2003年の夏、フランスの本のベストセラーリストで、英語で書かれた本が1位になりました。『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』の原書です。フランス語版が出るのは5か月以上先。続きを待ちきれない読者が、英語のまま書店で買っていったのです。同じ本の英語版は日本でも売れ、ネット書店のAmazon.co.jpでは、それまでにいちばん多く売れた本になりました。 今日の知ってた? 📚 2003年6月21日に発売されたシリーズ第5巻『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(原題 Harry Potter and the Order of the Phoenix)の英語版は、フランスで英語の本として初めて、ベストセラーリストの1位になった(2003年7月2日のAP通信)。 🇫🇷 フランス語版の発売は同じ年の12月3日。それまで待てない読者が英語版を買い、発売から1週間で2万2,000部(AFP通信)、7月2日の時点で4万1,000部超(調査会社イプソスの集計)が売れた。 🗾 日本語版(松岡佑子訳、静山社)が出たのは約1年2か月後の2004年9月1日。その間に英語版は、Amazon.co.jpでそれまでにいちばん多く売れた本になっていた(2004年3月のアマゾン ジャパンの発表)。 背景:3年待たされた第5巻 『ハリー・ポッター』シリーズは、1997年にイギリスで第1巻『ハリー・ポッターと賢者の石』が出てから、2000年の第4巻『炎のゴブレット』まで、ほぼ1年に1冊のペースで刊行されてきました。ところが第5巻までは3年が空きます。その間の2001年と2002年に映画の1作目と2作目が公開され、本を読んだことのなかった人たちにまでファンが広がりました。前から読んでいた人にとっては「3年待った続き」、映画から入った人にとっては「初めて発売日を迎える新刊」だったわけです。 第5巻は2003年6月21日、イギリスのブルームズベリー社、アメリカのスコラスティック社、カナダのレインコースト社から同じ日に発売されました。前日の深夜0時を待って、何千人もが書店の前に列を作っています。発売から24時間で売れたのは500万部。シリーズでいちばん長い巻で、イギリスの初版は766ページありました。発売の6日前の6月15日には、イングランド北西部マージーサイドのアールズタウンにある倉庫から、発売前の本が数千冊盗まれる事件まで起きています。 フランスの読者も、英語版なら発売日に手に入れられました。アマゾンのフランス法人は発売1か月前の2003年5月、英語版の予約を、英米の出版社が決めた希望小売価格より35%安い16.80ユーロで受け付けていると発表しています。同じ発表によれば、世界のアマゾンで集まった予約は、その時点で87万5,000冊を超えていました。 一方、フランス語版は出版社ガリマールから出ることになっていましたが、英語で766ページの本を訳すには時間がかかります。発売は12月3日と決まり、ベルギーの日刊紙ラ・リーブル・ベルジックは、ガリマール社がその日に向けて100万部を用意したと伝えました。フランス語版は900ページほどの大冊になっています。待つのはおよそ5か月半。続きが気になって仕方のない読者には、長すぎる時間でした。 もう少し詳しく 「英語が話せるようには見えない」お客さん。AP通信は2003年7月2日、この本が「英語の本として初めて、フランスのベストセラーリストの1位になった」と伝えました。イプソスの集計では、その時点でフランス国内で4万1,000部以上が売れています。パリの英語書店WHスミスの副店長ルース・バクスターさんは、買っていったフランス人の多くは、2か国語を話せるようには見えなかったと話し、「12年間で、こんな売れ方は見たことがない」と驚いています。英語の得意な人だけが買っていたわけではなかった、ということです。2005年のAFP通信の記事によれば、発売から1週間で売れた英語版は2万2,000部。アメリカの人気ミステリー作家メアリ・H・クラークの新作の仏訳をはじめ、フランス語で売られていたすべての本を抑えて、一時ランキングの頂点に立ちました。 英語の授業でも定番に。同じAFPの記事によると、ハリー・ポッターはその後、フランスの中学・高校の英語の授業で定番の教材になりました。ただ、先生たちの見方は冷静です。パリ郊外サンジェルマン=アン=レーの中学で第1巻を授業に使ったアンヌ・ルルーさんは、生徒たちから頼まれることはあっても「実際は、フランス語版を待たずに済むように、謎の答えを要約してほしかっただけ」だと話しています。西部の町ニオールの高校の先生マルティーヌ・ヴィリーさんも、話の続きを知りたくて英語版を買う生徒はいるが、それでほかの英語の本を読むようになるわけではない、と話しています。それでも、大手チェーンのヴァージンでフランスの文芸売り場を担当していたフランソワーズ・バルノーさんによれば、2005年の時点で、店で売れるハリー・ポッターの約2割は英語版でした。 