいないという点だ。反応する波長の幅は互いに大きく重なっていて、とくにM錐体は、その守備範囲がL錐体とS錐体の間にすっぽり収まっている。つまり、M錐体を反応させる波長の光は、必ずL錐体も一緒に反応させてしまう。緑の葉を見ているときも、緑色のライトを浴びているときも、M錐体だけが単独で働いている瞬間は一度もない。 だから脳は、生まれてから今日まで一度も「M錐体だけが強く反応している」という信号を受け取ったことがない。そこにレーザーで無理やりその信号を作って送り込むと、脳は前例のない入力を前に、前例のない色として処理する。オロと呼ばれているのは、そうやって生じた知覚のほうである。空のどこかに浮いている色でも、物体の表面に付いている色でもない。 もう少し詳しく 「新しい色が発見された」という話ではない。この話は「未知の色が見つかった」という形で紹介されがちだが、実際に起きているのは順序が逆である。自然界に隠れていた色を誰かが見つけたのではなく、自然界では起こりえない刺激の与え方を人工的に作ったら、それに対応する知覚が出てきた、という順番だ。同じ理屈でいえば、色が先にあって人間が後から見つけたのではなく、目と脳の仕組みが先にあって、そこに新しい入力を差し込んだから新しい出力が出た、と言ったほうが実態に近い。 網膜は一人ひとり違うので、狙いも一人ずつ合わせるしかない。3種類の錐体は網膜の上にきれいな格子状に並んでいるわけではなく、ばらばらに散らばっている。しかもその散らばり方は人によって違う。コメント欄では「指紋みたいなもの」という言い方をしている人がいたが、感覚としてはそれが近い。だから、この実験ではまず被験者の網膜を細かく調べ上げ、どの位置にどの種類の錐体があるのかを地図にしてから、その人専用にレーザーの狙いを設定する。網膜を微細な区画ごとに調べていく作業には何時間もかかり、複数回に分けて行われたという話もコメント欄で紹介されていた。誰でもふらっと立ち寄って体験できる、という性質のものではない。 必要なのはレーザーだけではない。コメント欄で「補償光学が要る」と指摘している人がいた。角膜や水晶体を通った光は、その人固有の歪みを受けてから網膜に届く。狙った1個の細胞に当てたいなら、その歪みをあらかじめ打ち消しておかなければならない。そのために使われるのが、形を高速で変えられる鏡で光の乱れを補正する装置である。もともとは大気の揺らぎを打ち消して星をくっきり見るために天文台で使われてきた技術で、値段も相応にする。科学館の体験コーナーに置くには、装置も手順もまだ遠い。 画面にもインクにも出せないのは、原理の問題である。ここが読者の一番引っかかるところだと思う。ディスプレイができるのは光を出すことだけで、その光は目に入った時点で必ず複数の錐体を一緒に反応させる。絵の具やインクも、光を反射させている以上は同じことだ。つまりオロは「まだ再現できていない」のではなく、光を届ける方式である限り原理的に再現できない。ネット上に出回っている色見本は、あくまで普通の方法で出せる色のうち一番近いものにすぎず、実際に見た人たちが「これが一番近い」と合意した近似の色である。元記事には「現実にある最も純粋な青緑でさえ、あれを見たあとでは色あせて見える」という表現があった。近似の見本を見て「ただの明るい青緑じゃないか」と感じるのは、たぶん正しい。見本のほうが本物ではないのだから。 「5人だけ」という言い方には但し書きがある。元記事に書かれているのは、正確には「バークレーの実験の被験者5人だけが公式にオロを見た」という言い回しである。コメント欄では、この「公式に」という一語に注目した人がいた。人間の目には生まれつきの個人差があり、記録に残らないところで似た知覚が生じた人がいないとは言い切れない。ただし確かめる方法もない、という趣旨である。なお、この色がなぜ「オロ」と呼ばれているのか、その名前の由来については元スレでは触れられていない。 海外の反応 1. 海外の名無しさん で、記事に載ってるこの色見本は結局のところ何色なんだ。普通に鮮やかな青緑にしか見えないんだが、これが5人しか見てないという色ということでいいのか。 2. 海外の名無しさん(>>1への返信) それは「目にレーザーを撃ち込まずに体験できる範囲で一番近い色」であって、本物ではないよ。