「牛肉1ポンドを瓶に入れ、水と塩酸4滴を注いで、氷の上に12時間」。120年ほど前のアメリカの料理書に、こんな手順で作る「生牛肉のスープ」が載っていました。海外の掲示板で話題になったこの一品、調べてみると思いつきの珍料理ではなく、当時の医師が患者に出していた処方とよく似たものでした。 ※注:この記事で紹介するのは120年ほど前のレシピの記録です。肉を十分に加熱しないため、現在の食品衛生の基準では安全とは言えず、再現すべきものではありません。 今日の知ってた? 🥩 1903年にニューヨークで出版された料理書『Cooking in Old Créole Days』(セレスティーヌ・ユースティス著)に、「生牛肉のスープ(Raw Beef Soup)」というレシピが載っている。 🧊 材料は牛肉1ポンド(約450g)、水4オンス(約120ml)、塩酸4滴。ふたを閉めた瓶を氷の上に12時間置き、湯せんに1時間かけてから布で搾り、その汁をもう一度氷で冷やして飲む。 🩺 この本に序文を寄せた医師サイラス・ウィアー・ミッチェルは、1877年の著書で、よく似た手順の「生のスープ」を患者の食事として処方していた。 ⚠️ 肉を十分に加熱しないので、現在の食品衛生の基準では安全とは言えない。 背景:「生牛肉のスープ」とは 『Cooking in Old Créole Days』は、ガンボやジャンバラヤといったアメリカ南部ルイジアナのクレオール料理を集めた本で、英語とフランス語で書かれています。元スレのタイトルは「1904年の料理書」としていますが、米議会図書館が所蔵する本の著作権表示は1903年で、同じ年の2月の受入印が押されています。 問題のレシピは25ページにあります。全文を訳すと、こうなります。 牛肉(原文は chipped beef)1ポンド。保存用の瓶に入れ、水4オンスと塩酸4滴を注ぐ。ふたを固く閉めて振り、氷の上に12時間置く。次に、冷水を張った鍋に瓶ごと入れて火にかけ、湯が熱くなるまで1時間おく。中身を布で搾って漉し、冷えるまで氷の上に置く。氷から下ろして10分おいてから出す。塩は好みで。 本の中に「病人向け」といった見出しはありません。ただ、同じページに並んでいるのは、ゆでた鶏を骨ごとすり鉢でつぶして裏ごしし「一日を通して少しずつ摂ること」と添えられた「チキン・パナード」、チキンブロス、そして「患者の好みに合わせて味をつける」と書かれたビーフティー。体の弱った人に滋養をつけさせる料理が集まった一角です。 序文を寄せたのは、フィラデルフィアの医師サイラス・ウィアー・ミッチェル。神経の衰弱した患者をベッドで安静にさせ、牛乳を中心にたっぷり食べさせる「安静療法」で知られた人物です。1877年の著書『Fat and Blood』には、治療を始めて1週間たったころに加える「生のスープ」の作り方が書かれています。生の牛肉1ポンドを刻み、水1パイント(約470ml)と濃い塩酸5滴とともに瓶に入れて、一晩氷の上に置く。翌朝、華氏110度(約43℃)の湯に瓶を2時間つけ、丈夫な布で搾る。漉した汁は1日3回に分けて飲ませる。料理書のレシピとよく似ています。 もう少し詳しく 肉は生だったのか。料理書の原文は「chipped beef」です。現代のアメリカでこの言葉は、塩漬けにして乾燥させた牛肉の薄切り(保存食)を指すため、元スレでは「生肉ではなく加工肉のはずだ」という指摘が出ました。原文の chipped が「薄く削いだ」という意味なのか、保存食のほうなのか、料理書だけでは断定できません。ただ、料理名が「生牛肉のスープ」であること、最後に「塩は好みで」と添えられていること、ミッチェルの処方が「生の牛肉を刻む」と明記していることは、手がかりになります。 なぜ塩酸を入れたのか。レシピの「muriatic acid」は塩酸の古い呼び名で、胃液に含まれる酸も塩酸です。当時の医療では、薄めた塩酸が薬として使われていました。米国の医薬品便覧には、胃液の酸が足りない胃の病気に、水で薄めたものを食後に飲ませる、と書かれています。