元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/10/16(日) 23:28:40.91 :hzJqnGb6O 「私は85離れた世界から来たってこと」 その虚言を口にすることにさほど抵抗がなかったのはきっと、あの時の私が高校生で遅れてやってきた厨二病を煩っていたからに違いなく、ようするにあとから振り返ると悶えるほどに恥ずかしいのだけど、それでも一切後悔がないと言い切れるのは、間違いなく。 「たとえば、世界に100の君が居て、100の僕が居たとして、それぞれの世界でそれぞれの僕が和音のことを、愛している」 もしもそんなことを暦が本当に思っているとしたらそれはとても光栄で恥ずかしいことをした甲斐があるけれど、その論理が現実的ではない空想であることを私は理解している。 「85離れたあなたはきっと私のことなんて見向きもせずに、別の女に夢中よ」 「え、なんでそんなこと……」 「私たちの出会いは偶然ではなかったから」 暦と交際することになったきっかけは私が虚言を用いて強引に作った。だから私次第だ。 「100の私は100の暦を愛しているけど、100の私を愛してくれるのは、目の前の暦だけ」 うん。それは美しい。アクアマリンの指輪を眺めながら我ながら惚れ惚れする解を得た。 「多様性と画一性のジレンマ、か」 「選択によって世界が変化する際に本人の意思が大きな影響を与えることは他ならぬこの私が証明済み。ようするに」 もしも今、あの時のように私にポニテがあったなら。否。そんな並行世界なんて、ない。 「やったもん勝ちってわけ」 偶然なんて頼らない。男を選ぶのも髪を切るのも、そして息子に会いにいくのも。どの世界の私も自分で選んで決める。それだけだ。…