実際に見た人たちが「近いのはこれ」と合意して選んだ近似の見本だ。だから普通に見える。普通に見えるように作ってあるんだから。 3. 海外の名無しさん(>>2への返信) 料理の写真と実物の関係みたいなものか。写真を見て「思ったより普通だな」と言われても、撮った側としては「そりゃ写真だからな」としか答えようがない。今回はその差が原理的に埋まらないというのが厄介なところだけど。 4. 海外の名無しさん 画面に出せない理由がしばらく飲み込めなかったけど、ようやく腑に落ちた。ディスプレイにできるのは光を出すことだけで、光が目に入ればL錐体もM錐体も一緒に反応してしまう。M錐体だけを狙うという条件が、光を投げる方式では原理的に満たせないわけだ。 5. 海外の名無しさん(>>4への返信) インクや絵の具も同じだね。あれは光を反射しているだけだから、届く時点ではやっぱり光だ。技術が進めばそのうち画面で見られるようになる、という類の話ではないんだよな。ここが今回いちばん誤解されてる部分だと思う。 6. 海外の名無しさん これ、費用とリスクはどのくらいなんだろう。科学館あたりが追加料金の特別体験として売り出したら、こういうのが好きな人間が喜んで金を払うと思うんだが。 7. 海外の名無しさん(>>6への返信) 一般公開はかなり難しいと思う。この実験では、まず被験者の錐体細胞がどこにどう並んでいるかを地図にして、その人の配置に合わせてレーザーの狙いを決めていたはず。錐体の散らばり方は指紋みたいに人それぞれだから、来場者ごとに毎回その作業をやることになる。 8. 海外の名無しさん(>>7への返信) 網膜を細かい区画ごとに順番に調べていく作業で、しかも何時間もかかったうえに複数回に分けて行われたという話だった。展示コーナーに来た人に「では今から数日かけて網膜の地図を作ります」と言うわけにもいかないだろう。将来的に自動で探索する仕組みができる余地はあると思うけど。 9. 海外の名無しさん(>>7への返信) レーザーとソフトウェアだけでは足りないのも大きい。補償光学、つまり形を高速で変える鏡で角膜や水晶体の歪みを打ち消す装置が要る。天文台が星を見るのに使っているのと同じ系統の技術で、値段も今のところそれ相応だ。 10. 海外の名無しさん(>>6への返信) そもそも目にレーザーを撃ち込んで網膜が焼けたりしないのかというのが先に気になった。色が見える見えない以前の問題として、けっこう度胸が要る実験なんじゃないの。 11. 海外の名無しさん(>>10への返信) この実験で使っているものは、焼くほどの出力ではないはずだよ。難しいのは強さのほうではなく、狙った細胞に正確に当て続けるほうだと思う。目は常に細かく動いているから、そこを追いかけ続けるほうがよほど大変だ。 12. 海外の名無しさん 元記事の書き方が丁寧で好きだった。「公式にオロを見たのは、バークレーの実験の被験者5人だけである」と、わざわざ「公式に」と入れてある。人間の目には生まれつきの個人差があるわけで、記録に残らないところで似たものを見た人がいなかったとは言い切れない、という含みだと思う。 13. 海外の名無しさん(>>12への返信) その但し書きは誠実だよね。しかも確かめようがないところがまたいい。仮にそういう人がいたとしても、本人には比べる相手がいないから、自分が特別なものを見ていると気づく機会すらない。 14. 海外の名無しさん こういう話になるといつも思うんだけど、そもそも私とあなたが同じ赤を見ているのかどうかも確かめようがないんだよな。同じものを指して同じ名前で呼んでいるだけで、頭の中で何が起きているかは互いに見えない。 15. 海外の名無しさん(>>14への返信) その話は二つに分けると整理しやすいと思う。「その人の内側でどんな感じがしているか」という部分は確かめようがなくて、これは昔から哲学がずっと扱ってきた領域。一方で「どの波長がどの細胞をどれだけ反応させるか」という物理的な部分は、基本的に誰の目でも同じように動いている。どちらの話をしているかで、答えられるかどうかが変わってくる。 16. 海外の名無しさん レーザーがなくてもできることならある。目を閉じて、目玉の外側の上のあたりを少し強めに押してみてほしい。