1:名無し :2024/12/03(火) 16:18:03.444ID:bJqFtY25N つまり、私にはビートルズのよさもわるさも何もわからない。しかも歌いだすやいなや、キャーキャーというさわぎで、歌もろくすっぽきこえない。どうにかきこえたのは、イエスタデーはどうしたとかこうしたとかいう一曲だけ。何の感銘もなければ興奮もなく、ついこの間、同じ武道館で行われた原田・ジョフレ戦のあの全観衆の熱狂の百分の一ほどの興奮もなかった。 (中略) これらの少女たちは、私たちとはちがって、十分ビートルズ病の潜伏期、前驅症状をへて、最後の大発作を起こすためにここへ来ているだから、第一、心がまえがちがう。ベトナムの敬虔なる仏教徒を引き合いに出すのは申しわけないが、いわばこの少女たちは焼身自殺のパーティをやっているようなもので、それまでに全身に油を体にしみ込ませた上で、ここへやってきて、時至るとみるや、わが手でさっと燐寸の火をつけるのだから、でき上がりが早い。ビートルズが登場すると同時に、即座に最終的興奮段階に入れる下地ができているのである。 会場と同時に入場して、もう感激のあまり泣いていた二人の少女があったというから、気の早いのを通り越している。 2:名無し :2024/12/03(火) 16:18:34.078ID:bJqFtY25N 実は白状すると、私は舞台へ背を向けて、客席をみている方がよほど面白かった。何のために興奮するかわからぬものをみているのは、ちょっと不気味な感動である。私だって、興奮が自分の身にこたえれば、エレキだろうと、なんだろうと偏見はない。こう見えても、モンキー・ア・ゴーゴーという店ができたとき、興奮のあまり、一週間ぶっつづけにかよったおぼえのある私である。しかし今日の前に見ている光景は、原因不明で、いかにも不気味である。 私の数列うしろの席は、ビートルズ・ファンの女の子たちに占められていたが、その一人はときどき髪をかきむしって、前のほうへ垂れてきた髪のはじをかんでいるが、アイ・ラインが流れだしている恨むがごとき目をして、舞台をじっと眺めている顔は、まるでお芝居の累(かさね)である。その目がすわっていて、恍惚感というよりも、何だか人をのろうような顔つきで、私は、「突然別れ話を持ち出されてきたときの女は、こんな顔をするな」と思った。ところが、その口もとがだんだん痙攣してきて、しゃくりあげてきそうになると、ワーッ!と叫んで、ハンカチで口をおおい、身を撚って泣き出すのだからものすごい。 何で泣くほどのことがあるのか、わけがわからない。もっとも女の子は、たいてい、大してわけのわからないことに泣くものである。太った子が、身も世もあらぬ有様で、酸素が足りないみたいに口をぱくぱくさせると思うと、急に泣きながら、 「ジョージ!」 「リンゴー!」 などと叫びだすのを見ると、心配になってしまう。 熱狂というものには、何か暗い要素がある。 明るい午後の野球場の熱狂でも、本質的には、何か暗い要素をはらんでいる。そんなことは先刻承知のはずだが、これら少女たちの熱狂の暗さには、女の産室のうめき声につながる、何かやりきれないものがあるのはたしかだ。 だからビートルズがいいの悪いの、と私は言うのではない。また、ビートルズに熱狂するのを、別に道徳的堕落だとも思わない。ただ、三十分の演奏がおわり、アンコールもなく、出てゆけがしに扱われて退場する際、二人の少女が、まだ客席に泣いていて、腰が抜けたように、どうしても立ち上がれないのをみたときには、痛切な不気味さが私の心をうった。そんなに泣くほどのことは、何一つなかったのを、私は“知っているからである”。 小説家Mの話 第二十七回 : バナナ・ヒロシの「はーい!バナナです」 510:名無し :2024/12/03(火) 17:52:22.813ID:qW65Vx5fx >>2 >「リンゴー!」などと叫びだすのを見ると、心配になってしまう。 これホンマかなぁ リンゴのファンなんておらんやろ 521:名無し :2024/12/03(火) 17:54:33.026ID:QPIMe0/xs >>510 日本手は人気あった 4:名無し :2024/12/03(火) 16:19:01.000ID:kapIgVl/7 きもいな…