「キノコとカニは、体を支える素材がまったく同じ」。海外の掲示板で、こんな豆知識が話題になりました。どちらにもキチンという物質が入っていて、キノコはキチンが柔らかいタンパク質と混ざっているから柔らかく、カニは鉱物でキチンを固めているから硬い、という説明です。調べてみると、キチンが共通しているのは本当でした。ただ、キノコの側から見ると、キチンは主役ではなく脇役です。カニの殻が硬い理由のほうは、ほぼ説明どおりでした。人間の胃とキチンの関係については、日本の大学が意外な数字を出しています。 今日の知ってた? 🍄 キノコやカビの細胞壁にも、カニやエビの殻にも、昆虫の外骨格にも、キチンという同じ物質が入っている。糖の一種が長い鎖のようにつながったもので、自然界の多糖類ではセルロースに次いで多いとされる。 🦀 カニの殻は、キチンとタンパク質の繊維を炭酸カルシウムで固めたもの。昆虫は鉱物をほとんど使わず、タンパク質どうしを結びつけて殻を硬くしている。 🧪 ただし菌類の細胞壁の主役はグルカンという別の多糖で、乾燥重量の50〜60%。キチンは糸状の菌類で多くて10〜20%、酵母では1〜2%しかない。 🇯🇵 人間の胃にもキチンを分解する酵素はある。ただ、工学院大学の研究では、胃でのその遺伝子の働きはマウスの約2800分の1だった。 背景:キチンとは キチンは、N-アセチルグルコサミンという糖が、長い鎖のようにつながった物質です。この糖は、ブドウ糖の一部が窒素を含む部分(アセチルアミノ基)に置き換わったものです。キチンの形は、植物の体を支えるセルロースとよく似ていて、「セルロースの糖の一部を、窒素を含む部分に取り替えたもの」と説明されることもあります。自然界にある多糖類のなかでは、セルロースに次いで2番目に多いとされています。 キチンを持つ生き物は幅広く、キノコやカビの細胞壁、カニ・エビ・昆虫といった節足動物の外骨格のほか、イカの体の中にある透明な芯(軟甲)や、タコやイカのくちばしにも含まれます。一部の魚や両生類も自分でキチンを作ることが分かっています。一方、人間を含む哺乳類の体には、もともとキチンはありません。 最初に見つかったのは、キノコからでした。1811年、フランス北東部ナンシーの植物園で園長を務めていた化学者アンリ・ブラコノーが、キノコを調べるうちに、アルカリの溶液に入れても変化しない繊維のような物質を取り出し、「フンギン」と名付けました。10年後の1821年には、A・オディエが昆虫を調べていて、これとそっくりな物質を見つけ、「キチン」と名付けました。名前は古代ギリシャの衣服「キトン」に由来し、「覆うもの」という意味です。 1978年にマサチューセッツ工科大学(MIT)の海洋研究の支援プログラムがまとめた、キチンをテーマにした初めての国際会議の記録によると、オディエは「昆虫の外骨格が、植物の外皮と同じものだとは驚くべきことだ」と書き残しています。昆虫の殻と植物の外皮が同じ物質だという考えは間違いでしたが、植物にとってのセルロースと、昆虫にとってのキチンが、体を支えるという同じ役目を果たしていることに初めて目を留めた人物として評価されています。この記録によれば、ナンシーの旧市街にはブラコノーの名前が付いた通りがあるそうです。 キチンの正体をはっきりさせた一人は、のちにLSDを合成したことで知られるスイスの化学者アルベルト・ホフマンでした。2008年にスイスの化学誌『キミア』が載せた追悼記事によると、ホフマンはチューリッヒ大学のパウル・カラー教授のもとで「キチンとキトサンの酵素による分解について」という博士論文を書きました。大学の近くを散歩しながら集めたリンゴマイマイ(エスカルゴに使われるカタツムリ)から、キチンを分解する酵素を取り出し、それを使ってキチンがN-アセチルグルコサミンのつながったものだと確かめています。1929年にはスイスの製薬会社サンドに入り、のちにそこでLSDを合成しています。 もう少し詳しく キノコの壁は、キチンよりグルカンが主役。2020年に学術誌『フロンティアーズ・イン・マイクロバイオロジー』に載った菌類の細胞壁の総説によると、細胞壁はグルカン、キチン、キトサン、糖の付いたタンパク質でできています。量がいちばん多いのはグルカンで、乾燥重量の50〜60%。なかでもβ-1,3-グルカンが骨組みの中心で、ほかの成分はそこに化学的につながっています。