1回では終わらなかった。英語版がフランスで売れる現象は、このあとも続きます。フランスの英語ニュースサイト、ザ・ローカルによると、2007年の最終巻『死の秘宝』の英語版は、発売から2週間でフランスで20万部が売れ、最終的には約31万5,000部に達しました。2016年には、舞台の脚本を本にした『ハリー・ポッターと呪いの子』の英語版が、最初の1週間でフランスで3万6,000部以上売れ、出版業界誌リーヴル・エブドとGfKのベストセラーリストで1位になっています。戯曲がこのリストの1位になったのは初めてでした。このときもフランス語版の発売は10月14日で、まだ2か月以上先でした。リーヴル・エブド誌は「英語でこれだけ売れるのは、ハリー・ポッターくらいのものだ」と書いています。 日本では1年2か月待った。日本でも、事情は同じでした。松岡佑子さんが訳した日本語版は、静山社から2004年9月1日に、上下巻2冊セット(4,000円・税別)で発売されています。英語版の発売から1年2か月あまりあとで、フランスよりずっと長い待ち時間でした。アマゾン ジャパンは2004年3月、日本語版の予約受付を始めた際の発表で、2003年6月に発売された英語版の第5巻が「Amazon.co.jpでこれまでに最も多く販売された書籍タイトル」になっていると明かしています。「洋書の中で」という断り書きのない、書籍全体での記録です。ネット書店1社の数字で、フランスのような全国の集計とは別のものですが、日本でも英語のまま読み始めた人が少なくなかったことがうかがえます。同社の8月の発表では、Amazon.co.jpでの日本語版の予約も8月23日までに約8万冊に達し、同サイトの和書の週間ランキングで23週続けて1位になっていました。 海外の反応 1. 海外の名無しさん シリーズ後半の新刊発売がどれほどの大騒ぎだったか、今の人に伝えるのは難しいと思う。最終巻が出た日、俺が行ってたテキサスのサマーキャンプは「どうせみんな本しか読まないから」って、2日間まるごと自由時間にしてくれた。各キャビンの指導員たちは、子どもたちの分を買うために行列に並びに行ってたよ。 2. 海外の名無しさん(>>1への返信) 最終巻の深夜販売に行ったけど、行列が通りをぐるっと回り込んでた。ほかでは見たことのない光景だったよ。 3. 海外の名無しさん(>>2への返信) 私も母と本屋の深夜販売パーティーに行った! 家に着いた瞬間、本を取り上げられたけどね。渡したら朝まで読むってバレてたから。結局、次の日に読み終えた。その日ご飯を食べたかどうかも覚えてない。最高だった。 4. 海外の名無しさん(>>3への返信) 最終巻が出たとき、私はもう21歳だったよ。たぶん朝日を見たと思う。読み終わったら、今の夫を起こして本を渡して、ネタバレしないうちに私は寝た。我ながら、とんだパーティー好きの2人だったよ。 5. 海外の名無しさん 個人の思い出だけど、この5巻が出た日、子どもだった俺は町を歩いてた。どこを見ても不死鳥のポスター、どの店も売り切れ、仮装した子どもたち、店の前に座り込んで読みふける人たち…。大きな町でもないのにあれだったんだから、都会はどうなってたんだろう。あれ以来、あんな光景は見ていない気がする。 6. 海外の名無しさん(>>5への返信) 5巻は映画が始まってから最初に出た本で、しかもシリーズでいちばん間が空いたからだと思う。1〜4巻は1997〜2000年に出て、映画の1作目と2作目が2001年と2002年、5巻が2003年。前から読んでた人は何年も待たされてたし、映画でファンも一気に増えてた。 7. 海外の名無しさん(>>6への返信) まさに俺がそれ。11歳のとき映画館で1作目を見て、そのあと4冊を一気に読んで、5巻を心待ちにしてた。売り切れの店も多くて、みんなどうかしてるくらい盛り上がってた。楽しい時代だったな。 8. 海外の名無しさん ニューヨーク・タイムズがベストセラーリストに児童書の部門を別に作ったのも、ハリー・ポッターが上位にずっと居座って、周りがやきもきしてたからなんだよね。 9. 海外の名無しさん 6巻の発売日、学校へ向かう車の中で聞いたニュースを覚えてる。高速道路をまたぐ橋に誰かがネタバレを書いた横断幕を掛けたらしくて、「結末を知りたくない人は別の道を通ってください」って呼びかけてたんだ。 10. 海外の名無しさん(>>9への返信) 6巻のときは、発売を待つ行列の横を車で通りながら、結末をひと言叫んでいく動画も有名になったよね。並んでた人たちの顔を思うと、いまだに胸が痛む。 11. 海外の名無しさん 子どものころに英語が身についたのは、このシリーズのおかげが大きい。翻訳が出るのを待っていられなかったんだよ。 12. 海外の名無しさん(>>11への返信) 私も同じ。5巻を英語で読んだことが、2か国語を話せるようになろうと思ったいちばんのきっかけだったと思う。 13. 海外の名無しさん(>>11への返信) このシリーズのためだけに英語を覚えた人、周りに何人もいたな。