レーザーといえば、鉄板を焼き切る加工機のように、光を当てて物を熱するイメージが強いはず。ところが同じレーザーで、原子を絶対零度(マイナス273.15℃)のすぐそばまで冷やすこともできます。「レーザー冷却」と呼ばれるこの技術は1997年のノーベル物理学賞の対象になり、いまでは世界でいちばん正確な時計づくりに欠かせません。日本で生まれた「光格子時計」も、そのひとつです。 今日の知ってた? ❄️ レーザーは物を熱するだけでなく、冷やすこともできる。真空の中に浮かべた気体の原子にレーザーを当てると、原子を絶対零度近くまで冷やせる。これをレーザー冷却という。 🌡️ 1985年ごろの実験で冷やしたナトリウム原子は約240マイクロケルビンで、速さは秒速30センチほど。いまでは、絶対零度との差が100万分の1度(1マイクロケルビン)を切るところまで冷やせる。 🏆 1997年のノーベル物理学賞は、この方法を開発したスティーブン・チュー(米スタンフォード大学)、クロード・コーエン=タヌージ(フランスのコレージュ・ド・フランスと高等師範学校)、ウィリアム・フィリップス(米国立標準技術研究所)の3人に贈られた。 🕰️ レーザーで冷やした原子は、高精度な原子時計や、東京大学の香取秀俊さんが考案した光格子時計に使われている。 背景:光で原子にブレーキをかける「レーザー冷却」 まず「温度」の正体から。気体の温度は、その中の原子や分子がどれだけ速く飛び回っているかで決まります。室温の空気の窒素分子なら、速さは秒速およそ500メートル。冷やせば遅くなりますが、ふつうの気体は冷やすと先に液体になり、やがて凍ってしまいます。ばらばらの原子を1個ずつじっくり調べるには、真空の中に原子をうすく浮かべたまま冷やす方法が必要でした。 レーザー冷却が使うのは、光が原子を「押す」力です。光は小さな粒(光子)の流れで、重さはなくても、ぶつかった相手を押す勢い(運動量)を持っています。原子が光子を1個吸うと、光が進む向きに少しだけ押されます。吸った光はすぐに(ふつう1億分の1秒ほどで)原子から出ていきますが、出ていく向きは毎回ばらばら。何度もくり返すと、出ていくときの反動は平均すると打ち消し合い、吸うときの押しだけが積み重なります。 ここで、救急車のサイレンを思い出してください。近づいてくるときは高く、遠ざかるときは低く聞こえます(ドップラー効果)。原子は決まった色(振動数)の光しか吸いませんが、動いている原子には、光の色も少しずれて見えます。そこで、原子が吸う色よりほんの少しだけ振動数の低い、「赤い側」にずらしたレーザーを当てます。すると、光源に向かって進む原子にだけ、光がちょうど吸える色に見えて、正面から押し返されます。遠ざかる原子には色が合わないので、ほとんど吸われません。レーザーは、向かってくる原子にだけ効くブレーキになるのです。 このレーザーを上下・左右・前後の6方向から当てると、原子はどちらへ動こうとしても、進む先からブレーキをかけられます。どろっとした水あめの中を進むように遅くなるので、この状態は「光の糖蜜(オプティカル・モラセス)」と呼ばれます。ふだんのレーザー加工は、物に光のエネルギーを吸わせて熱に変えますが、レーザー冷却は、うすい気体の原子の動きそのものを遅くして温度を下げる、まったく別の使い方です。 もう少し詳しく 理論の「限界」を2回破った3人。アイデアは1975年に、テオドール・ヘンシュとアーサー・ショーローが提案しました。同じ年に、デービッド・ワインランドとハンス・デーメルトも、イオン(電気を帯びた原子)を冷やす方法として提案しています。1978年には、イオンを冷やす実験が成功しました。1985年ごろ、ベル研究所のチューらは6本のレーザーでナトリウム原子を冷やし、肉眼でも見える豆粒ほどの光る雲を作りました。中にあった原子は約100万個。温度は約240マイクロケルビンで、当時「この方法ではこれ以上は下がらない」と計算されていた限界とぴったり一致しました。1987年には、レーザーに磁場を組み合わせて原子をその場に捕まえておく「磁気光学トラップ」も作られます。 ところが1988年、フィリップスが温度を測り直すと約40マイクロケルビン。限界の6分の1でした。理論で使っていた原子のモデルが単純すぎたのです。