消化の弱った人のために、消化に使われる酸をあらかじめ加えておく、という考え方がうかがえます。 半世紀前にも、よく似たレシピがある。1854年、ドイツの化学者ユストゥス・フォン・リービッヒが「病人のための新しい肉スープ」という短い報告を化学の専門誌に発表しました。屠ったばかりの牛か鶏の肉を細かく刻み、塩酸4滴と少量の食塩を加えた蒸留水と混ぜて、1時間後に圧をかけずに漉す。できあがった赤い液体は冷たいまま飲ませ、温めてはいけない。温めると濁って、肉のたんぱく質と血の色素が固まってしまうからだ、と説明しています。きっかけは、自宅にいた18歳の女性がチフスにかかったこと。かかりつけの医師から、この病気では消化の衰えが大きな難題になると聞いて考えたそうです。リービッヒは「患者がこのスープを嫌がらずに飲むのは、たいてい病気の間だけ」とも書き残しています。 飢餓からの回復食とは別の話。元スレでいちばん伸びたのは「リフィーディング症候群」の話題でした。長く飢餓状態にあった人が急に栄養をとると、血液中のリンやカリウム、マグネシウムが急に足りなくなり、不整脈などを起こして命に関わる状態です。ただし、これが病気として研究されるようになったのは第二次世界大戦のあと。料理書のスープは消化の弱った人に滋養をつけるための食事で、この症候群を防ぐために考えられたものではありません。 現在の基準で見ると。厚生労働省は、食肉は中心部を75℃で1分間以上加熱するよう呼びかけています。ミッチェルの処方にある約43℃は体温より少し高い程度で、加熱殺菌にはなりません。リービッヒ自身も、暑い時期は傷みやすいので氷で冷やすこと、肉は必ず新鮮なものを使うこと、と注意を書いていました。当時の記録として読むにとどめ、再現はしないでください。 海外の反応 1. 海外の名無しさん つまり牛肉版のセビーチェってことだな。肉を酸に漬けるという点では同じ。あっちはライムの果汁、こっちは塩酸というだけで。 ※ セビーチェ:生の魚介をライムなどの柑橘の果汁で締める、ペルーなど中南米の料理。 2. 海外の名無しさん(>>1への返信) いやいや、セビーチェは身を食べるだろ。こっちは搾った汁だけを飲むんだから、どちらかというと“吐いた物のジュース”だよ。昔は牛肉の汁だけを飲ませる「ビーフティー」という病人食もあって、これはその仲間。肉のたんぱく質を先に少し溶かしてある分、手が込んでる。 ※ ビーフティー:脂身を除いた牛肉から煮出した汁。この料理書の同じページにも作り方が載っている。 3. 海外の名無しさん(>>2への返信) 溶けるところまではいってないと思う。水4オンスに4滴なら、胃酸よりずっと薄いよ。心配するとしたら酸そのものより、薬品に混ざった不純物と、口に長く含んだときの歯のエナメル質のほうだね。 4. 海外の名無しさん 水っぽい……でも、ほんのりハムの風味。想像しただけで、今日の夕飯の味が分からなくなりそうだ。 5. 海外の名無しさん みんな生肉だと思って話してるけど、たぶん勘違いだよ。「チップドビーフ」は、想像されているような生肉じゃなくて、塩漬けにして乾燥させた加工肉なんだ。缶や瓶からそのまま食べられるけど、とんでもなくしょっぱい。塩気の強い、香辛料抜きのサラミみたいなもの。それに塩酸は毒というわけじゃなく、濃いと物を腐食するというだけ。この量に4滴なら、レモンを軽く搾ったのと大差ない酸っぱさだと思う。 6. 海外の名無しさん(>>5への返信) 自分も最初はそう思ったけど、料理名がそもそも「生牛肉のスープ」なんだよね。しかも最後に「塩は好みで」と書いてある。塩漬け肉なら、わざわざ塩を足せとは言わない気がする。ここでいう chipped は「薄く削いだ」くらいの意味じゃないかな。 7. 海外の名無しさん(>>5への返信) やっと落ち着いた意見が出てきた。しょっぱそう、まずそう、までは完全に同意。ちなみに同じ本ですぐ上に載っているのは、ゆでた鶏を“骨ごと”すり鉢でつぶして裏ごしする料理。この時代の病人食は全体的に容赦がない。 8. 