元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/02/21(火) 20:20:12.87 :G7tB3fi30 後藤ひとりは夢を見た。 いつだかに訪れた、どこかのカフェの夢。 カウンターの席に、リョウ先輩と並んで座っている私。 リョウ先輩は、私が歌詞をしたためたノートを読んでいる。 その横顔はとても綺麗で、なんだか少しだけ嬉しそうで、満足そうでもあって。 「やっぱりぼっちはすごい」って思ってくれているのが、目の輝きだけで伝わってくるようで。 こてんと私の方に倒れて体重を預けてくる先輩の重みを右肩あたりに感じながら、私は優雅にカップをかたむけるのだ。 ――そんな光景が浮かんだとき、はっと目が覚めた。 「……」 窓からは陽の光が差し込み、外では小鳥が鳴いている。 そう、すべては夢だった。 だが、夢じゃないことがひとつある。 ひとりは布団の上でもぞもぞと身体をひねり、そばに置いてあったノートを手に取った。 一番新しいページを開き、満足気に高くかかげる。 (やっぱり……夢じゃない……) きらきらと宝石のように輝いて見える、一曲の歌詞。 何日も何日も書いては消してを繰り返し、やっとの思いで書き上げた歌詞。 感情を高めて高めて、ありったけの思いを詰め込むようにして作り上げた、渾身の歌詞。 ひとりは昨晩、ついに傑作を書き上げた。 大切そうにノートを胸に抱え、目を閉じてゆっくりと深呼吸する。 こんなに素晴らしいものが私に作れたんだと誇らしくなり、自分の中に少しだけ自信が芽生え、まるで世界の全てが晴れやかに輝いて見えるようだった。 (喜んで……くれるかな) まだかすかに目蓋の裏に残っている、夢の中の光景を思い起こす。 ふと時計の時刻を見ると、もう9時を回りそうだった。 「い、いけないっ」 ひとりはわたわたと布団から置き、外出の準備を始めた。 先ほどまで布団の中で見ていたあたたかな夢を、現実にするために。…