転載元: それでも動く名無し 2024/12/12(木) 19:03:18.40 ID:L71PTq1dd1212 ――ドラマでは、『源氏物語』のような貴公子と姫の恋愛模様も描かれましたね。 脚本家や制作陣は、ドラマは面白くなければいけないと思っていますが、私は面白いかどうかではなくて、史実に合っているかどうかをチェックするのが仕事です。舞台は1000年前の宮中の話ですが、実は道長や朝廷関連の史料(古記録)はたくさん残っているんです。その反面、紫式部関連の信頼できる史料は少なく、特に宮中に仕える前の史料は全くなく、どうしようもない。紫式部の歴史的評価は、歴史学界では「最高の文学を書いた人」くらいしかできないのではないでしょうか。紫式部の生涯を真面目に研究している歴史学者はいないと思います。 正解がないところを面白く創作するのは構わないとはいえ、時代考証を引き受けて全体のあらすじを最初見た時に、紫式部と道長が幼なじみで恋仲になると知ってがくぜんとしました。でも、すでに制作発表時に公表していることは、もう変えられません。私は自分の頭の中で、ドラマを「政治パート」と「恋愛パート」に分け、政治パートは「リアル(現実)パート」、恋愛パートは「フィクション(架空)パート」と割り切って考えることにしました。 2: それでも動く名無し 2024/12/12(木) 19:03:52.67 ID:L71PTq1dd1212 私は『源氏物語』は、皇位継承と政治闘争と浄土信仰が根幹となる、非常にシリアスな物語と捉えています。光源氏が若い頃に罪を犯し、年を取ってからその罰を受ける、そして死後に宇治の姫君がそれを 贖あがな うという重くて暗い物語である。でも、当時の読者だった宮中の女房たちは、高貴な男性が自分と同じ身分の低い女性のところに通う物語を、「自分にもいつか王子様が来るかもしれない」と胸をときめかせて読んだはずです。おそらくオムニバス形式の恋愛短編集として、読みたいところ、手に入ったところから読んだのでしょう。 私は時代考証として『光る君へ』を非常に重い皇位継承と宮廷政治のドラマにしたいのに、ほとんどの視聴者は紫式部と道長の恋愛パートを楽しんでいる。人間の気持ちは1000年の時を経ても同じなんだなあ、と思い至って感動しました。同時に、50年近い研究成果をドラマに注ぎ込んでいる歴史学者として、こんなに努力をしても喜んでくれる視聴者はあまりいないのだなあという絶望感も味わいましたが。…