海外の名無しさん 元の手順を読むと、氷の上に12時間置いたあとで、湯せんに1時間かける工程がある。でも、それで安全になるわけじゃない。体が弱っている人に出すと思うとなおさらだ。自分は風邪をひいたら、おとなしく市販の風邪薬を飲むことにするよ。 9. 海外の名無しさん(>>8への返信) 同じ頃には、断食で病気が治ると説く医者がいたり、痩せるためにサナダムシを飲んだ女性がいたなんて話もあるくらいだから、健康法が全体的に手探りだったんだろうね。 ※ 20世紀初めのアメリカには、断食で病気が治ると唱えて本を出した医師が実際にいた。一方、サナダムシを使った痩身法は、当時の広告とともに語られることが多いものの、実際にどの程度行われたかは、はっきりしていない。 10. 海外の名無しさん これ、長いこと飢餓状態だった人に出す食事に似てる。そういう人には、あらかじめ半分消化したような形のものを与えないと、リフィーディング症候群という危険な状態を招くらしい。このスープも、ただの病人というより、慢性的に栄養が足りずにやせ衰えた人のためのものだったんじゃないかな。 11. 海外の名無しさん(>>10への返信) 昔『バンド・オブ・ブラザース』で見た場面を思い出した。強制収容所を解放した兵士たちが、収容されていた人たちに自分の携帯食を配ろうとする。そこへ軍医が来て「やめろ」と止めるんだ。固形の食べ物は命取りになりかねないから。収容されていた人たちはもちろん、助けたい一心なのに何もできない兵士たちも、見ていてつらかった。 ※ 『バンド・オブ・ブラザース』:第二次世界大戦の米軍空挺部隊を描いた、2001年のアメリカのテレビドラマ。この場面は第9話に出てくる。 12. 海外の名無しさん(>>11への返信) ちょうど昨夜、その回を初めて見たところ。ドイツ語のできるリーブゴットが「今は食べ物を渡せない、ここに留まってくれ」と伝える役を任されて、そのあと泣き崩れる場面がこたえた。すごいドラマだよ。 13. 海外の名無しさん(>>10への返信) 細かいけど、それはリフィーディング症候群の説明としては少し違う。あれは消化のしやすさの問題じゃない。飢餓が続くと、体の中のカリウムやリン、マグネシウムの蓄えが減っていく。そこへ食事が入って血糖が上がると、残りわずかな蓄えが一気に使われて、心臓などに異常が出る。口から食べても点滴でも起きるんだ。消化のいい食事にするのは胃腸の負担を減らすためで、症候群への対策は、カロリーを絞りつつビタミンやミネラルを補うことだよ。 14. 海外の名無しさん(>>11への返信) この流れで「収容所の解放直後に約1万4千人がリフィーディング症候群で亡くなった」と論文を貼っている人がいたけど、リンク先の論文にその数字は出てこないよ。出どころをたどると、ベルゲン・ベルゼン収容所で解放された約6万人のうち約1万3千人が解放後に亡くなった、という推計に行き着く。死因の内訳は書かれていないから、全員がそうだったとは言えない。 ※ ドイツ北部のベルゲン・ベルゼン強制収容所は、1945年4月15日に英軍が解放した。解放後も同じ年の6月末までに約1万3千〜1万4千人が亡くなったとされ、チフスなどの感染症と飢餓による衰弱が重なっていた。食事の再開が原因だった人の数は記録されていない。 15. 海外の名無しさん 飢餓状態の人をどう回復させるかを調べるために、アメリカは戦時中に「ミネソタ飢餓実験」というのをやってる。信念上の理由で戦闘に加わらない良心的兵役拒否者の中から志願者を募って、半年間計画的に食事を減らし、そのあと食事を戻していく過程を調べた研究だよ。 ※ ミネソタ飢餓実験:1944〜45年にミネソタ大学で行われた研究。生理学者アンセル・キーズが率い、36人の男性が参加した。 16. 海外の名無しさん(>>15への返信) 「1日1600キロカロリーくらいは食べていた」と聞くと、それで飢餓?と思う人が多いんだけど、もともと痩せ型の若者が、その倍くらいを消費する生活をしていたんだよね。献立もカブやパンが中心で、戦時下のヨーロッパを想定した質素なものだったそうだ。 