説明をつけたのは、パリのコーエン=タヌージらでした。原子が光の作る「坂」を登りきると、その先でまた上り坂に出くわし、登るたびにエネルギーを失っていく。山頂まで岩を押し上げても転がり落ち、それを永遠にくり返す罰を受けたギリシャ神話のシーシュポスになぞらえて、「シーシュポス冷却」と呼ばれます。コーエン=タヌージらはさらに、原子が光を1個出すときの反動で決まる、もう一つの限界も破りました。ヘリウム原子を0.18マイクロケルビンまで冷やし、原子の速さは秒速わずか2センチほどになりました。 新しい物質の状態「ボース=アインシュタイン凝縮」。1924年、インドの物理学者ボースの計算をアインシュタインが原子に広げ、ある種の原子の気体をうんと冷やすと、すべての原子がいちばん低いエネルギーの状態に集まると予言しました。これが実際に起きたのは70年後の1995年です。アメリカのJILA(コロラド州)のエリック・コーネルとカール・ワイマンがルビジウム原子で、マサチューセッツ工科大学(MIT)のヴォルフガング・ケターレがナトリウム原子で成功し、3人は2001年のノーベル物理学賞を受けました。決め手は、レーザー冷却で冷やした原子を磁場のわなに移し、いちばん速い原子から順に逃がしていく「蒸発冷却」で仕上げることでした。カップのコーヒーが、勢いのある分子から湯気になって飛んでいくことで冷めていくのと同じ理屈です。コーネルとワイマンの実験では、原子は約2000個まで減ったものの、20ナノケルビン(絶対零度より1億分の2度高いだけ)で、すべてが凝縮した純粋な状態が得られました。 世界一正確な時計と、日本生まれの光格子時計。いまの「1秒」は、セシウム原子が吸う電波が91億9263万1770回振動する時間と決められています。チューは、冷やした原子を噴水のように上へ打ち上げる「原子の噴水」を作りました。1999年にアメリカの時間の基準になったセシウム原子時計「NIST-F1」も、この方式です。6本のレーザーで集めて冷やした原子の玉を約1メートル打ち上げ、落ちてくるまでの約1秒のあいだに電波を当てて測ります。原子が遅いほど長く測れて、時計は正確になります。 さらに精度を上げたのが、2001年に東京大学の香取秀俊さんが考案し、2003年に実証した「光格子時計」です。「魔法波長」と呼ばれる特別な波長のレーザー光を重ね合わせて、卵のケースのような光のくぼみ(光格子)を作り、そこにレーザー冷却したストロンチウム原子を1個ずつ閉じ込めて、原子が吸う光の振動数を測ります。精度は18桁、およそ100億年に1秒しかずれない計算で、セシウム原子時計(5000万年に1秒ほど)を100倍以上しのぎ、次の「1秒」の定義の有力候補になっています。2020年には理化学研究所や東京大学などのチームが、持ち運べる光格子時計を東京スカイツリーの地上階と、高さ450メートルの展望台に1台ずつ置き、高い場所ほど時間が速く進むという、アインシュタインの一般相対性理論の予言を確かめました。 海外の反応 1. 海外の名無しさん レーザーで冷やせるなら話は早い。で、レーザー冷却のGPUはいつ出るの?水冷の次はこれでしょ。 2. 海外の名無しさん(>>1への返信) レーザー冷却って、いちばん熱い部分を温めて蒸発させて、冷たい部分だけを残す仕組みだから、GPUに使ったら寿命が縮むと思うよ。 (追記:訂正します。全然違う仕組みでした。自分にはよく分からない別の方法で、しかもGPUくらいの大きさの物で成功した例はまだないそうです) 3. 海外の名無しさん(>>2への返信) 何このコメント、なんでこれが評価されてるの?レーザー冷却は蒸発なんか使ってない。原子に光の粒を吸わせたり出させたりして、動きを遅くする仕組みだ。原子が光に対して決まった向きに動いているときだけ吸収できるように仕掛けてあって、それを全方向でやれば、原子はどの向きにも遅くなる。ものすごく単純に言えば、宇宙でふらふら揺れてる箱にテニスボールを投げるようなもの。箱がこっちに動いてきた瞬間を狙って当て続ければ、揺れはだんだん小さくなる。 4. 海外の名無しさん(>>3への返信) 言ってることは正しい。ただ、ボース=アインシュタイン凝縮みたいな有名な実験には、レーザーを使わない「蒸発冷却」の工程も入ってるから、>>2はたぶんそれと混ざったんだろう。