辞書を片手に1ページずつ進んでいく姿は、正直ちょっと異様だった。 14. 海外の名無しさん そんなに驚く話でもないでしょ。フランスでも、とくに若い世代はかなりの割合が英語を流暢に話せるんだし。 15. 海外の名無しさん(>>14への返信) 当時はそうでもなかったよ。2003年にパリの英語書店の人も「買っていくフランス人の多くは、英語が話せるようには見えなかった」って言ってたらしい。 16. 海外の名無しさん 英語を第二言語として使えるいちばんの得は、読めるものが桁違いに増えること。何より研究論文、それに詩や文化も。自分の国の言葉が英語に置き換わってほしいとは思わないけど、大学でも外国でも、英語ができて本当に助かってる。 17. 海外の名無しさん マンガやアニメも同じだよね。公式の翻訳が何か月も出ないと、ファンが自分たちで訳したものが出回り始める。 18. 海外の名無しさん(>>17への返信) そっちはタダで読んでる人も多いけどな。この話のフランスの人たちは、ちゃんとお金を出して本を買ってるところが違う。 19. 海外の名無しさん ポケモンのゲームが、日本語版から各国語版になるまで何か月もかかってた時代を覚えてる。今はもう10年くらい、世界同時発売が当たり前になったけど。 20. 海外の名無しさん(>>19への返信) ハリー・ポッターでは、日本が逆の立場だったらしいよ。5巻の日本語版が出たのは翌年の秋で、それまで待てずに英語版を買った人も多かったって、日本の友だちが言ってた。 21. 海外の名無しさん 翻訳では、ヴォルデモートの本名を国ごとに作り直す必要があった。英語では「トム・マールヴォロ・リドル」で、文字を並べ替えると「I am Lord Voldemort」になる。フランス語版は「トム・エルヴィス・ジェデュソール」で、こっちは「Je suis Voldemort(私はヴォルデモート)」の並べ替え。だから5巻の英語版でダンブルドアがヴォルデモートを「トム」と呼んでも、フランスの読者には誰のことか分かった。アイスランド語版は名前がトレバーだから、もしアイスランドで同じことが起きてたら、みんな「トムって誰?」ってなってたはず。 22. 海外の名無しさん(>>21への返信) 中国語版は、そもそも作り直さなかったらしい。英語の文字をこう並べ替えるとこうなる、って注釈を付けて済ませたんだって。 23. 海外の名無しさん アカデミー・フランセーズ(フランス語を守る役目の学術機関)が聞いたら、頭を抱えそうな話だな。 24. 海外の名無しさん 6巻が出たとき、俺は中国に住んでた。発売日にアメリカ版の英語の本を置いてくれた地元の本屋には、今でも感謝してる。週末だったけど俺は用事があって、ばあちゃんがわざわざ本屋まで買いに行ってくれたんだ。ばあちゃん、安らかに。いい思い出をありがとう。 25. 海外の名無しさん 全盛期のハリー・ポッターは、人類の歴史でもほかに例のない現象だったと思う。本でまたあれが起きるとは思えないし、それより前の時代は、流通も宣伝も、世界中が同じものに夢中になる下地も、あそこまで整ってなかったはず。 まとめ 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』は、3年待たされた続きでした。フランス語版の発売まで5か月以上あると知った読者が英語版を買い、英語の本として初めてフランスのベストセラー1位になります。日本でも、日本語版まで1年2か月あまり待つあいだに、英語版がAmazon.co.jpでいちばん売れた本になりました。 コメント欄には、深夜販売の行列や取り上げられた本、ネタバレの横断幕といった発売日の思い出に加えて、「翻訳を待てずに英語を覚えた」という声がいくつも寄せられました。本1冊にあれだけ熱狂することは、もう起きないだろうという声もありました。 参考資料 AP通信「ハリー・ポッター、フランスで初の英語のベストセラーに」(ファン向けニュースサイトHPANAによる転載)(2003年・英語) メール&ガーディアン(AFP通信配信)「ハリー・ポッター語、話せますか?」(2005年・英語) ザ・ローカル(フランス版)「英語のハリー・ポッターの本が、フランスのベストセラーの首位に」(2016年・英語) アマゾン ジャパン「Amazon.co.jp、和書『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』~ハリー・ポッターシリーズ第5巻~を本日より予約注文受付開始!」(2004年・日本語) 元ソース: 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』は、フランス語訳を何か月も待てないファンが英語版を買ったため、フランスのベストセラーリストで1位になった初めての英語の本になった 投稿 「英語の本として初めて、フランスのベストセラー1位に」翻訳を待てない読者が買ったハリー・ポッター5巻…日本のAmazonでも当時いちばん売れた本に は みんな知ってた?【海外の反応】 に最初に表示されました。…