17. 海外の名無しさん 医療の現場にいる者からすると、発想そのものは理解できる。今は鼻から胃に通した管で流動食を入れるのが標準で、栄養面ではそのほうが確実。ただ流動食は高いし、認知症やせん妄(意識が混乱した状態)のある患者さんは管を嫌がって抜いてしまうし、お腹に穴を開けて管を通す胃ろうは、手術の合併症が心配な人もいる。うちの国だと「何でも食べていい」か「管だけ」の二択になりがちで、その中間を段階的に踏む発想が足りないんだ。 18. 海外の名無しさん(>>17への返信) 飢餓状態からの回復なら、まさにその「段階」が肝心。最初はビタミン(とくにB群)とミネラルを補いながら、ごく少ないカロリーで始めて、血液の状態を確かめつつ数日かけて増やしていく。危ない時期を抜けてから、ようやくピーナッツペーストを使った栄養食のような高カロリーのものに進めるんだ。 19. 海外の名無しさん 塩酸と聞くとぎょっとするけど、胃液の酸がそもそも塩酸なんだよね。昔は薄めた塩酸が、胃酸の足りない人向けの薬として食後に出されていたそうだし。胃がやる仕事を、瓶の中で先に少し進めておこうという考えだったんだろう。 20. 海外の名無しさん そもそも火を通して料理するという行為自体が、消化の一部を体の外で前倒しでやっているようなものじゃない? 21. 海外の名無しさん(>>20への返信) そうとも言える。刻む、煮る、発酵させる、どれも栄養を取り込みやすくする下ごしらえだから。ただ、このスープがやろうとしていることに比べたら、普通の料理の「前倒し」はささやかなものだけどね。 22. 海外の名無しさん 序文を書いた医者が気になって調べたら、患者を何週間もベッドに寝かせて牛乳を大量に飲ませる「安静療法」で有名な人だった。その治療の献立に、ほぼ同じ「生のスープ」が入ってる。小説『黄色い壁紙』の元になった、あの療法だよ。 ※ 『黄色い壁紙』:1892年に発表されたアメリカの短編小説。作者シャーロット・パーキンス・ギルマンは1887年にミッチェルの安静療法を受けており、その体験が下敷きになっている。 23. 海外の名無しさん 日本人の友人に聞いたら、向こうでは具合が悪いとき、米を多めの水でやわらかく煮た「おかゆ」を食べるそうだ。うちで言うチキンスープの立ち位置だね。どちらも、酸に漬けた肉の汁よりはずっと穏やかでいい。 24. 海外の名無しさん(>>23への返信) 病人食は国ごとに違うのに、「温かくて、やわらかくて、胃にやさしい」はだいたい共通しているのが面白い。その中で、これだけ冷やして飲ませるのが異色だね。半世紀前のよく似たレシピには、温めると肉のたんぱく質が固まって濁るから、と理由が書いてあるそうだけど。 25. 海外の名無しさん(>>24への返信) そのレシピを書いた化学者本人が「患者が嫌がらずに飲むのは、たいてい病気の間だけ」と書き残しているのが正直でいい。つまり、これを「もう飲みたくない」と思えたら、回復してきた証拠ってことだ。 まとめ 120年ほど前の料理書に載っていた「生牛肉のスープ」は、突飛な珍料理ではなく、当時の医師が患者に出していた処方とよく似た滋養食でした。さらにさかのぼると、19世紀半ばのドイツの化学者が病人のために考えた冷たい肉スープにも、同じ「塩酸4滴」が出てきます。コメント欄は、セビーチェになぞらえる声、肉の種類をめぐる冷静な指摘、飢餓からの回復食の話、医療の現場からの意見と、にぎやかに広がりました。現在の食品衛生の基準では安全とは言えないレシピなので、当時の記録として眺めるだけにしておくのがよさそうです。 元ソース: 今日知った話:1904年の料理書に「生牛肉のスープ」というレシピが載っていた。牛肉と塩酸と水を氷の上で12時間冷やし、冷たいまま飲む。滋養を必要とする病人のための料理だった The post 「牛肉1ポンドに水と塩酸4滴、氷の上で12時間」約120年前のアメリカの料理書に載っていた“生牛肉のスープ”は誰のための料理だった…? appeared first on みんな知ってた?【海外の反応】.…