キチンは、酵母では1〜2%、カビのような糸状の菌類でも多くて10〜20%です。キノコは、カビと同じ糸状の菌糸が束になってできたものです。つまり「キノコとカニは同じ素材でできている」というより、「どちらの骨組みにもキチンが入っている」と言うほうが正確です。タンパク質はカニの殻にも入っているので、両者を分けている一番の違いは、キノコの壁にはグルカンが多いことと、鉱物で固めていないことです。 カニの殻は、キチンとタンパク質を炭酸カルシウムで固めたもの。2015年に米国の学術誌『インテグレイティブ・アンド・コンパラティブ・バイオロジー』に載った総説は、カニやエビと昆虫の殻を比べています。どちらも、キチンとタンパク質の細い繊維を平らな層に並べ、層ごとに向きを少しずつずらして重ねた、らせん階段のような作りです。違うのは、カニやエビが殻の大部分に炭酸カルシウムをしみ込ませている点で、総説は「この2つの殻の一番の違いは、鉱物をため込めるかどうかだ」と書いています。ただし、カニでも脚の関節の膜や、エラの表面は石灰化させません。だから硬い殻を着たままでも脚を曲げられます。昆虫は、脱皮のあとにタンパク質どうしを化学的に結びつけて殻を硬くします。この仕組みはカニにもありますが、昆虫はそこに鉱物をほとんど加えません。例外もあり、ゴミムシダマシ科の甲虫の一部は殻に炭酸カルシウムを含み、イエバエはさなぎの殻を石灰化させます。 脱皮のたびに、殻を溶かして作り直す。カニやエビは、脱皮の前に古い殻の内側へキチンを分解する酵素やタンパク質を分解する酵素を出し、古い殻を溶かします。古い殻から溶け出したカルシウムは、体の中へ取り込まれます。同じ総説によると、ブルークラブ(アメリカ東海岸のワタリガニの仲間)では、新しい殻に鉱物がたまり始めるのは、脱皮してから少なくとも2時間たってからです。ソフトシェルクラブは、脱皮したばかりで殻がまだ硬くならないうちに水揚げしたカニを、殻ごと揚げて食べる料理です。 人間はキチンを消化できるのか。東京の工学院大学の小山文隆氏らの研究グループは、2013年に米科学誌『プロスワン』で、人間とマウスのキチン分解酵素を比べた結果を発表しました。人間もマウスも、キチンを分解できる酵素を2種類持っています。そのうち胃で働く「酸性哺乳類キチナーゼ」の遺伝子の働き(mRNAの量)は、人間の胃ではマウスの約2800分の1しかなく、酵素の働きやタンパク質の量にも、同じ向きの差が出ています。マウスの胃では、この酵素がキチンを含む食べ物の消化に使われているとみられます。論文は、現代の人間はキチンを含む食べ物をあまり多く食べていない、とも書いています。同じグループが2019年に英科学誌『サイエンティフィック・リポーツ』に出した論文によると、それまでの研究で、この酵素が消化に使われているのはマウス・ブタ・ニワトリのような雑食の動物で、イヌ(肉食)やウシ(草食)では使われていないことが分かっていました。この論文では、昆虫をよく食べるサルのコモンマーモセットを調べ、胃でこの酵素が大量に作られていることを確かめています。いちばんよく働くのはpH2.0という強い酸性のときで、胃や腸と同じ条件で、ミールワーム(甲虫の幼虫)の殻を分解しました。 日本では、カニの殻が素材になる。農林水産省の広報誌『aff』2021年11月号は、ベニズワイガニの水揚げが日本一の鳥取県で進む研究を紹介しています。カニを加工すると殻が大量に出ます。鳥取大学の伊福伸介教授は、殻からカルシウム、タンパク質、脂質、色素を取り除いてキチンを取り出し、湿式粉砕器で砕いて、直径約10ナノメートルの細い繊維「キチンナノファイバー」にしました。キチンは水に溶けず、すぐに沈んでしまうので、それまで産業にはほとんど使われていませんでした。細い繊維にすると、水となじみやすくなります。開発した企業マリンナノファイバーが素材として販売していて、スキンケアのジェルやリップクリームなど、この繊維を使った商品は50を超えるそうです。パン作りの実験では、強力粉200グラムにこの繊維を加えると、強力粉250グラムで焼いたのと同じくらいの大きさに膨らみました。肥料として与えると植物がよく育ち、前もって吹きかけておくと病気に強くなるという研究結果もありますが、農業ではまだ実用化されていません。キチンをアルカリで処理すると、キトサンという物質になります。