いちばん速い原子だけを逃がして、残りの平均を下げるやり方だよ。カップのコーヒーが冷めるのと同じ理屈。 5. 海外の名無しさん(>>2への返信) 今日読んだ中でいちばん間違ってるコメントだわ。今日は気候変動否定派の書き込みも読んだのに、それに勝ってくるとは。 6. 海外の名無しさん(>>1への返信) で、それを付けたら、MODを盛り盛りに入れた4Kのマインクラフトで5fpsは上がるの? 7. 海外の名無しさん(>>6への返信) 上がるよ。最初の15分くらいはね。そのあとは電気代の請求書を見て、別の意味で背筋が冷える。 8. 海外の名無しさん(>>1への返信) このご時世に!?GPU本体だけでも財布が空になるのに、真空装置とレーザー一式まで買えってか。 9. 海外の名無しさん(>>1への返信) 現実にありそうなのは、レーザーでチップそのものに細い溝を掘って、そこに冷却液を流すほうだね。チップの中から冷やせるようになれば、冷やしきれないせいで大きさを抑える必要がなくなるから、10年もしたらレンガくらいでかいチップが出てくるかもしれない。 ※ チップの裏側に髪の毛ほどの細い溝を刻み、冷却液を直接流す方式は、2025年9月にマイクロソフトが試作の成果を発表している(まだ研究段階)。冷やしているのは液体で、この記事のレーザー冷却とは別の話。 10. 海外の名無しさん ウィキペディアの説明を貼っとく。「レーザー冷却は、原子のような物体が光子(光の粒)を吸収して再び放出するときの運動量の変化を利用する。原子は、冷却に使う遷移の周波数より低い周波数の、互いに逆向きに進む一対のレーザー光を当てられると、一次元方向に冷却される。ドップラー効果により、原子は自分の運動と逆向きに進んでくるビームの光をより多く吸収する。吸収された光は、ランダムな方向に再放出される……」 知ってる単語も、いくつかはあった。 11. 海外の名無しさん(>>10への返信) 大学で習ったから説明してみる。まず温度の考え方から。ざっくり言うと、物の中の原子がどれだけ動き回っているかの平均だと思えばいい。速く動く原子はエネルギーが多くて熱い。ゆっくりの原子はエネルギーが少なくて冷たい。本当はもっと奥が深いけど、ひとまずこれで十分。レーザーは原子を「押す」ことができて、ふつうは押すと原子は熱くなる。でも思考実験として、1個の原子をあらゆる方向から同時に同じ力で押したらどうなる?力は打ち消し合って、原子はほとんど身動きが取れなくなる。これが「冷たい」「絶対零度に近い」ってことなんだ。 12. 海外の名無しさん(>>11への返信) じゃあ子どもにも分かるように言うと、いろんな方向から押して「じっとさせてる」ってこと? 13. 海外の名無しさん(>>12への返信) だいたいそんな感じ。ただ、レーザーが原子をどう「押す」のかを考え出すと、物理がとたんにややこしくなる。ポイントは、原子が向かっていく側の光をより多く吸うように、光の色を合わせてあること。止まっている原子は両側から同じだけ押されて差し引きゼロだから、動いている原子にだけブレーキがかかるんだ。 14. 海外の名無しさん(>>11への返信) これはすごい。熱のことも、レーザーのことも分かってるつもりだったけど、2本のレーザーで物の中のエネルギーを打ち消せるなんて、考えたこともなかった。ノイズキャンセリングみたいなもんか。 15. 海外の名無しさん(>>14への返信) そこは少し違うよ。ノイズキャンセリングは、逆の形の音の波を重ねて打ち消す仕組み。レーザー冷却は波を打ち消してるんじゃなくて、光の粒が原子にぶつかるときの小さな「押し」を、進む向きと逆向きに何万回も積み重ねてるんだ。 16. 海外の名無しさん(>>14への返信) 結局のところ、熱いも冷たいも、原子がどれだけ揺れてるかって話なんだよな。いや、ふざけてるんじゃなくて本当に。そして絶対零度は、まさに究極のクール。 17. 海外の名無しさん 気体の熱は、要するに原子が速く飛び回ってること。そこで、原子が吸収する振動数より少しだけ低い光を当てる。原子が光に向かって動くと、光は青い側にずれて(ドップラー効果)ちょうど吸える振動数になり、吸った反動で原子は逆向きに押されて遅くなる。