103:三階のトシ子ちゃん:2007/04/11(水) 14:11:35 ID:Z3leEgC5O一 春というのは若い人達にとっては希望に満ちた、 新しい生命の息吹を感じる季節だろうが 私くらいの年になると、何かざわざわと落ち着かない それでいて妙に静かな眠りを誘う季節である。 夜中、猫の鳴くのを聞きながら天井を見つめてる時 あるいは、こうして縁側に座って桜の散るのを見ている時 やたら昔の事が思い出される。 知らずに向こうの空気に合わせて息をしている 危ないぞ、と気づいて我に返ると、ひどく消耗している自分がいる。 確か、トシ子ちゃん、といったとおもう。 私の母方の本家は東京の下町で魚屋を営んでいて 大正の頃は皇居にも魚を卸していたそうである。 とは言っても店の造りはそれほど大きくなく、一階が店舗、二階が住居になっており その上にさらに三階があった。 三階と言っても布団を入れる納戸と、四畳半程の小さな部屋が一つあるだけだ。 トシ子ちゃんとは、戦前からその部屋に寝起きし、住み込みで働いていたお手伝いさんだった。…