国立研究開発法人の医薬基盤・健康・栄養研究所が運営する「健康食品」の安全性・有効性情報によると、キトサンは「コレステロールが高めの方に適する」と表示できる特定保健用食品(トクホ)の関与成分の一つです。ただ、トクホは商品ごとに審査を受けて表示が許可される仕組みなので、キトサンが入った食品なら何でも同じ働きをするわけではありません。医療の分野では、キチンで手術用の糸を作る研究が行われてきたほか、鳥取大学ではこの繊維を使った止血用スポンジの研究も進んでいます。 海外の反応 1. 海外の名無しさん chitin(キチン)を英語でどう発音するか知ってるのは、ゲームのおかげなんだよね。理科の授業で習った覚えはまったくない。 2. 海外の名無しさん(>>1への返信) 自分はキチンがカニの殻にあることもゲームで知った。ただ『スカイリム』では誰も声に出して読まないから、ずっと「チティン」だと思ってた。初めて「カイティン」と発音されるのを聞いたとき、同じものの話だと気づかなかったよ。 3. 海外の名無しさん(>>1への返信) 英語だと「カイティン」で、タイタンと韻を踏む。ギリシャ語から来た「ch」は「チ」じゃなくて「k」の音になるんだ。英語読みと元の読みがずれる言葉はほかにもあって、地獄の番犬は英語圏だと「サーベラス」が普通だけど、ギリシャ語では「ケルベロス」。日本のゲームは最初からケルベロス表記だから、むしろ元の読みに近い。 4. 海外の名無しさん 『スカイリム』のキチンの鎧はけっこう優秀だぞ。追加コンテンツの島に渡ったら、まず手に入れたい装備のひとつ。 5. 海外の名無しさん(>>4への返信) いや、手に入る時期のわりに弱いし、見た目もダサい。こんなデマが野放しで広まるのは黙って見ていられない。 6. 海外の名無しさん(>>5への返信) 異議あり。あの甲虫みたいなツヤを見てくれ。性能なんて二の次で、着ているだけで雰囲気が出る。キノコの塔が並ぶあの島の景色にも、いちばん似合ってる。 7. 海外の名無しさん へえ、同じ単語を使ってるのは知ってたけど、言葉のあやみたいなものだと思ってた。文字どおり同じ材料だったとは。骨で体を支えている花を見つけたくらいの驚きがある。 8. 海外の名無しさん(>>7への返信) 進化の上では、菌類は植物よりも動物のほうにずっと近い親戚なんだよ。だから、思ったほど変な話じゃない。キノコは「動かない植物」じゃなくて、どちらかというと「動けない動物寄りの何か」。 9. 海外の名無しさん(>>8への返信) その違いがどこから来るのかも面白い。植物は日光と水から自分で栄養を作れるけど、キノコは人間と同じで、外から栄養を取り込むしかない。だから木と持ちつ持たれつの関係を結ぶキノコが多いんだ。 10. 海外の名無しさん(>>9への返信) 日本のマツタケがまさにそれだよね。生きたアカマツの根とくっついて暮らしているから、シイタケみたいに原木や木くずで育てるのがとても難しい。あんなに高いのは、そのせいでもあるらしい。 11. 海外の名無しさん つまり、キノコはいつかカニに進化できるってこと? 材料はもうそろってるんだし。 12. 海外の名無しさん(>>11への返信) 逆だよ、カニのほうがキノコになれる。デンドロガスターで検索してみて。寄生生活がどれだけ生き物を変な形にするか、調べ始めると止まらなくなる。ほぼ、枝分かれした生殖器官のかたまりでしかない。 ※ デンドロガスター:ヒトデの体の中に寄生する甲殻類の仲間。木の枝のように枝分かれした、袋のような体をしている。 13. 海外の名無しさん(>>12への返信) それ、カニがキノコに進化したわけじゃないだろ。甲殻類が、もっと小さくて効率がよくて、どう見ても怖い甲殻類に進化しただけ。しかも、なぜかヒトデに代々恨みを抱えてる。 14. 海外の名無しさん(>>11への返信) 心配しなくても、最後はみんなカニになる。キノコも例外じゃない。 ※ カニとは別の系統の甲殻類が、進化の途中で何度もカニに似た体つきになってきたことから、ネットでは「何でも最後はカニになる」というネタがよく使われる。 15. 海外の名無しさん だから人間はどっちも消化できるんだよ。胃にキチナーゼっていう酵素があって、それがキノコ由来でもカニ由来でも、同じようにキチンを分解してくれる。 16. 海外の名無しさん(>>15への返信) 酵素があるのは本当だけど、量は期待しないほうがいい。