吸った光はあとで勝手に出ていくけど、出ていく向きはばらばらだから、全体としては打ち消し合う。ただし液体やふつうの固体、回転のしかたがたくさんある複雑な分子には効かない。 ※ 固体は、この記事の方法とは別の仕組み(吸った光より少しエネルギーの大きい光を出させて、差の分の熱を持ち出す)で冷やせることが分かっている。1995年に初めて成功したときは室温から0.3度下がっただけだったが、2016年には結晶を室温から約91K(マイナス182℃前後)まで冷やした報告がある。 18. 海外の名無しさん(>>17への返信) 分子も、一部はもう冷やせてるよ。2010年に米イェール大学のチームが、原子2個でできた分子をレーザーで冷やすのに成功して、2022年にはハーバード大学のチームが3原子の分子(CaOH)を約720マイクロケルビンまで冷やして捕まえた。2021年には、反物質の反水素原子までレーザーで冷やされてる。複雑な分子ほど難しいのはそのとおりだけど。 19. 海外の名無しさん 仕組みは、ドップラー効果と、原子が決まった色以外の光を素通りさせる性質を使って、あらゆる方向から原子を遅くするってもの。ただ効率はものすごく悪いから、もともと1K以下まで冷えてる物にしか使われない。 ※ 実際には、室温の気体や、炉で熱して飛び出させた原子から冷やし始めるのがふつう。1985年のチューらの実験も、真空中を飛んでくるナトリウム原子のビームを、まず正面からのレーザーで止めてから冷やしている。 20. 海外の名無しさん 最大限冷やしたいなら、レーザーは青にすべき。うちのPCのRGBライトも、冷却性能を上げるために青にしてる。 21. 海外の名無しさん(>>20への返信) 残念、そこは逆なんだ。どの原子でも、その原子が吸う色よりほんの少しだけ「赤い側」にずらした光を当てる。ただ、ストロンチウム原子を冷やす最初の段階では本当に青い光(波長461ナノメートル)を使うから、青く光らせるのも全くの見当違いではない。 22. 海外の名無しさん 冷やすレーザー?それ、「フリーズ光線」って言うんだよ。てことは、グルーが持ってたフリーズ光線も、見た目ほど非現実的じゃないってこと? ※ アニメ映画『怪盗グルーの月泥棒』(2010年)で、主人公グルーはコーヒー店の行列に並ぶ客をフリーズ光線で凍らせて、順番を抜かす。現実のレーザー冷却で冷やせるのは、真空に浮かべたごくわずかな原子だけ。 23. 海外の名無しさん ああ、オルデランみたいな星じゃ、温暖化はもう完全に克服されたって聞いたよ。レーザーのおかげで。 ※ オルデラン:映画『スター・ウォーズ』(1977年)に出てくる惑星。帝国軍の宇宙要塞デス・スターの巨大レーザーで、星ごと破壊された。 24. 海外の名無しさん 日本の香取秀俊さんが考えた光格子時計も、レーザーで冷やしたストロンチウム原子が主役だよ。2020年には、東京スカイツリーの地上階と展望台に1台ずつ置いて、高い所のほうが時間が速く進むことを測ってみせた。昔は人工衛星を打ち上げて確かめていた相対性理論を、タワー1本で確かめたわけだ。 25. 海外の名無しさん(>>24への返信) 450メートル上の時計が速く進む分は、計算すると1日あたり10億分の4秒くらい。そんな差を測れる時計を、島津製作所が2025年に売り出してる。体積250リットル、お値段は税込5億円から。さすがに腕時計にはならないな。 まとめ 熱するイメージの強いレーザーですが、色をほんの少しずらして原子に当てると、動きにブレーキをかけて絶対零度の近くまで冷やせます。コメント欄では「蒸発させる仕組み」という誤解に総ツッコミが入り、テニスボールやコーヒーのたとえで説明し合う流れに。GPUを冷やす夢はかないそうにありませんが、冷やした原子は日本生まれの光格子時計の主役として、スカイツリーで相対性理論まで確かめています。 元ソース: レーザーは物を熱するイメージが強いが、冷やすことにも使え、原子や分子を絶対零度近くまで冷やせると今日知った 投稿 「レーザーで、原子を絶対零度近くまで冷やせる」熱するはずの光がブレーキになる仕組みと、スカイツリーで相対性理論を確かめた日本の時計 は みんな知ってた?【海外の反応】 に最初に表示されました。…