白い輪が同心円状に広がって見えるはずで、それだけでも面白いんだが、輪と輪の間を見つめていると、ほかでは見たことのないピンクとも黄色ともつかない色が出てくる。 17. 海外の名無しさん(>>16への返信) 説明が足りない。押した結果いま目玉が痛いし頭痛もしてきた。色より先に後悔が見えたんだが、これも新しい知覚として数えていいのか。 18. 海外の名無しさん(>>16への返信) あれは眼内閃光と呼ばれている現象で、圧迫という機械的な刺激で網膜の細胞が発火してしまうために起きる。脳は網膜から信号が来れば、原因が光でも圧迫でも区別せずに「光った」として処理する。入力の作り方を変えると普段は出ない知覚が出る、という意味では、今回の話と根っこは同じだと思う。 19. 海外の名無しさん いい豆知識だった。おかげで偽色という考え方とLMS色空間という言葉を初めて知ることができた。目に入ってくる光の波長そのものではなく、3種類の細胞がそれぞれどれだけ反応したかで色を記述する、という発想がまず面白い。 20. 海外の名無しさん その5人は魔法使いか猫のどっちかだろう。人間が見られない色が見えるのは猫の仕事だと思っていたが、実際のところ猫は人間より見える色が少ないらしいので、この言い方も正しくないんだよな。 21. 海外の名無しさん 若い頃にちょっとよろしくない遊びをしていた身としては、一人しか見たことのない色ならいくらでも見てきたと言いたい。ただしこちらは再現性がないうえに、翌朝には何色だったかも思い出せないので、論文にはならない。 22. 海外の名無しさん(>>21への返信) ビートルズの『ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ』の世界からようこそ。ちなみにその手の体験談は査読を通らないので、履歴書に書くときは表現を工夫したほうがいい。 23. 海外の名無しさん ラヴクラフトの『宇宙からの色』がついに現実になったか。あれは隕石とともに落ちてきた、地上のどの色にも当てはまらない色が周囲を蝕んでいく話で、読んだときは「色に当てはまらない色」という設定が抽象的すぎてぴんと来なかった。今回の話を読んだあとだと、少しだけ想像がつく。 24. 海外の名無しさん アニメの『リック・アンド・モーティ』に、完璧な水平面を作ってモーティを立たせる場面があった。あまりに完璧なので降りられなくなり、そのあとの世界がすべて歪んで感じられるようになる。この5人も、あれ以来ずっと現実の青緑が物足りなく見えているのかもしれない。 25. 海外の名無しさん 「現実にある最も純粋な青緑でさえ、あれを見たあとでは色あせて見える」という一文が地味に怖い。知らないままでいれば普通にきれいだった色が、一度知ってしまったせいで一段格下げされるわけだから。見せてもらえるとしても、少し考えてから返事をしたい。 まとめ 順を追うと、話の筋はきれいに一本につながる。人間の網膜には3種類の錐体細胞があり、その反応する範囲は互いに重なっている。とくにM錐体は、単独で反応することが自然界では起こりえない位置にある。だから脳はその信号を受け取ったことがなく、レーザーで無理やり作って送り込むと、前例のない知覚として処理される。それがオロと呼ばれているもので、報告しているのはバークレーの実験に参加した5人。網膜の細胞配置は人によって違うので狙いも一人ずつ合わせる必要があり、光を投げる方式である以上、画面にもインクにも移すことはできない。コメント欄も、その原理の部分を互いに補足し合う流れが中心だった。科学館で体験できないかという案から始まって、装置の値段や網膜地図を作る手間の話に進み、目を押すと見える色の話や、そもそも他人と同じ赤を見ているのかという昔ながらの問いにも寄り道していく。最後は「知らないほうが幸せだったのでは」という感想で落ち着いていて、そこがいかにも人間らしかった。 元ソース: 「オロ」という名前の色があり、これまでに5人しか見たことがない。網膜のM錐体だけをレーザーで選んで刺激することでしか作り出せず、自然な視覚では他の錐体と必ず一緒に反応してしまう The post 「これまでに5人しか見ていない色がある」目の中の一種類の細胞だけをレーザーで狙うと現れるらしい appeared first on みんな知ってた?【海外の反応】.…