日本の工学院大学の研究だと、胃でその酵素の遺伝子が働いている量は、マウスの約2800分の1しかなかったそうだ。マウスは胃でキチンをばりばり分解してるけど、人間の胃ではかなり控えめにしか働いていないみたい。 17. 海外の名無しさん(>>15への返信) だから片方にアレルギーがあると、もう片方も体に合わないことが多いんだと思う。自分はキノコのアレルギーで、エビやカニを食べると気分が悪くなる。 ※ 甲殻類アレルギーの主な原因は、殻のキチンではなく、身に含まれるトロポミオシンというタンパク質とされる。キチンが共通しているからアレルギーも連動する、という話は、今回調べた資料では確かめられなかった(下の返信も参照)。 18. 海外の名無しさん(>>17への返信) 失礼を承知で言うけど、それはアレルギーの仕組みと合わないと思う。いわゆる普通のアレルギーはタンパク質に反応するもので、甲殻類ならトロポミオシンが有名。ラテックスとバナナとアボカドみたいに、似たタンパク質どうしで反応が重なることはあるけど、キチンみたいな多糖が体に合わないのとは別の話だよ。 19. 海外の名無しさん 生のキノコで、安全な種類なのにお腹をこわす人がいるのも、たぶんキチンのせい。干したキノコでお腹がゆるくなる人もいる。加熱するとキチンが分解されて、消化しやすくなるって聞いた。 20. 海外の名無しさん(>>19への返信) 加熱でキチンが分解される、っていうのはちょっと怪しい。キチンは水に溶けないし、カニの殻から取り出すときも、薬品を入れた釜で煮るくらい丈夫なんだ。台所で炒めたくらいで壊れる物質じゃない。 21. 海外の名無しさん ついでに料理の豆知識。この作りのおかげで、キノコは煮すぎ・焼きすぎがほとんどない。ある程度で火が通ったら、それ以上は崩れずに形が残る。焦がそうと思えば焦がせるけど、水分を全部飛ばさないかぎり、ぐずぐずにはならない。 22. 海外の名無しさん ガやチョウの羽もキチンでできてるよ。あの粉みたいなりん粉も同じ材料。キノコとチョウが同じ素材っていうのも、なかなか不思議な話だ。 23. 海外の名無しさん(>>22への返信) 節足動物ならだいたい全部そう。それに、イカをさばくと出てくる透明なプラスチックみたいな芯や、日本で「カラストンビ」と呼ばれるイカのくちばしにもキチンが入ってる。海の生き物も、けっこうこの材料に頼ってる。 24. 海外の名無しさん 同じ流れで言うと、髪の毛と動物の角も同じ材料なんだよね。どっちもケラチン。キノコとカニほどの意外さはないけど、初めて知ったときは驚いた。 25. 海外の名無しさん(>>24への返信) 爪も、鳥の羽根も、かぎ爪も、ヘビやトカゲのウロコもケラチン。自然はいいレシピを見つけると、あちこちで使い回すんだよな。キチンもケラチンも、たぶん「これで行ける」と分かったら手放さなかった材料なんだと思う。 まとめ キノコとカニの殻に同じキチンが入っているのは本当でした。ただ、キノコの細胞壁の主役はグルカンで、キチンは多くても1〜2割。カニの殻が硬い理由は、ほぼ元の説明どおりでした。人間の胃のキチン分解酵素は、マウスの約2800分の1です。 コメント欄は、ゲームで覚えた読み方から「キノコはカニに進化できるか」という脱線、アレルギーと消化をめぐる訂正まで、理科の時間のような流れになりました。 参考資料 フロンティアーズ・イン・マイクロバイオロジー「菌類の細胞壁:カンジダ属、クリプトコッカス属、アスペルギルス属」(2020年・英語) インテグレイティブ・アンド・コンパラティブ・バイオロジー「甲殻類と昆虫の外骨格:形態・生理・生化学・遺伝学の比較」(2015年・英語) プロスワン(工学院大学の研究グループ)「ヒトとマウスの組織のキチン分解酵素の量:胃の酸性哺乳類キチナーゼは種によって大きく違う」(2013年・英語) 農林水産省 広報誌『aff』2021年11月号「鳥取大学の『キチンナノファイバー』」(2021年・日本語) 元ソース: キノコとカニは、体を支える素材がまったく同じキチン。キノコはキチンが柔らかいタンパク質と混ざっているので柔らかく、甲殻類は鉱物でキチンを石灰化させて硬い殻にしている 投稿 「キノコとカニの殻は同じ素材でできている」は半分だけ本当…人間の胃でキチン分解酵素が作られる量はマウスの約2800分の1 は みんな知ってた?【海外の反応】 に最初に表示されました。…