
脆弱型ナルシシズム(Vulnerable Narcissism)とは、ナルシシズム(自己愛性傾向)のサブタイプの一つで、誇大型ナルシシズム(Grandiose Narcissism)と対比される形で用いられる概念である。別名「隠れナルシシズム」「カバート・ナルシシズム」(Covert Narcissism)とも呼ばれる。脆弱型ナルシシズムは、自己重要感・特権意識・他者からの賞賛欲求といったナルシシズムの核心的特徴を有しながらも、それが外向的・派手な形で現れず、むしろ内向的・防御的・被害者的な形で表現される点が特徴である。表面上は自信がなく控えめに見えることが多いが、内面では強い優越感や他者への敵意・嫉妬を抱いており、自己肯定感の低さとプライドの高さの矛盾に苦しむ。この概念は1990年代以降のナルシシズム研究(特にWink 1991年の二因子モデル)で明確に区別されるようになり、現在ではパーソナリティ心理学や臨床心理学で広く用いられている。DSM-5の自己愛性パーソナリティ障害(NPD)診断基準自体には明示的に「脆弱型」という区分はないが、多くの臨床家・研究者がNPDの表現型の一つとして脆弱型を認識している。特徴脆弱型ナルシシズムの主な特徴は以下の通りである。脆い自尊心(Fragile self-esteem):表面的には自信が低く見えるが、実際には極端に傷つきやすく、ちょっとした批判や失敗で激しく動揺する。過敏性(Hypersensitivity):他者からの評価・批判に極端に敏感。無視や軽視を感じると強い羞恥・怒り・被害妄想が生じる。受動的攻撃性(Passive-aggressiveness):直接的な攻撃は避け、皮肉・無視・被害者ぶり・罪悪感の誘発などで間接的に他者を攻撃する。隠れた優越感(Covert grandiosity):内心では「自分は特別で賢い」「他人は浅はか」と感じているが、それを公に主張せず、むしろ「世の中が理解してくれない」と嘆く形で表現する。共感の欠如(Lack of empathy):他者の感情を理解する能力は低く、共感を示す場合でも自己中心的な目的(承認欲求の充足など)で用いる。回避的・引きこもり傾向:失敗や拒絶を恐れて社会的引きこもりや孤立を選びやすい。嫉妬・敵意:他者の成功を極端に妬み、貶しや陰口で対応する。被害者意識(Victim mentality):自分の不幸や失敗を常に他者や社会のせいにし、責任を回避する。外見上の態度誇大型ナルシシズム (Grandiose):自信満々・派手・自己主張強い脆弱型ナルシシズム (Vulnerable):控えめ・内気・自信なさげ自尊心誇大型ナルシシズム (Grandiose):表面的に安定・高い脆弱型ナルシシズム (Vulnerable):非常に不安定・低い攻撃性誇大型ナルシシズム (Grandiose):直接的・攻撃的脆弱型ナルシシズム (Vulnerable):受動的・間接的社会的振る舞い誇大型ナルシシズム (Grandiose):目立ちたがり・リーダー志向脆弱型ナルシシズム (Vulnerable):回避的・孤立しやすい批判への反応誇大型ナルシシズム (Grandiose):軽視・反撃脆弱型ナルシシズム (Vulnerable):激しい傷つき・引きこもり主な防衛機制誇大型ナルシシズム (Grandiose):自己顕示・他者貶し脆弱型ナルシシズム (Vulnerable):被害者ポジション・逃避両者は弱く正の相関を示す(つまり一部重なる人がいる)が、基本的には異なる次元として扱われる。…